第7話 リウム とヘビさん

サムライかぶれのアークウィザードの提案は聞くに値しないものであったが、勇者を宿から出すという点だけは、無視できない話であった。


「スリス、計画を変更する。」


その言葉にスリスは首を傾けながらリウムに言葉を返す。


「変更ですか?恋愛イベントの発案募集はおやめになるので?」


「辞めはせぬが、あのアークウィザードの言う通り勇者が宿から出ぬようでは計画を練っても意味がない。勇者を宿から出す作戦を優先して考えるように皆に伝えよ!」


それもそうですね。とスリスは頷き


「畏(かしこ)まりました。」


と円卓の間を離れる。


配下の魔物に命令を伝えにいったのだろう。


「しかし、あの引きこもりを上手く外に出すことなぞ出来るものか・・・?」


リウムのその言葉の答えは女神アルテネでさえ分からないのかも知れない。



リウムがその命令を出してから次の日。


早々に一匹の魔物が円卓の間に登城してきた。


勇者を宿から連れだす案を考え付いたといち早く参上してくれたのだ。


その魔物はゴーゴン。美しい姿をしながらも、その髪に蛇を飼い、瞳に映したもの姿を石へと変える。


リウムの配下の魔物の中でも強力な力を持つ一体である。


「リウム様、ご尊顔拝謁そんがんはいえつの許可いただき誠にありがとうございますわ。」

丁寧にあいさつをするそのゴーゴン対するリウムの態度は他の配下を相手にする時よりも気安げだ。


「よい、よい。お前にそんな丁寧に挨拶などされては、空から何が降ってくるかわかったものじゃない。」


と玉座に座りながら手を横にプラプラと振る。


「えーー、折角円卓の間だからお姉さん頑張って挨拶したのにリウム様ひどーい。」


「小さいころから我の事をしっているのだ。今更そんなこと気にせんでいい。」


「リウム様は今でも小っちゃいけどね!!」


その言葉にリウムはジロリとゴーゴンを睨む。


けれど幼い頃からリウムの面倒を見てきたゴーゴンにとってはリウムの睨む顔など可愛い物の様で、ごめんね、とペロリと舌を出して謝る。


そんな、二人の様子を見ていたスリスはいつもより幾らか冷たい声でゴーゴンに向けて口を開いた。


「ゴーゴン?いくらリウム様が良いといっても礼節は必要ではありませんか?」


「あらぁ?スリスさん。いたんですかー?リウム様しか目に入りませんでしたー。」


「私はいつでもリウム様の側についておりますよ?と違って。」


二人の間にバチリと電流が走るようだった。


実はこの二人、物凄く仲が悪い。


犬猿の仲といってもいいだろう。


その関係はリウムの親である前魔王がリウムの補佐係を決める時から続いている。


今補佐係を務めているスリスは勿論の事、ゴーゴンもリウムの補佐に立候補した一人であった。


数多くの者が前魔王の出す試練に挑み、脱落していく中で、三人しか残らなかった最終候補にゴーゴンとリウムも残ったのである。


補佐に対する力量は三人とも申し分ない。


残る懸念は相性である、と前魔王は最終決断を幼いリウムに任せた。


ここに、ゴーゴンは自分の有利を感じていた。


リウムはゴーゴンの頭の蛇が大好きなのだ。


顔を出せばいつだって、


「へびさん、さわらせてほしい!!」


とゴーゴンに抱っこをせがんでくる。


他の二人も嫌われてはいないだろうが、私には敵わない!


そう踏んでいたのだが、スリスの手によってその夢はと脆くも崩れ去った。


賄賂だっ!奴は賄賂を使ったのだ!


今でもリウムが寝る時におしゃべりする、ウサギのぬいぐるみを渡して、スリスはその座を掴みとったのだ!


幼いリウム様を物で釣るなんて、なんて卑劣な女!


とゴーゴンは思ったが、頭のヘビに頼る辺りゴーゴンもそう変わらない。


このような経緯から二人の仲は最悪とも言えた。


ゴーゴンからすればスリスは自分からリウムを奪い去っていった卑怯な女。


スリスからすればゴーゴンは諦めの悪いリウムに馴れ馴れしい女。


相入れられる訳が無かった。


「リウム様ー?いつも、こんな女が側にいたんじゃ気が休まらないんじゃないですかー?話を聞けば盗撮までしてたらしいじゃないですかー?」


痛い所を突いてくるゴーゴンにスリスは苦い顔を浮かべる


「あー、まぁな?盗撮は我も許せんが、そのお陰で前回のフェスティバルで優勝出来た事も確かであるしなぁ。スリスも二度としないと、約束してくれたし、その事はもう良いのだ。スリスは我にとって必要な存在であるからな。」


『いまの聞きましたか?』とスリスは苦い顔を直ぐに取り消して自慢するようにゴーゴンを見る。


「ありがたいお言葉ですリウム様。で力を合わせましょう。」


なんて嫌な奴!!補佐係だからって、私に見せつけるようにして!!ゴーゴンはスリスを睨みつけた。


「まぁ、こんな話は良い。ゴーゴン勇者を外に連れ出す作戦を教えてくれ。」


ここよ!ここで私の有用さを見せてリウム様を私のモノにするのよ!


そしてドロドロになるまで可愛いがるの!


ゴーゴンはその頭のヘビがじっくりと時間を掛けて毒を仕込むのと同じように、リウムをたっぷりと愛でたかった。


けれど、他の魔物よりリウムも気安いとはいえ、用もなく円卓の間に顔を出すわけにも行かない。


ゴーゴンが最後にリウムに会うのは前回のフェスティバルが始まる前。


会いたくとも忙しく頑張っているリウムを考えて、邪魔になってはいけないと必死に我慢してきた。


自分がこんなに辛い思いをしているのに、スリスがいつもリウム様の可愛いお姿を眺めていると思えば、腹立たしくてたまらない。


ゴーゴンはその座を奪い取ってやると常に考えていた。


そしてついにチャンスはやって来た!


前回のフェスティバルではリウムが全面的に作戦を考えていたが、今度は違う。


配下の意見を取り入れてくれるのだ!


ようやく巡ってきたチャンスにゴーゴンはいても立ってもいられなくなり、こうして今リウムの前にいるのだった。



「どうした?ゴーゴン?早く教えてくれ。」


「ごめんなさーい。ちゃっと考えを纏めていたのー。」


「よい、それでその作戦とは?」


「はーい!私の作戦はー。」


作戦は?とリウムが相槌を入れる。


「勇者を石にしちゃう事でーす。」


「・・・まぁ、確かに勇者を石にしてしまえば、外に連れ出すことは出来るか。」


「でしょー?お姉さんいい考えでしょー?」


「しかしな、ゴーゴン、お前の石化は解けるのか?」


「解けるわけないじゃなーい。戻せたら意味ないしー。」


「そうだよな?我の勘違いじゃ無かったよな?」


「ええー、そうよ?」


「石の勇者に、どうやって、お前は恋愛させるつもりなんだ?」


「えぇーっと、割っちゃっえば戻るよー!」


「あぁ!死んでな!」


「でもー、勇者なんだから生き返らせればいいんじゃなーい?」


「生き返った勇者はその後どうする?『一回死んじゃったし、気を取り直して冒険だ!』となるか?」


「えーと、もしかしてなるかも?」


「ならぬわ!!あの勇者がそんなポジティブに考えれる奴ならそもそも引きこもっておらぬ!!


リウムに会う事を先行しすぎて作戦はおざなりな物と言わざるを得なかった。


「ゴーゴン。貴方の下らない作戦にリウム様の貴重な時間を取らないでいただけますか?」


スリスは口元を吊り上げながら伝える。


「リウム様?こんな作戦とも言えないような物に付き合う必要はありません。」


いつもよりなんだか冷たい様子のスリスにリウムもすこしたじろぐ。


「ま、まぁ、確かにゴーゴンの作戦は良くないものではあったが、我の事を考えて、いの一番来てくれたのだし、スリスそこまで言わなくても・・・。」


自分をフォローするようなリウムの言葉に感激した。


碌なものではない作戦を持ってきた自分になんてお優しいんだと。


「ごめんなさいなーい、リウムー様。今回の作戦は良く無かったわー。でもー、お姉さん次は絶対にもっといい作戦もってくるからねーー!」


ある意味ゴーゴンからすれば次があればリウムに会える機会も増えるのだから、失敗しても良かったのかもしれない。


「待っててねー!ぜーったい次は採用してもらえる作戦もってくるからー!」


そう言うとゴーゴンは円卓の間から立ち去っていった。


「リウム様。次もゴーゴン下らない作戦持って来ると思いますよ?」


「・・・まぁ、いいのだ。他の配下なら別だがゴーゴンはお前と同じく、幼い頃の我の守役。顔を合わせる機会が増えるのは我も嬉しい。」


リウムの言葉にスリスは仕方ないですね。と肩を落としながら先程ゴーゴンが出て行った扉へと向かった。


「どうした?スリス?」


スリスはポケットから何やら白い物を取り出して扉の入り口へと撒いた。


「私はリウム様の意見とは少しばかり違うのです。これはその願掛けみたいなものですかね?」


リウムはスリスの行動の意味が良く分からなかったけれど、まぁいいか。と深くは考えない事にした。


塩を撒く。それは邪気や穢れを祓う為に行われるという一地方のおまじない。


スリスはこれが少しでも効いて、ゴーゴンがあまり顔を出さなければ良いのだけど。と考えた。


「失礼します!!リウム様」


扉を開けたのはスケルトン。


「ぬわーーっ!!!」


彼は部屋に入ると同時に浄化された。

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