26. 人間と人間からの脱却
たとえば、私が好きだって言ったら、あなたはどうする?ずっと続けてきた仲の良い異性という枠を壊して、特別なひとりにしてくれますか?
出会ったときから距離は近かったように思う。それは友達として。どこか似ていた。一緒に過ごすことが全然苦じゃなくて、異性として意識することも全くなかったし、男と女ではなく、人間と人間という感覚だった。
でも、小さい子を見て笑う顔に父親になったあなたを想像してしまったのです。
「来週も会うでしょ?」
別れ際、そう決まって言うから、私はこの状況に満足していた。恋人という関係性じゃなくても、私があなたにいちばん近い人間なんだと思えたから。
だけど、もう、それでは満足できなくなってしまった。
あなたの特別なひとりになりたい。あなたのその腕に抱かれたい。あなたの子供を、子宮に宿したい。
「んー」
「どうしたの?何か予定ある?」
歯切れの悪い私に、あなたは不思議そうな顔をする。
「私たち、ってさ」
「ん?」
「どういう関係なの?」
私の言葉に、あなたの表情が変わる。
ついに引き金を引いてしまった。
「名前を付けるのが怖かったんだ」
「え?」
「美紅との関係に」
あなたは、唇をゆっくりと噛んでいるようだった。
「意識はずっとしてた。特別だと思ってた。美紅の隣は居心地が良かった」
「うん」
「だから、壊れるのも怖かった」
大切に思ってくれていることがわかって、私は息が吸えるようになる。
「ずっとこのままでもいいかなって思ってたけど」
「うん」
「美紅が不安なら、ちゃんと向き合うよ」
俺、言い方がずるいね、って苦笑するから、私はあなたの目をしっかりと見つめる。あなたの目には私だけが映っている。
「向き合って」
私と。私との関係と。私との未来と。私は欲張りだから、きっとあなたとの未来を欲しがってしまう。でも、それは悪いことじゃないと思う。
「始めようよ、私との新しい関係性」
新しい関係性に恋人という名前が付くまで、もう時間はいらないだろう。私たちは人間と人間から、男と女になる。
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