第5話 ラブストーリーは突然に

前回魔王リウム達が最優秀賞を勝ち取った『全神冒険フェスティバル』を終えてからしばらく時が流れたある日、魔王城円卓の間で魔王リウムはもの凄くダラダラしていた。


リウムは威厳など欠片も無い姿で、煎餅を口にしては湯呑みに口を付けズズーと啜る。


「リウム様。その様な姿ではいけません!魔王足るものいつ如何なる時でも威厳ある姿を保たなければ!」


とサキュバスメイドであるスリスがリウムをたしなめるが、


「だってさぁ?前回の『全神冒険フェスティバル』優勝出来たのはいいけどさぁ?我の恥ずかしい姿はこの国どころか全世界に見られた訳だし?無理に取り繕う必要も無いかなって。それにここにはスリスしかいないし。我の事隠し撮りしていたお前に威厳とか見せてもさぁ。」


とリウムは話を聞く気など無い様である。


前回の覇者でるリウムであったが、その内容は勇者の冒険とは全く関係ないものであった。


宿から出てこない勇者に、なんとか冒険をしてもらおうと四苦八苦するリウム。


結局、勇者は一歩も宿から出てこず撮影は上手く行かなかった。


けれど、何も出来ませんでした。ではリウムに命令を下した女神アルテネに申し訳も立たない。


涙ながらに謝罪するリウムだったが、ここでスリスが手を貸した。


日頃から撮影していたリウムの姿を編集して女神アルテネに渡したのだ。


慌てふためくリウムの姿は神達に大ウケだったようで、無事最優秀賞を取る事が出来たが、時が経つにつれ、リウムは恥ずかしさを覚えた。


布団にくるまってぐるぐるしたり、ベットの上で突然あーーっと奇声を発したりしていたが、次第にそれは収まった。変わりにリウムは開き直ってしまった。


威厳なんか見せても、いつも隣にいるスリスには全部見られていたのだ。


夜寝る前にウサギのぬいぐるみに愚痴を零す姿も、お風呂でアヒルのおもちゃで遊んでいる姿も。


そういう事もあって、最近リウムはスリス以外の配下がいない時は、威厳?何それ必要なの?とでも言うように気を抜きまくっていた。


「もう!そんな気を抜いて急にアルテネ様がおいでになっても知りませんからね!」


「平気、平気ー。『全神冒険フェスティバル』は何百年かに一度の周期だぞ?前回が終わったばかりなのにアルテネ様が顔をそうそうと出される訳がないさ。」


「えっ?呼んだ??」


椅子に座り手をぷらぷらと振るリウムの背後から声が聞こえる。


ギギギとゆっくりリウムが振り返れば、そこにはプカプカと浮かぶ球体。


女神アルテネがその言葉を伝える為に使っている物だ。


「伝えたい事があったんだけど、何ー?私の話でもしてたの?」


その声にリウムはピシッと体をただした。


けれどリウムの銀色の長い髪はボサボサのままで魔王の威厳とは掛け離れたものであった。


「いえ!スリスと前回の『全神冒険フェスティバル』の事を振り返っておりまして、決して我は気を抜いてなどおりません!」


「??別にそんな事聞いてないけど?あーまぁいいや。今日はアンタ達に伝える事があるのよ。」


その言葉にリウムは首を傾げた。


「と、いいますと一体なんでしょう?」


「前回のフェスティバルでは私のこの世界が優勝したでしょう?最初は良かったんだけどねぇ、時間が経つとアレって冒険じゃなくない?って声が上がり始めたの。」


「はぁ。」


「とはいえ、神が一度決めた決定を変える訳にはいかない、とその件はまぁ何とかおさまったんだけど、やっぱり納得出来ない神も多いみたいなの。そこで!もう一度フェスティバルを開こうってなったのよ。」


「前回が終わったばかりですが!?」


「そうよねぇ。そう短期間で世界を危機に落とす訳にもいかないし、勇者だってたて続けじゃ強いままなんだから、面白くもなさそうでしょ?」


「ま、まぁ、我もそう思います。」


「そこで、今回は今までとはだいぶテーマを変える事になったの!」


「テーマですか?冒険ではないのですか?」


「題して今回は『全神恋バナフェスティバル』よ!」


「こ、こいばなですか?」


「ええ!勇者も冒険を終えてその間に色々と出会いも別れもあったでしょう?だから、今回はそこで芽生えた恋愛をメインに撮影してもらうわ!」


「しかし、それでは冒険を終えて結婚している勇者などはどうするのですか?」


「勿論考えてあるわよ?既に恋人がいたり結婚している勇者はそのイチャイチャでもいいの!他人の恋愛姿って面白いしね!」


神とはなんて悪趣味なのだろうとリウムは心中で思った。


「それに別の者をけしかけて愛憎劇にしてもいいわ。いない物は道中で出会った者とくっ付けても良いし、全く別の者を当てがってもいい。やり方は様々できるからね!

これなら全員平等だって事で決定したわ!

恋愛ならなんでも良いのよ!悲恋でも喜劇でもまた冒険色を取り入れてもいいの。只過剰なシモはNGだからね!

リウム!あんた前回優勝したからって気を抜くんじゃないわよ?目指すべきは連覇なんだからね!次も優勝して文句なんか付けさせないようにしないといけないんだから!

ちょっとでも手を抜いたらお仕置きよ?

期限は一年!有りそうで時間もそんなにないから気をつけなさい!

あーー。一気に喋ったら疲れたわぁ。

そんじゃそういう事で!」


「えっ!?ちょっ!アルテネ様!?アルテネ様!?」


女神アルテネは言いたい事だけ言うと球体を消してしまった。


円卓の間に残ったのはリウムとスリス。


二人は顔を見合わせた。


「スリス、我らの世界の勇者は今どうしている?」


「相変わらずです。宿に引きこもったまま出てきません。宿代は仲間の僧侶達が払っています。」


「お前、アレに今からシモ無しのまともな恋愛なんてさせられると思うか?」


「分かりません。けれど、どちらにせよやるしかないのでは?」


「だよなぁ。」


リウムは激しく肩を落とした。


先の事を考えれば頭も痛くなってくる。


「リウム様、私も出来る限りご協力致しますので。」


そうスリスがリウムに声をかける。


「ああ、またお前の力を借りる事になるだろうな。」


「はい、また二人で手を合わせて頑張りましょう!」


そう言うスリスをリウムはジト目で見る。


「我の盗撮は許さんからな?」


「もうっ!分かっていますよ!そう何度も仰らなくてもいいじゃありませんか!」


「仕事の基本は?」


「ホウ・レン・ソウ、です!」


リウムは口から一度大きく息をはーっと吐くと、姿を正した。


「よし、スリス!撮影計画を始めるぞ!!一先ずは恋愛に詳しい配下を魔王城に集めるのだ!皆の話を取り入れ、勇者の恋愛を彩る作戦を立てる!」


「はっ!!かしこまりました!魔王リウム様」


スリスが片膝を付きリウムに頭を下げる。


こうしてリウムとスリスによる『全神恋バナフェスティバル』への長い道のりが始まったのであった。

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