5. 会いたかった

学校がお休みの日。優迅を驚かせようと、優迅には内緒でおうちにお邪魔することにした。もちろん、優迅のパパとママの許可は得ている。わたしのママから、優迅のママに連絡をしてもらった。わたしのママは、ご迷惑にならないかしら、と心配していたけれど、優迅のママが、一緒に優迅を驚かせちゃいましょうね、と乗り気になってくれたので、安心してお邪魔することにした。

午後一時半、優迅のおうちに着いてインターホンを押すと、優迅のママが慌てた様子でドアを開けてくれた。


「陽優ちゃん」

「こんにちは。ご機嫌いかがですか?」

「こんにちは。せっかく遊びに来てくれたのに、優迅、さっき出かけてしまったの。内緒って約束だから、パパも私も言えなくて」

「そう、なんですね…」


作戦失敗。優迅に会いたいときは、きちんと優迅に連絡するべきだった。気持ちがしゅん、となる。


「陽優ちゃん、そんな悲しい顔しないで?」

「ごめんなさい」

「そうね。一緒に待ってる?優迅も、すぐに帰ってくるわよ」


優迅のママの提案に、少し考える。優迅のおうちにお邪魔するときは、いつも優迅が一緒だ。


「寒い中来てくれたんだし、紅茶を飲んで帰ったらいいわ。パパも喜ぶ」

「お邪魔にならなければ…」

「邪魔なんてそんなことないわよ。優迅の、未来のお嫁さんだもの」


ふふ、と笑う優迅のママはとても綺麗だ。


「さあ、どうぞ」

「ありがとうございます。お邪魔します」


優迅のおうちにお邪魔する。靴をきちんと揃えて、まずは優迅のパパにご挨拶。


「おじさま、こんにちは、お邪魔します」

「ああ、陽優ちゃん。優迅が出かけてしまってごめんね」

「私も内緒で来たので。優迅さんにもやはりご都合があるでしょうし…。作戦失敗です」


優迅によく似ている、優しい笑顔の優迅のパパ。わたしのパパも贔屓目抜きでかっこいいと思うけれど、優迅のパパもとてもかっこいい。それでも、わたしの中でいちばんかっこいいのは、優迅なのだけれど。


「でも、優迅がいると、優迅が陽優ちゃんを独占してしまうから、たまにはおじさんとおばさんとお話ししてほしいな」

「そうなのよね。優迅ったら、独占欲強いのかしら」

「余裕のない男は嫌われるぞ、って言ってみよう」


優迅のパパとママが冗談を言って笑っていて。優迅がわたしを笑わせてくれるのも、ご両親の影響が大きいんだな、って思った。



優迅のママが注いでくれたミルクティーと、優迅のパパが仕事関係の方からもらったという外国のチョコレートまで出していただいて、三人でおしゃべりをする。

優迅のいない空間は少し緊張したけれど、とても優しくお話ししてくださって、とても楽しい時間だった。優迅の小さい頃のお話とか聞けたし。

でも、門限があるわたしは、もう帰らないといけなくて。優迅のパパが車で送ってくれると言ってくれたけれど、電車で帰ることを選んだ。


「陽優ちゃん、気をつけてね」

「ありがとうございます、おばさま。お邪魔しました」

「またいつでも来るといいよ」

「ありがとうございます、おじさま。失礼します」


手を振ってくれる二人に、ぺこ、っと頭を下げて、駅に向けて出発する。駅までは、歩いても十分くらいだ。

結局、優迅には会えなかった。会いたかったな、という思いが身体の中にたくさんある。そのくらい、わたしは優迅が好きだ。


「会いたかった、なあ…」


そう呟いても、いきなり優迅が現れてくれるはずもなく、いつも優迅があたためてくれる手のひらが、今日はとても冷たかった。

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