第2話 勇者に仲間が出来た!
「それで、スリス?今我が見ている映像がお前の考えた仲間を序盤投入した結果なのか?」
豪勢なイスに座り円卓の机を指先でトントンと叩きながら、画面を横目で見るリウムはスリスに聞いた。
「ええ、無事上手くいきましたね。まさか派遣させて一日で二人がここまで仲良くなるとは私も思いませんでした。」
何か問題でも?といった様子で言葉を返すスリス。
「スリス、お前それ本気で言っているのか?」
「ええ、二人が仲睦まじい様子でこの先の撮影が上手くいく事に確信を持ちました!」
その言葉に椅子から勢い良く飛び上がり、リウムは写された映像を指でさした。
「良く、この画面を見てみろ!!」
指さした画面の先には勇者が泊まる宿の一室が写し出されている。
その部屋には、布団を被りすすり泣く女とその横で上半身裸の男がタバコを吸っている様子が映し出されている。
「こ、れ、の、どこが仲睦まじいんだ!!どう見ても性被害者と加害者の事後の姿だろ!!」
直視するのは恥ずかしいのか、画面をチラチラと見ながらリウムは叫ぶ。
「サキュバスの私からすれば、こういう始まりは良くある事ですよ?」
「世界を救う勇者が仲間に抱かれてスタートする冒険譚なんてあり得ないだろ!?」
「それは今まで無かっただけであって、これから私達が作るのです。いうなれば私達はパイオニア。見た事も無い冒険譚を彩ると思うとワクワクしますね!」
その言葉にリウムは肩をわなわなと震わせて円卓を強く叩いた。
「我達は、冒険譚を作るのであって、セクシー映像を撮りたい訳じゃないんだ!これから二人はどうなる!?朝起きて、さぁ!冒険に行こう!となるか!?」
「そこに関しては問題ありません。あの男僧侶は私が選び抜いた逸材。上手く口で言い包めてくれますよ!」
僧侶!?あの茶髪に少し焦げ肌をした、いかにも女好き見たいな外見をした男が僧侶!?
直視出来なあ映像を、リウムは何度かチラ見にしてその姿を確かめた。
「・・・アイツ、僧侶なのか?」
その言葉にスリスは目を見開きリウムの顔を見た。
「魔王ともあろうお方が人を見た目で判断するなんてよろしく有りません!あの男は教会の中でも一、二位を争う凄腕なんですよ?」
アイツが!?たしなめられたばかりのリウムはその声をぐっと飲み込み口から出ないようにした。
「私が影で操る聖王教会から選び抜いた逸材です!昼はモンスター退治に、夜はベッドのお供にと勇者の仲間にするのは最適な物を選んだつもりです!」
「夜の事なんて考えなくていいんだよ!よしんばあったとしてもそれは徐々に絆が深まってからで良いの!!」
と突っ込んだ所でリウムはあれ?と首を傾げた。
「なぁ、スリス。我の聞き間違いじゃ無かったら、聖王教会を影で操るって言った?」
それがどうした?とでも言わんばかりの表情でスリスは答える。
「ええ、そう言いましたが、何か問題でも?」
「いや、問題っていうか、我そんな話聞いた事無いんだけど。」
「聞かれませんでしたから。」
「聞かれませんでしたから!?スリス!仕事は、ほう、れん、そう。報告連絡相談が基本だぞ!?」
「存じておりますが、私が聖王教会を影から操る様になって、百年以上は経っています。まさかリウム様がご存知無いとは思っても居りませんでした。」
百年?百年コイツの隣にいて我はこんな重要な事も気付いていなかったのか?そう思うとリウムは自分がダメな上司だと思え酷くショックだった。
「まぁ、私がリウム様の前で教会について話した事も何かした事も無いので気付かれなかったのも仕様が無いかもしれません。」
落ち込む様子のリウムをみてフォローをするスリスであったが内心は
『落ち込むリウム様はなんてかわいいんでしょう。仔犬見たいな顔されて!頭ナデナデしてぺろぺろしたいです。』
と碌な物では無かった。
スリスのフォローに少しだけ立ち直った様子のリウムは
「そうだよな?我の前でそんな素振りも話もした事無かったよな?そうだよな?」
と自分を納得させる様に口を開いている。
「すみません、百年以上前の事とは言え報告は上げるべきでした。次からはこの様な事がない様に致しますので。」
そう頭を下げるスリスであったが内心では、
『あぁ、自分で自分を励ますなんて、なんて健気なんですリウム様。ほっぺたハムハムしたいです。』
なんて考えているのであった。
「兎に角!あの男はダメだ!適当に言い包めて引き上げさせろ!勇者の冒険を18禁には出来ん!」
「リウム様その18の後にはいくつ0が付くのですか?」
映像を見る対象は神なのだから、リウムの配慮はいらないのかも知れない。
☆
「それで?スリス?あの男の変わりに派遣された仲間はコイツなのか?」
円卓を指で叩きながらリウムはジロッとスリスを睨んだ。
「ええ、リウム様のご命令通り、間違いがない様にと教会から選ばせて頂きました。」
その言葉にリウムはバンっと両手を机に強く叩きつけながら、椅子から立ち上がった。
「確かに?我は間違いがない様に、異性はやめろと言った。お前が操ってる教会に碌な男がいなさそうだしな。で?それがこの結果か?」
画面に映るのは、勇者がベッドの上で恥ずかしそうに僧侶服を着た女に腕枕されている。
「異性だったら何でも良いって訳じゃないんだよ!
あれか?お前の選ぶヤツは全員その日にお待ち帰りしないと気がすまないのか!?」
その言葉にムッとした顔を見せたスリスは、
「心外です!お持ち帰りなんて言い方やめて下さい!二人の心が繋がった結果です!」
「言い方なんてどうでも良いんだよ!!」
リウムはそういうと恥ずかしいそうに画面をチラチラと覗く。
「そ、それに、女同士なんて、おかしいだろ?」
『あぁー、画面を直視できないリウム様かわいいですよ!』
と心の中で思うスリスは、決してその思いを顔に出したりはしない。
「愛し合う物に性別など関係ありません。それにリウム様?女同士なら何がおかしいというのです?」
詰め寄るようにスリスはリウムに近づく。
「お、お前、だって、その、おしべとめしべというか何というか、付いてる付いてない、とか、あるだろ?こ、子供も作れないんだろ?」
どもりながら答えるリウムにスリスはついに興奮を隠しきれない様子で、
「何が付いていないんですか?リウム様?そのちっちゃなお口からハッキリと私聞きたいです!!」
ぐいぐいと迫るスリスに、リウムは
「ちょっ、近い!近いぞスリス!後なんか怖い!」
と少しだけ瞳を潤ませた表情を作った。
やり過ぎたか、と思うスリスは頭を下げる。
「失礼致しました。私の選出にリウム様が余りにもケチを付けるので少し頭に血がのぼってしまったようです」
素直に謝るスリスにリウムも少しだけ落ち付きを取り戻したようで、
「いや、我も言い方が悪かったかも知れん。すまなかった。」
と頭を下げ返した。
「それで、どうするスリス?こんな宿でイチャイチャしてるだけの映像アルテネ様にはお見せ出来んぞ。」
「まぁ、確かに映像に変化はありませんからね。色んな意味で動きはあるんですけど。」
その言葉にリウムは少しだけ顔を赤らめる。
「く、くだらん冗談はいい。別の仲間を手配出来ないのか?」
「仲間を手配する事は用意ですけど、またこういう関係になると思いますよ?私が支配している聖王教会のモットーは『汝隣人を愛せ。それがどんな形でも。』ですから。中には監禁したり、食事に色んな物を混ぜたりと過激な物もいますから、この子はまだ平和な方です。」
「・・・我、これから人の派遣にお前は頼らない事にする。」
そういうとリウムは肩を落とし、疲れた様子で円卓の間から立ち去っていった。
「落ち込むリウム様もかわいいですねー!」
ヤバイ奴が集う教会を裏で操るスリスである。
そんな彼女も愛し方が少し変わっているのは当たり前だった。
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