24. 頼りない俺でごめんね。でも、君が大好きなんだ

先輩カップルと鍋をすることになって、俺の部屋に集まった。メンバーは職場の先輩である秀青さんとその彼女の真央さん、それから俺の彼女の希生と俺だ。キッチンでは真央さんと希生が仲良く食材を準備していて、秀青さんと俺はスープが沸騰しないように鍋を見張っている。要するに、出番はほぼない。


「野菜準備できたよー」

「何から入れるべき?」

「肉?」

「きのこじゃない?」


みんな辛いのが平気だということなので、キムチ鍋。キムチの匂いが食欲を刺激してきて、もうお腹がなっている気がする。


「希生ちゃんもおいで」

「はーい。すぐ行きます」


キッチンに残っていた希生がちょこちょことこっちの部屋に来て、俺の隣に座る。座った。いや、また立ち上がった。


「希生?」


ぱたぱたとトイレに走って行ったので俺も追いかける。


「きもちわるいよぉ…」


背中を擦ってやれば、少しだけ吐いたようだった。秀青さんと真央さんの心配そうな声も聞こえる。


「希生ちゃん、大丈夫?」

「大丈夫、じゃないかもです」

「背中擦るの私でもいい?」

「ごめんなさい…」

「大輝くんは秀青のところに戻ってて」

「でも」

「大丈夫だから」


真央さんと交代して、俺は秀青さんのいる部屋に戻る。秀青さんは難しい顔をしながら、俺に手招きをする。表情が、とても怖い。


「回りくどいの嫌だから単刀直入に聞くけど」

「はい」

「ちゃんと避妊してた?」

「え?」


思わず希生と真央さんのいる方を見てしまったことは許してほしい。だって、希生の状態は、テレビドラマでよく見る、妊娠の兆候みたいだったから。


「確かにお前も希生ちゃんも社会人だよ。でも、まだ十八歳なんだ。まだ妊娠を望まないのならきちんと避妊をしないと…」

「それは…」


思わず口籠ってしまったのは、避妊をせずに性行為をしたことがあるからだ。盛り上がって、まだ子供のくせに、子供が欲しいなんて思って。でも、その気持ちは本物だし、希生と結婚したいとも思っている。


「大輝のためにも、希生ちゃんのためにも、な」

「はい…」


秀青さんにそう言われたところで、トイレのドアが開いて希生と真央さんが出てくる。希生の顔は少し青白い気がする。


「秀青、私たちは帰ろう」

「え?ああ、そうだな」


既にスイッチの切られたガスコンロ。二人は荷物を手に持つ。


「しっかり二人で話してね」

「真央さん…」

「大丈夫。大輝くんなら、希生ちゃんのこと、ちゃんと守ってくれる」


またね、と笑った真央さんと、難しい顔の直らなかった秀青さん。ドアが閉まって二人の姿が見えなくなれば、希生の瞳が不安げに揺れた。


「希生」

「大輝、あのね」


希生がゆっくりと言葉を紡ぐ。


「生理が、遅れてて」

「うん」

「もしかしたら赤ちゃんできてるかもって思ってて」

「うん」

「でも、大輝に言えなくて」


大輝も私も社会人一年目だもん、って泣き始めた希生のことを、正面からぎゅっと抱き締める。ごめんね、ひとりで抱え込ませて。ごめんね、頼りない俺で。


「ねえ、私、どうしたらいいのかな?嬉しいのに、大好きな大輝の赤ちゃん、嬉しいのに」


何と言葉にしたら、俺の考えていることが真っ直ぐに希生に届くのだろう。こういうとき、口下手な自分が嫌になる。俺だって、希生が大好きで、結婚だって考えていて、でもそれを伝えたことはなかったかもしれない。


「頼りないかもしれないけど、俺がちゃんと守る」

「大輝」

「苦労もさせちゃうかもしれない。でも、死ぬ気で働くから」


だから、俺のお嫁さんになってください。


「大輝…っ」


泣きながら何度も頷く希生の頭を優しく撫でて、頬に伝う涙を指で拭って。


「大好き」

「俺も」


俺は、一生をかけて、希生を幸せにするからね。

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