出会い
意識不明だった状態から目覚め、芋虫みたく体をよじらせ上半身を起こしていた時から一晩。まだ痛みは残っているが、動くこと自体はかなりできるようになってきた。
体が動くようになってきたことを考えれば必然というか、病室を出て外を見に行きたいと思い始めた。
私には名前の記憶が無かったのと同時に、今まで経験した全ての事柄の記憶が無くなっていた。
そもそも、本当に記憶喪失の状態なのか、はたまたもともと無いのかすらも私には一切分からない。
まぁ、もともと無いということは無いと思うのだけどね。
自分の中で、病院の外に出るということは、人生で始めて外に出るのと同じ感覚だと思う。
だからこそなのか、体が動くようになり外に出たいという気持ちがより一層高まっていた。
窓から外を覗いた限り、おそらくここは病院の二階。外にはきれいな原っぱが広がっていた。
私はなぜか原っぱに惹かれていた。 行きたいとは思わないけれど、行かなくてはならない。そう感じた。
私は自分にかかっている掛布団をどけてから、ベッドの下に置いてあった白いスリッパがを履き、ベットの手すりを支えにして立ち上がった。
立ち上がった瞬間、自分の足から完全に力が抜けて崩れ落ちてしまった。
それでも何とか立ち上がり、足に力を込める。
最初は不安定だったけれど、何回か座ったり立ったりを繰り返していくうちに、次第に安定して立てるようになっていった。
不安が完全にないとは言えないが、一応は安定して立てるようになったのでドアの手前まで行き、誰にも気づかれないよう細心の注意を払いながらゆっくりドアを開けてこっそりと外を覗いた。
別に罪悪感があるわけではないが、なぜか警戒をしなくてはならないと感じた。
外を覗くと外にはちょうど誰もいなかった。 私は良いタイミングだと思い、こっそりと病室から抜け出すことにした。
廊下の両側を確認すると、右側の3つのドアの向こうに下に通じていそうな階段があった。
下に行きたいと思った私は、壁についている手すりを上手に使いながら一歩ずつ歩き始めた。
ドアを3つ越えて階段まであと少しというところで、階段から私と同じくらいの身長の女の子が勢いよく飛び出してきた。
突然のことに、私は避ける事が出来ずに尻もちをついた。
「あっ、ごめんね」
女の子が倒れた私に気付いたのか、戻ってきて私に向かって手を差し出してくれた。
「大丈夫? 」
私は差し出された手を見つめた。
私は言葉を発する事が出来ずにありがとうという風にお辞儀をしてから、女の子の手をつかんで立ち上がった。
そこまでは良かった。
私は立ち上がり、ふと女の子の顔を見た途端、頭が何かで叩かれたように痛くなった。
立っていることも辛くなり、座り込んでしまう。
女の子が私に向かって何かを叫んでいるような気がしたが、私の耳には、言葉としては入ってこない。
どれくらいかは分からないけど少しして、誰かが走ってくるような音がしたような気がする。そして誰かが私を抱きかかえてくれた。
抱きかかえられながら消えゆく意識の中、最後に見た女の子は悲しみと困惑と怒りが入り混じったようなそんな顔をしている気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます