25. 私は傷付いてなんかいない

抱き締められれば、シャンプーの香りを感じることができる。

暦の上ではもう秋だけれど、まだ暑い日が続いていて外に出ればじんわりと汗を掻く。シャワーを浴びた光輝は首にタオルをかけたまま、私をぎゅっと抱き締める。短い髪は、乾き始めたようだった。

何故こうなっているかはわからない。


「光輝…?」

「彗ちゃんがいなくなったかと思った」

「え?あ、ああ…」


光輝は極度の寂しがり屋だ。人前ではそんな素振りを微塵も見せないけれど、私と二人の時間には寂しいという気持ちを隠すことはしない。それは光輝のお母さんが幼い光輝を置いてどこかに行ってしまったという過去が関係しているのかなとも思う。私は、光輝のお母さんじゃないのだけれど。


「ごめんね」


こんな狭いワンルームで姿を消す方が難しいと思うのだけれど、戻ってきたときにきっと私の姿が見えなかったのだろう。もしかしたら、外に出たと思ってしまったのかもしれない。


「俺を置いて、どこにも行かないでね」


気持ちが重くても、縛られていても、そんな光輝を好きになったのだ。生涯愛し続けるつもりでいる。殴られたり、罵られたりされるわけじゃない。私は、一切傷付いていない。

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