21. 年下彼氏

泰佑に告白されたとき、私はきっと間抜けな顔をしていたと思う。

泰佑と一緒にいるのは楽しかった。泰佑が二十歳になって、一緒に飲んだりすることができるようになって。でも、泰佑にとっての私って、そういうもの、恋愛対象ではなく、言うならばお姉さんみたいな立ち位置なんだと思っていた。

忘れもしない、九月二十四日。まだまだ暑い日だった。



七瀬、そう呼ぶようになった泰佑は、私といて未だに顔を赤くすることがある。赤面症なの?、って聞いたら、いや、七瀬といるとドキドキするから、って言われた。その発言に私の顔も赤くなったのは言うまでもないだろう。


「今日何食べたい?」

「炒飯と餃子」

「即答だね」

「聞かれると思って、スーパーに入る前から考えてたから」


二人のオフが被って、今日はおうちデートだった。夕方になって、お腹空いたね、って近所のスーパーに買い物に来た。食欲に忠実なのです。忠実なのは食欲だけじゃないけれど。


「餃子包みたい?」

「今から?面倒だから包んだのでいいよ」


カートを押してくれる泰佑の顔をじっと見る。泰佑も私の方を見てくれて視線が合う。

付き合う前、付き合い始めくらいまでは、泰佑の方が私の方をじっと見てきていたように思う。半年と少しお付き合いをして、それが減ったのは慣れなのかもしれない。少し寂しい。でも、泰佑が私を見るときは何か言いたいことがあったときだったみたいだから、今は自分の言いたいことが言えてる証拠なのかもしれないなとも思う。それは嬉しいことだ。

チルドの餃子と、炒飯の素をかごに入れ、ビールを選びに行く。泰佑にもお気に入りのメーカーがあるようで、買うビールが決まっている。


「これ」

「私はどれにしようかな」

「七瀬さあ」

「ん?」

「がっつりビール飲む気の俺が言う台詞じゃないけどさあ…、そろそろノンアルにするのも考えてくれてもいいんじゃない?」

「え、それってどういう…」


普通のビールの缶を手に取ろうとしていた私は手を止める。慌てて泰佑の方を向けば、真面目な顔をしていて、少し、顔が赤くなっていた。


「家族計画、とか」


小声で、恥ずかしそうにそう呟くのが、もう、本当に可愛くて、愛しくて。私の方は思わず緩んでしまった。


「俺は、結構本気で言ってる」

「嬉しい。ありがとう」


カートの持ち手を握り締めてる泰佑の手に、自分の手を重ねる。

真面目な泰佑は、ちゃんと私との未来を考えてくれていたんだね。まだ若いから、縛り付けたくなくて、そういう気持ちを出さないようにしていた。

ノンアルコール商品を手に取る。

泰佑に見せれば、恥ずかしそうな顔をしていたのが少し綻んで、泰佑も笑っている。

きっと、泰佑はいいパパになってくれる。そんな想像をすることがが許されるのは、私だけだ。

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