22. 天秤
好きだって自覚したら、止まらなかった。たとえ香央が親友の好きな人だったとしても。
仕事柄、親友と俺は同じ寮に入っていて、香央は職場繋がりの一歳年上の女性だった。同じタイミングで香央に出会って、先に好きになったのは親友である秀青の方だった。俺、香央さんのことを好きになった、そう俺に教えてくれた秀青の表情は少し恥ずかしそうで、でも純粋に嬉しかった。はずだった。秀青の恋を応援していたし、俺に出会いが皆無なわけでもない。それなのに、好きだって思ってしまったんだ。
「秀青」
「ん?」
「俺さ」
「好きなんだろ、香央さんのこと」
午後十時、いつものように秀青の部屋で過ごす。仲良くなったときからこの習慣はずっと変わらず、お互いに仕事の愚痴やそれこそ恋の話なんかもしてきた。秀青に自分の気持ちを言おうと思ったのは、もう隠しきれないと思ったからだ。秀青にも、香央にも。
「気付いてたよ。匠真が香央さんのこと好きだって。いつ言ってくるんだろうって思ってた」
「マジか」
「あと、俺に気を遣ってるのかなって思うと少し悔しかった」
「え?」
「恋愛の拗れで不仲になると思われてるのかなって」
その考えは少しあった。香央へ対する好きという気持ちと秀青とずっと仲良くやっていきたいという気持ちをずっと天秤にかけていた。でも、その天秤はずっと動かず、どちらに傾くこともしなかった。
「俺は香央さんがどっちを選んでも、ううん、俺たちじゃなくて他の人を選ぶ可能性だってあるし、どうなっても匠真とは親友でありたいと思ってるよ」
情熱の匠真と理論の秀青、俺たちは職場で先輩方からそう呼ばれている。入社してからずっと一緒に仕事をしてきて秀青のその冷静なところには何度も助けられてきたし、俺だって秀青を助けることができた面だってあると思う。でも、今、秀青のそのクールな部分を見せつけられるだなんて。俺だって、少し悔しい。
「正々堂々勝負しよう。どちらの恋が実っても恨まない」
「ありがとう。もちろんだよ」
秀青の恋が実っても、俺の恋が実ることになっても、俺たちの仲は変わることがない。祝福する未来か、祝福される未来か、それは今の段階ではわからないけれど、俺は俺らしく香央に気持ちをぶつけていこうと思う。
人は、自分の心に天秤を持っている。香央の天秤は、秀青と俺、どちらに傾くのだろうか。
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