第37話 ゲームの中の世界
「ちょっと待ってくれ。どうして人の家からお金を勝手に持っていけるんだ? それは犯罪だろう」
「ゲームの中では犯罪という概念は無いんです。あくまでもゲームの設定。ゲームを進めるための手段の一つなので、誰もそれを問題にする事はありません」
「お金を取られた人は何も言わないのか?」
「はい。自分以外の人達はあくまでも絵本の中の登場人物に過ぎないので、感情とかは無いんです。あくまでもそこに登場するだけです。この人達をNPCと言います」
聞けば聞くほど無茶苦茶な話だな。ちょっと想像が出来ない。
「朱音、それはそのゲーム、絵本の様なものの中の話だよな」
「はい、そうです。常に自分が主人公のゲームです。自分の好きに出来て、自分が一番になれるゲームです。ゲームでは一般の人達に人格はありません。なので、人というよりもそこにいる物の様な感覚です」
「………」
「この世界はそのゲームの中に似ています。魔法が使えて、モンスターがいて、自分は桁違いの強さを与えられた勇者。私からするとこの世界は、現実の世界よりもゲームの世界に近いんです」
朱音は一体何を言ってるんだ? 魔法とモンスターがいるからここが絵本の中の世界? 意味がわからない。
「ちょっと待ってくれ。ここはその絵本の中の世界なんかじゃ無いぞ。俺達は生きているし、自我もある。生活だってあるんだぞ」
「もちろん分かっています。私も最初は、現実と虚構の区別がつきませんでしたが、この世界の方々に触れて話してすぐにこの世界は現実だと理解できました」
「当たり前だ! この世界は現実だ!」
「私も蒼花ちゃんもその事は分かっているつもりです。ただ他の勇者の中には、ゲームと区別のついていない人達がいるんです。いえ、区別はついていると思いますがゲームの主人公と自分を重ねて、同じ様な振る舞いをしていると言うべきかもしれません。中には還り方がわからず自暴自棄になってそういう風になる人もいるとは思います」
「という事はあれか? 勇者の奴らはこの世界をゲームとやらの虚構の世界に見立てて主人公の様に振る舞ってるって事か? しかも俺達の事は自我を持たないものの様に考えていると」
「多分そうです」
勇者にとってこの世界はゲームとやらと同様? 虚構の世界?
「………ふざけるな! ふざけるな〜! リュカもセリカも生きていたんだ! 絵本の絵じゃ無いんだ! 二人は……二人はあいつのせいで、全てを奪われ命を絶ったんだ。絶たれた命は絵本の様に繰り返す事も巻き戻すことも出来ないんだぞ!」
「本当にごめんなさい」
朱音に謝ってもらいたいわけじゃ無い。だが朱音の言っている事はあまりにも馬鹿げている。
「……すまない。別に朱音に言ってるんじゃないんだ。だが、そんなふざけた話納得が出来るはずないだろう。それにそのゲームの話が本当だとしても、普通なら朱音の様にこの世界が現実だと分かるはずだろう」
「多分、この異世界転移という特殊な環境で、冷静な判断能力が薄れてしまったのと、現実感の欠如。それと最初の頃に来た勇者がそういう流れというか雰囲気を作ってしまったことが全ての根源だと思います」
やはり、俺には朱音の言っている事が理解出来ない。
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