第36話 VRゲーム
「ふ〜……」
多分あれは、何となく察しているのだろうが、俺の事を考えてこの場を外してくれたのだろう。
まいったな……
朱音に治療してもらうつもりは全く無かったのに結果そうなってしまった。
そして俺は朱音に命を救われた。
本当は随分前に分かっていたのかもしれない。
朱音は俺の敵ではない。俺には敵として殺す事は出来ない。
スッキリとした部分と、妹達に誓った勇者を殺すという誓いを違えてしまっているという複雑な感情が自分の中で両方せめぎあっているが、もう俺の中で結論は出てしまっているのでどうしようもない。
いろいろと考えている間にお皿を洗い終えたのか朱音が戻って来た。
「朱音、今は何も答える事は出来ない」
「そうですか、わかりました。何かあればいつでも言ってくださいね」
「ああ……」
今回の様な事が起こらない様にポーションは常備しておく必要があるので、この後にでも購入しに行こうと思う。
これ以上は朱音に迷惑をかける事は出来ない。
「リュートさん、リュカさんというのは……」
「なんで朱音がその名前を!」
「すいません。リュートさんが寝言で名前を叫んでいたので」
「あ、ああ、それで。……妹だ。俺の妹の名前だ」
「そうなんですね……」
「俺の妹は、俺の一つ年下だったんだ」
「リュートさんは今おいくつなんですか?」
「十八歳だ」
「じゃあ妹さんは十七歳、今の私と同い年ですね」
「朱音は十七歳なんだな」
時々、リュカと朱音が重なって見える時があると思ったが、同い年だったのか。
「私、ここにくるまでは普通の一般人だったんです。高校っていう、学校に行ってたんです。それで、私達の世界にはモンスターとかもいなくて戦闘訓練なんか受けた事もなかったんですよ」
「そうなのか? 勇者は皆最初から強いのかと思っていたが」
「いえ、多分みんな同じです。剣の訓練を受けた人なんか一人もいないと思います。刃物を使って争った事も無いと思います」
「いや、それはないだろう。勇者達はモンスターだけじゃなく平気で人も殺めるんだぞ!」
「はい……。本当にごめんなさい。リュートさんには理解してもらえないかもしれないですけど、私達がいた世界にはVRゲームというのがあるんです」
「VRゲーム?」
「はい。遊びというか絵空事というか、まるで自分が物語の主人公になった様な感じで、モンスター達を倒して、自分中心にストーリーが進むんです」
「絵本の様なものか?」
「そうですね。絵本の世界に入り込んで自分が主人公になった感じです。ただ絵本と違って、お金を稼いだり、クエストをこなしたり、イベントがいっぱいあります」
朱音は何を俺に伝えたいのだろうか?
何と無く朱音の言っているVRゲームというのが、俺達の世界には無い見た事の無いものなのは分かる。
「私達は、そのVRゲームの世界で、モンスターを倒した事はあるんです。それで、ゲームの中ではお金を手に入れる手段の一つとして、その世界の人達の家の中を探してお金を得るというのがあるんです」
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