15. 卒業の日
俺は今日、高校を卒業する。中高一貫校だったせいで、見る顔は六年間同じだったけれど、その分みんなと仲良くなれたと思う。俺は基本的に社交性があったので話したことのない人はいない、くらいの勢いだ。
教室でクラスメイトが泣いたり笑ったりしながら別れを惜しんでいる。今日はみんな、感情の忙しい日だ。
「旭」
俺に声をかけてきたのは、菜音。クラスがずっと一緒だった女の子。成績が同じくらいで、お互いにライバルとして意識していたと思う。もっとも、俺の意識はライバルとして、だけではなかったけれど。菜音はもう進学先が決まっている。名の通った、女子大だ。
「大学には菜音というライバルがいないと思うと少し寂しいよ」
「旭はすぐ友達できるから、すぐライバルもできるんじゃない?」
「そんな俺との別れをあっさりと」
「今生の別れじゃないじゃない。連絡先知ってるし」
ふふっと笑った菜音の目も赤い。
「そうだ、菜音」
「ん?」
俺は学ランの第二ボタンを引きちぎる。その様子を見て菜音は少し驚いた顔をしていた。そして俺は、外れたボタンを菜音の手に握らせる。
「これ、貰ってほしい」
「え?私が貰っていいの?旭の第二ボタン」
「うん。俺と一緒に頑張ってくれたから。渡すなら菜音しか考えられない」
「それって」
菜音の反応に俺まで顔が赤くなる。これじゃまるで、告白したみたいじゃないか。でも、言うなら今なのかもしれない。
俺は菜音の耳元に唇を近付けて。他の誰にも聞こえないように。
「俺は菜音が好きだよ」
そう告げた。俺の言葉に菜音は目にいっぱい涙を浮かべて。何度も、何度も頷いた。そして、俺にぎゅうっと抱き付く。周りが少しざわついた気がしたけれど、今日はこの教室で過ごす最後の日なんだ。大目に見てほしい。
菜音のセーラー服のスカートが春の空気を孕んでふわりと膨らむ。
今までありがとう。これからもよろしくね。
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