第4話
アルドは王からの「依頼」を確認したその足で、再びディアドラのもとへ向かう。王命で、自分とともに東方に行ってほしいとディアドラに伝えると、あからさまに警戒した表情のディアドラが腕組みをした。
「……私とアルドとで東方に? なんでまた」
ミグランス王の立てた「計画」では、アルドとディアドラ、あと数人の兵士が一緒に東方に渡り、ある「王からの依頼」をこなすことになっていた。それを伝え、東方の「ある場所」までディアドラを連れて行くのがアルドの役目だ。その計画の全容をあらかじめ聞いているとはいえ、むしろそうだからこそ、腹芸が大の苦手なアルドにはちょっと荷が重い気がしないでもない。あまりべらべら喋ってボロが出ないように、しかしなるべく自然に見えるように、アルドは慌てて答えた。
「いや! あの! そ、それが王様の依頼だから! ディアドラたちの道案内役でオレが抜擢された、みたいな感じで! ほらオレ、なにかと東方には縁があるしさ……!」
「……ふうん?」
用心深い性質のディアドラは、アルドのあからさまに怪しい様子に、まだ警戒を解いてはいないようだ。彼女もアルドの旅の仲間になってそれなりに経つが、だからこそ普段は良くも悪くも素直すぎるほどに言葉を口に出すアルドが、ここまで挙動不審になるからにはなにか「裏」があるのでは、と疑っているらしい。
「……まさか、東方のゲンシンとやらを暗殺してこい、みたいなものじゃないだろうな? 確かに、王の命令とあればやぶさかじゃないが——」
「そんなわけないだろ! もっと平和的な依頼だから安心してくれ!」
ディアドラの目の奥に一瞬光った昏い光を、アルドは見逃さなかった。彼女が傭兵時代にまとっていたような荒んだ空気を感じ取り、声のトーンをひとつ上げて必死に反論する。ミグランス王がそこまで好戦的な人物であると、勘違いされてしまってはたまらない。
「そうか、それならいいんだが……。ところでアルド。さっき私が頼んだ件に関してはどうなったんだ?」
「そ! それは……えっと……」
そこに関してのツッコミは予想していなかった。というより、王の「計画」を最後までバレずに実行することに脳のリソースを全力で傾けていたせいで、思わぬ方向からの「攻撃」に咄嗟に対応できなかった、と言うべきだろうか。明らかに慌てた様子を隠せないアルドの背中を、イヤな冷や汗がつつっと伝う。
(ああもう、だからオレにはこういう役目はあんまり向いてないぞって言ったのに……!)
よろしく頼んだぞ、とアルドに向けてサムズアップしてきた、王のいい笑顔が脳裏に浮かぶ。大切な仲間のディアドラとアナベルのためにひと肌脱ぐのは苦ではないとはいえ、アルドにはこういう時のアドリブ力が徹底的に欠けているのだ。普段はあまり使わない部分の脳みそをフル回転させて、アルドは必死で疑われず、かつ自然に見えるような言い訳を絞り出す。
「えーっと、あ! そのことなんだけど、アナベルに会いに行ったらちょうど、アナベルの方も王様からの依頼を受けてるところでさ! そっちも急ぎの仕事だったみたいだから、手伝いの話はそれが終わってから、ってことになったんだよ!」
——うまい嘘をつくコツは、本当のことの中に嘘を混ぜ込むことだという。実際それに効果はあったらしく、ディアドラはしどろもどろのアルドの言葉を一応信じてくれたようだ。
「……そうか。なら、こっちも早く仕事を済ませなくてはな」
「ああ! そうだな、すぐ行こう! ちゃっちゃと片付けよう! それがいいそうしよう!」
これ以上何かを聞かれては、どう考えてもボロが出る。そう悟ったアルドは慌てて城を飛び出した。
「あ、おい! ……まったく、忙しない奴だな……」
呆れたようにディアドラもその後を追う。幸いなことに、ディアドラはとりあえず文句も疑問も挟まずに、アルドにおとなしくついてきてくれるようだった。そのことにホッとしながらも、アルドはディアドラと兵士たち一行を引き連れ、目的地である紅葉街道の団子屋へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます