第3話 フェスティバルの終わり


「おい、どうするスリス。」


「どうしましょうねぇ、リウム様。」


「アルテネ様に映像を提出する期限は今日だぞ?」


「そうですねぇ。どうしましょうか。」


その返事にリウムは小さい足で地面をダンダンと踏むとスリスの顔をギリっと睨んだ。


「何でそんなに落ち着いてるんだお前は!?結局勇者はあれから一歩も宿から出ていないんだぞ!?」


その言葉の通り、勇者はひたすら宿屋に引きこもり、冒険と名の付くものなど何もしていなかった。


「リウム様、私に当たられても困ります。あれから私は教会から人を派遣したりはしてません。リウム様が選んだ結果でしょう?」


その言葉についにリウムは手を上げた。

スリスの右腕にその可憐な体からストレートパンチを繰り出した。


「痛いですよ、リウム様。手を上げるなんて偉大な魔王しての風格が損なわれますよ?」


「お前がいうのか!?お前が!?」


「私が何をしたっていうんですか?」


リウムは一度ふぅ、と大きく深呼吸してからスリスの顔を見上げた。


「確かにお前は何もしていないかも知れない。けどな?勇者が宿から一歩も出なかったのはお前が派遣した僧侶達のせいだろ!?」


「えー、なんでもかんでも人のせいにするのは良くないですよ。」


「分かった。理解してないようだから私がキチンと説明してやろう」


リウムは腕を組み、真剣な眼差しでスリスの顔を見めた。


「我も色々とテコ入れしてみようと努力した。勇者に冒険してもらおうと数多くクエストも作り上げた。でもな?でも、勇者を立ち上がらせようと、街にモンスターをけしかければ、子猫ちゃんは俺が守る!とか言ってあの男僧侶が全部倒しちゃうだろ?遠い街で勇者の救いを待つ呪われた民がいると噂を流せば、女僧侶が自分のネットワークつかって解呪しちゃうだろ!?終いには猫ちゃんを守る会とかいう謎の団体が必死で用意したクエスト全部解決しちゃうんだよ!これにお前の責任が全くないといえるか!?」


「人が人を愛する力というものは時に計り知れない結果をもたらしますね!」


「そういう事が聞きたいんじゃないんだよ!!!」


天を仰ぎながらリウムが人生で一番の叫びを上げた瞬間、円卓の間に見覚えのある球体が現れた。


女神アルテネである。


「やっほー、リウム!今日が締め切りだけど大丈夫ー?勇者にやられて死んじゃってないー?」


気楽な様子の声が球体から響く。


リウムの体から一気に熱が冷めていくようであった。


アルテネの望むような冒険などこれっぽっちも取れていない。

あるのは勇者がゴロゴロとベッドの上で過ごす映像だけ。


もう、ここに至っては誤魔化しなど通用しない。


嘘を付いても映像を見られればそれは明らかなのだから。


「申し訳ありません。アルテネ様。我は、我は任務をこなす事が出来ませんでした!!」


大きな瞳からポロポロと涙を溢しながらリウムは頭を下げた。

予想もしていなかったリウムの反応にアルテネも


「えっ?どうしたのリウム?何で泣いてるの?何かあった?」


と驚いた様子で返す。


「我はアルテネ様の求めていた、勇者の冒険を作り上げる事が出来なかったのです!我は不出来な魔王です!罰するなら我を!配下の者達みな努力してくれたのです!罪があるのは我だけなのです!」


涙ながらにまくしたてるリウムにアルテネも戸惑いを隠しきれない様子。

何度か声をかけても、我が、我がと言うばかりで話にならない。


「えーっと、誰だっけ?あのサキュバスのメイド近くにいるー?」


その声にスリスが反応する。


「はっ!ここにいてございます!」


「何かリウムが取り乱しちゃって話にならないんだけど一体どう言う事なの??」


その疑問にスリスは落ち着いて返す。


「はい。どうやら、リウム様は自分の納得の出来る映像を取り終える前に期限を迎えた事を悔やんでいるようです。後少しで完璧な物が作れたのに・・・と。」


その口から偉大な女神に平気で嘘を付いた。


「あぁー、そう言う事?何か話的に全然映像出来てないのかも思っちゃった。完璧では無いにしろ映像はあるのね?」


「はっ!!こちらに用意してございます!」


スリスの手の上にあるのは魔法水晶。映像を留めるために使われる魔道具だ。


「ちゃんとあるなら良いのよ!リウムには悪いけど時間がないからこれは貰っておくわね!」


そう言うアルテネの声がする球体に魔法水晶が吸い込まれていく。


「リウム、そこまで反省するならもっと自分も納得出来る様に努力なさい!!結果次第ではまた次も貴方に監督をやってもらうでしょうからね!」


そういって、消えかけたアルテネをスリスが引き止めた。


「お待ちください!アルテネ様!その映像はアルテネ様も是非『全神冒険フェスティバル』まではご覧にならないようして頂きたいのです。」


「えっ??何で??まぁ、フェスティバル実行委員の神にこの後すぐに渡すつもりだからそうなると思うけど。」


「その映像は、未完成とはいえ、今までにない、革新的な映像に仕上がっています。是非アルテネ様にも他の神達と同じく、フェスティバルの時に驚きと共にご覧になって頂きたいのです。」


その言葉に少しだけ楽しそうな声のアルテネの声が響いた。


「まぁ、いいわ?そこまで言うんだから期待しましょう。リウム、また結果が出たら連絡を入れるわ!」


その言葉を残し球体は姿を消した。


「・・・スリスお前なんであんな嘘をついた?映像を見れば一目瞭然だし、アルテネ様だって他の神の前で恥をかかされてはお前を許しはしないぞ。」


「ええ、そうかもしれませんね。」


「罰を受けるのは我だけで良かったのに・・・。」


「リウム様の言葉を借りれば私のせい、なのでしょう?最後までお供いたしますわ」


先には不安しかないけれど二人は笑いあった。



それから暫くの時間がたった。

全世界から集まった映像だ。見るのにも時間が掛かるのであろう。


リウムとスリスは最後の時まで心穏やかに過ごそうといつもと変わらない生活を続けていた。


そんなある日、円卓の間に声が響いた。


「リウム!!リウム!!いないの!?早くいらっしゃい!!」


聞き覚えのある声に審判の日が来たか、とリウムはスリスを共にして円卓の間に急いだ。


そこには球体ではなく、実体の姿の美しい女神が立っていた。


直接罰を下せるように実体でおいでになったらしい。

リウムは覚悟をきめ、アルテネの前で頭を垂れた。


「お待たせして申し訳ありませんアルテネ様。覚悟は出来ておりますので、どうぞご随意に。」


その言葉を受けたアルテネは頭の上に疑問符を乗せる。


「はぁ?リウムあんた何いってるのよ。覚悟って何?」


「アルテネ様は私を罰しに来たのではないのですか?」


「何で私がリウムにそんな事しなくちゃいけないのよ!!今日はあんた達を褒めに来たのよ!!」


その言葉と共にジャジャーンと取り出されたのは綺麗装飾された楯。

そこには『全神冒険フェスティバル最優秀作品』

と文字が彫られている。


「まさか、あんな映像にしてくるとはね!逆転の発想ってやつね!皆驚きよ!でもこれからは、私には嘘はつかなくていいんだからね?」


「・・・これは?どう言う事でしょう?」


「見て分からない?あんたの作った作品が一番だったって事よ!やるわね!まさか、勇者じゃなくてそのクエストを用意する自分の姿を撮影させるなんてね!素晴らしいドタバタコメディーだったわ!」


チラリとスリスを見ればペロリと舌を出してリウムに少しだけ頭を下げている。


やってくれたな。と思う。

結局報連相などしないままじゃないかと思う。

けれど、その気持ちは決して悪いものでは無かった。


「次回もアンタ達に任せるからね!今回はこれで優勝出来たけど、次回から同じ手法じゃ厳しくなると思うわ!次は泣かなくても良いように、キチンと準備しておきなさい!」


そういいながら、リウムとスリスの頭を撫でるとアルテネは姿を消した。


後に残ったのは二人。


「スリス、お前いつから映像を撮ってたんだ?」


「最初からですよ。一番最初から。」


「こうなるって分かっていたのか?」


「いえ、あの映像はしゅ、ゴホン、このような事もあるかと思って。」


「・・・まぁ、いい。次からはキチンと連絡を入れろよ?」


「ホウレンソウですね?」


「そうだ、ホウレンソウだ!」


二人は抱き合って笑いあった。


そしてアルテネから来る次の指令の為動き始める。


「早速次へ向けて会議を行う!あの問題児のスライムを円卓の間に呼んで来い!」


「かしこまりました、リウム様」


まだまだ魔王の苦難は終わらない!

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