第6話 リウム 恋愛に夢中になる

豪勢な椅子に両足を組み頰を腕に乗せ、威厳たっぷりといった様子の魔王リウムの前に、真っ黒なローブを着た魔物が一体膝を付いて首(こうべ)を垂れている。


「頭を上げてよいぞ、アークウィザード。」


はっ!とその声に顔をあげれば、人型の端正な顔立ちをした男の姿が見れる。


此度こたびの『全神恋バナフェスティバル』にいい提案があるとの事だが?」


リウムの問いにアークウィザードは大きく頷き口を開いた。


「今回の魔王様の招集は恋愛に長けた者との事でござりまするが、拙者が意見したいのは恋愛の事ではありませぬ。」


些かその容姿には似つかない口調だが、リウムは気にしない事にした。


長い間生きた魔物で容姿と口調が釣り合っていない者などザラに居るのである。


「何?恋愛の事ではないだと?それならば一体何だと言うのだ。」


そのリウムの言葉に再度アークウィザードは頭を下げながら答えた。


「恐れながら魔王リウム様。恋愛の事ばかりに囚われ過ぎて一番始めに解決すべき、重大な問題を忘れられているのではござらぬか?」


その自分を叱咤しったするような言葉にリウムはイスの縁(ふち)を握っていた手に力が入る。ピキピキと壊れそうな音がイスから響く中リウムはさらにアークウィザードに問うた。


「ほぉ、我を前にそこまでいうか。よかろう。お前の話を聞こうではないか。それで?その解決する問題は一体何だというのだ?」


「それは、勇者を宿から連れ出す事にございまする。」


・・・。


確かにっ!!リウムは言われると同時心の中で激しく同意した。


何故そんな事を忘れてしまっていたのか!


『恋バナフェスティバル』といわれ、今までとは違う恋愛というテーマに気を取られてしまっていた為だろうか。確かに勇者が宿から出ない事には話にならない!


今回のフェスティバルは下ネタは厳禁なのだ。


ベッドの上での勇者の姿など使える訳がない。


宿から出てもらわければ、必死に作戦を考えて出会いを作ろうとしても、それを使う事も出来ない。


気が逸るばかりで失念していたのだ!


リウムは自分の過ちに気づき、アークウィザードに頭を下げた。


「すまぬなアークウィザード。我は先の事ばかり考えて、目の前にある問題に気付いていなかったらしい。忠言感謝する。」


そのリウムの言葉にアークウィザードは慌てた様子て首を横に振って返した。


「頭を上げてくださいリウム様!貴方が頭を下げる必要などありませぬ!拙者達、配下の魔物は魔王であるリウム様を補佐する事が務めにござります。当たり前の事をして礼を言われるなど、恥ずかしい事にござります!」


その言葉にリウムは顔を上げるとその顔に笑みを綻ばせた。


「そうまで言ってくれるかアークウィザード。我はお前のような配下を持てた事に感謝せねばならぬな。」


「もったいなきお言葉なござる。」


「お前の言った通り、勇者が外に出ぬのでは皆に意見を出してもらっても全て無駄になってしまうからな。勇者を外に連れ出す事は何よりも優先せねばならぬ。」


「はっ。その通りにございまする。」


「して、お前の考えた作戦を我に是非教えて欲しい。」


そのリウムの言葉にアークウィザードは大きく頷くとリウムの瞳を見つめて口を開いた。


「勇者が宿から出ないのは、その宿があるからにございまする。働かずともその仲間が料金を払いゴロゴロと生活するだけで良いのですから、外に出る理由もない訳ですな。」


「まぁ、そうだな。それで宿をどうするというのだ」


「はい、拙者アークウィザードは魔導の叡智を極めた者。この頭脳を必死に回し、確実に勇者を宿から連れ出す案を思いついたのでございまする!」


その頼もしいアークウィザードの言葉にリウムもぐいっと玉座から身を乗り出した。


「拙者か考えたその案とは。」


「その案とは?」


「勇者の泊まる宿に隕石を落としまする!!」


「・・・は??」


「拙者の持つこの膨大な魔力を使い、天に浮かぶ星を一つ呼び寄せ、勇者の泊まる宿に落とします!」


「・・・は??」


「腐っても勇者とその仲間。下手な魔法ではレジストされるかもしれませぬ。そこで隕石です。魔法で呼ぶとは言え隕石自体は只の小さな星。ある程度引きつけられば魔力をレジストされてもそのまま勇者の宿へと落ちて行くでしょう!」


コイツは何を言っているのだ?リウムの頭の中に疑問符がたくさん浮かんでは消えていく。


「お前、それ勇者死んじゃうんじゃないか?」


「そこら辺は分かりませぬが、まぁ勇者です。何とかするでしょう。」


「何とかするって、勇者はあのスライムにやられたのがきっかけで宿屋に籠っているんだぞ!?レベル1のままだぞ!?」


「勇者ですからな。秘めた力が目覚めるのではござらぬか?」


「ござらぬよっ!!アイツは宿屋でゴロゴロしてるんだ!ベッドで寝てる間に隕石落ちて来て、気付かないまま死ぬよ!!」


リウムの姿は威厳など消え去る様子で大声で叫ぶ。


「魔導の叡智で考えた結果がそれか!?お前ちゃんと考えたのか!?」


「拙者細かい事は嫌いでござる。」


「細かいとか、そういう話じゃないだろ!?」


「ブシドーとは生きるか、死ぬかの事にごさりますれば!」


「ブシドーって何だよ!お前の口調も気にしない様にしてたけど、やっぱり気になるわっ!」


「この口調は先生から教えられた、サムライの口調にこざります。」


「サムライ!?なんだそれ!?知らん事を知らん言葉で説明するな!!あーー、もういい!話にならん!勇者の隕石を落とす事はぜったいに許さんからな!」


捲くし立てるリウムに渋々といった様子で頭を下げその場を後にするアークウィザード。


その後ろ姿を憤慨(ふんがい)しながら見つめるリウムに黙って隣で話を聞いていたスリスが声をかけた。


「隕石も落ちず、話もオチませんでしたね。」


リウムは振り返って叫んだ。


「うるさいわ!!」

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