12. それが恋だと思うのです

優迅と手を繋ぐと、心がほわほわとあたたかくなる。反対に、心臓はドキドキしてしまって苦しい。しかし、それが恋なのだと思うのです。

一歳だけ年上の優迅は、高校生になって急にかっこよくなった、気がする。これは恋は盲目というやつなのかもしれないけれど。わたしに優しいのは幼い頃からずっと同じだけれど、急に大人になってしまった気がする。もうすぐわたしも高校生になる。楽しみの方が多いけれど、優迅のように大人になれるのか不安な気持ちも少し。優迅。わたしを置いて行かないで。


「じゃあね、優迅くん」


祖父のおつかいで優迅の家へ急ぐ。優迅のおじいさまに大事な書類を届けてほしいと言われた。今の時代、手段なんていくらでもあるのに。でも、お小遣いももらえるし、優迅にも会えるからわたしは嬉しかった。一応、嫌そうな素振りは見せておいたけれど。

もうすぐ優迅のお家、というところで、知らない女の子の優迅くん、という声が聞こえた。隠れなくてもよかったのだろうけれど、先に進めなくて。その女の子がわたしと擦れ違うまで動けなかった。背の高い、いい匂いのする、お姉さんだった。

誰?今のお姉さんは誰?優迅とどういう関係なの?

一人前に醜い嫉妬をしてしまって、泣きそう。わたしは優迅の許婚。堂々としていればいいと思う。でも、お姉さんよりも自分の方が魅力的だなんて思えない。

優迅はわたしが来たことに気付かず、家に入って行った。わたしは何も知らないふりをして、インターホンを押さなければならない。優迅の前で、笑顔を作らなければならない。中学三年生のわたしには、それはとても難しい。

インターホンを押す。自分の名前を言う。そして、祖父からおじいさまへお届け物に来たことを伝える。迎えに来てくれたのは、優迅だった。


「ありがとう。寒かったでしょ。温かいものを飲んで帰りなよ」

「うん」


書類の入った封筒を手渡す。おじいさまへは優迅がきちんと渡してくれるだろう。わたしのおつかいはここまで。ここからは優迅に会いに来た、わたしの時間。


「はる、元気ないね。どうした?」

「んーん」


わたしは首を横に振る。気付かれちゃいけない。さっき見てしまったこと。それから、嫉妬していること。

そんなわたしのきもちを知ってか知らずか、優迅はわたしの頭を撫でる。


「俺には何でも話す約束だろ?」


わたしに視線を合わせて、わたしの目をしっかりと見て。こんなに優しい優迅なのに、わたしのことを大事にしてくれるのに、わたしは勝手に勘違いをしてしまって、ひとりで嫉妬して、ぐるぐるぐるぐる。


「優迅」

「ん?」

「さっきのお姉さん、誰?」

「ああ、見てたの。小学校のときの同級生だよ」


さらりと言う優迅の言葉は、きっと嘘じゃない。


「大人っぽくて、綺麗な人だった」

「性格は男勝りだけどね」

「わたし、優迅は、わたしでいいのかな、って思って」

「だから悲しそうな顔してたの?」


優迅がわたしを強く抱き締める。


「はるでいいんじゃない、はるがいいんだよ。かわいい、俺の大事な許婚。確かにおじいさまたちが決めた縁だ。でも、俺ははるじゃなきゃ嫌だよ」

「んー」

「はるしか好きになれない」


わたしの顔を見て、真摯に伝えてくれるから、わたしは頷くしかできない。わたしも、わたしも優迅が大好きだから。


「すき。だいすき」

「俺もだよ、愛しい人」


優しく重ねてくれた唇から優迅の気持ちが届く。

嬉しかったり楽しかったり、悲しかったり寂しかったり。たくさんの感情が日々身体中を巡る。時に痛かったりもするけれど、それが恋。わたしは、それが恋だと思うのです。

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