4. 優しいポテトサラダ
風が強く吹く。俺は、優しい紗名が好きだ。
「ただいま」
「ただいま戻りました。おばあちゃん、今日も外寒いよ」
「ゆうくん、さなちゃん、寒い中ありがとうね」
「今日はねえ、新じゃが売ってたよ。ポテトサラダ作ったらおいしいかも」
「さなちゃんはポテトサラダ好きなのかい?」
「好き」
「じゃあ、さなちゃんの分も作ろうかね」
「やったあ。おばあちゃん、ありがとう」
祖母の家の台所にスーパーで買ったものを入れた袋を置けば、がたん、と音がした。じゃがいもが床に当たった音だ。
紗名と俺がお付き合いを始めたのは半年前のことだ。それから今までの間に祖父が亡くなった。
祖父を心から愛していた祖母はショックからか外に出ることを少し嫌がるようになり、買い物も俺が休みの日にするようになった。
俺は祖父母に育てられたようなものだ。両親は忙しく、俺はよくこの家に預けられた。だから、この家で三人で暮らすことになんの戸惑いもなかったし、そうした方がいいとさえ思った。
俺は、両親より祖父母の方が好きだったから。
「さなちゃんが持ってきてくれた編み図のセーター、もうすぐ仕上がるよ」
「え、おばあちゃん早い!すごい!」
「セーター?」
「そう。さなちゃんが、新しい編み図を持ってきてくれてね。ハイカラな編み方で、ばあちゃんには少し難しかった」
「でもまだあんまり時間経ってないよ?さすがおばあちゃんだね」
要約すると、紗名が祖母のためにセーターの編み図を持ってきてくれて、それを祖母が一生懸命編んだ、ということだろう。
紗名が遊びに来てくれると、祖母は喜ぶ。
紗名は俺がいなくてもこの家に来て祖母の話し相手になってくれる優しい女性だ。祖母の通院の日に俺がどうしても仕事を休めなかったりすると、通院に付き添ってくれたりもする。本当に感謝してもしきれない。
「おばあちゃん、ポテトサラダの作り方教えて。おばあちゃんの味を教えてほしいなあ」
「ばあちゃんの味なんて覚えなくていいのに」
「ううん。ゆうくんはおばあちゃんの味で育ったでしょう?おばあちゃんの料理が優しい味だから、ゆうくんも優しいのかなって」
「なんだそれ」
「さなちゃんも優しい娘さん。早くゆうくんと一緒になって、ばあちゃんに曾孫を見せてほしいねえ」
女性二人の会話に、時々言葉を挟むけれど、二人の仲良しな雰囲気を壊すのも気が引ける。
「おばあちゃんには長生きしてもらわないと」
立ち上がろうとする祖母に手を貸してくれる紗名がそう言えば、祖母はふんわりと笑う。
祖母には長生きしてほしい。そして、紗名と俺が結婚して子供が生まれたら、その子を抱いてほしい。
外では風が強く吹く。俺は優しい紗名が好きだ。
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