3-5 林間地を出て街道へ
林間地を出て街道へたどり着いたころには、もうとっぷり日が暮れていた。ペルが呪文で作り出した鬼火の光を頼りに夜道を歩いていると、途中でデイモンに会った。
「おお、おまえたち無事だったか。心配したぞ」
デイモンの話によれば、翰林院の寄宿舎から門限を過ぎても帰ってこない修練生がいるとラクスフェルドの憲兵隊本部に通報があり、大勢でふたりのことを捜しているという。知らないところでたいへんなことになっていたようだ。口うるさい寮母の顔が思い浮かび、ペルは帰ったあとのことを考えて気が重くなった。
デイモンにことのあらましを話すと、案の定こってり絞られた。彼は若者に理解のあるご老体だが、こういうときはきびしいのだ。そうして、ふたりは彼の馬に乗ってラクスフェルド市街への帰途についた。
まったく、とんでもない一日だった。
「やれやれ。どうやらおまえたち、ちょっとした冒険をしてきたようだな」
馬の手綱を牽いて歩くデイモンが言う。
「冒険はあこがれるけど、あぶない目はもうごめんですよ。あのドラゴントータス、またこのあたりにもどってこないといいけど」
ペルは心底こりごりといった表情である。
「うむ。自警団としても、しばらくは見回りを強化せねばなるまいな。それにしてもレナ、おまえもよくやったぞ」
「うん、ほんとに。レナがいなかったら、どうなってたかわからないもんね」
ペルは自分の後ろにいるレナを振り返った。
「そんな、今日はわたしだけががんばったんじゃないよ」
慎ましいレナは、ほめられても決して図に乗ったりしないのである。そうして彼女は、自分が身体を預けているペルの背に向けて、
「ペルくんだって──あのとき、わたしを助けようとしたペルくん、すごくかっこよかったよ」
ぽつりとつぶやく。しかし、ペルにはよく聞こえなかったようだ。
「え、なんか言った?」
「ふえっ!? な、なんでも!」
レナはペルの背に顔をうずめると、急に恥ずかしくなったのか彼のローブを摑んでぐわんぐわんしはじめる。
「うわわ! レナ、そんなに引っ張ったらあぶないよ!」
ペルは体勢を崩し、あやうく落馬しそうになってしまう。
天然のにぶちんペルと、正統派ヒロインのレナ。初々しいふたりがラブコメの様式美を演じている。そんなふたりを見たデイモンは笑った。声を立てて、とても愉快そうに。
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