こちら魔王軍、勇者撮影部隊!!

@doratam

始まりのお話

第1話 『全神冒険フェスティバル』

「いったいどうなってる!?」


魔王城円卓の間に立つ配下を前に魔王リウムは机を大きく叩きながら言う。


「おい、スライム!!お前何故勇者に素直にやられなかった!!」


小さな背丈の腰ほどまである、銀色の長い髪を振り乱しながら、鬼気迫る表情でスライムを見つめる。

スライムはゆらゆらと体を揺らしながら、その言葉に答えた。


「自分、スライムが雑魚って思われるの嫌なんすよ。親父達は序盤の足掛かりになる事を誇りに思えとか言うけど、自分だってやれるんすよ。自分そんな小っちゃい器じゃないっす。」


悪びれもせずに答えるスライムに頭の血管をピクピクと浮き上がらせながらリウムはその言葉を聞く。


「お前自分の役割が分かってるのか!?旅立ち初日の記念すべき今日!お前が勇者を粘液で溶かしてから、奴は宿から一歩も出ないんだぞ!?」


「冒険に出たら危ない目には会うもんっす。最初からそこん所教えてやっただけっすよ。」


「それは、別の者の役割であってお前じゃない!!お前は序盤の経験値稼ぎマシーンなんだよ!!」


「そういうレッテルが嫌なんすよ。一番最初のご先祖様はその役割で良かったかも知れないっすけど、別にスライムじゃなくても良くないっすか?俺、ゴブリンとかオークよりも強いんすよ?」


「長い間、スライムが最弱モンスターとして名を馳せて来たんだ!今回の勇者もその認識なんだよ!最初に動物っぽい見た目だと引いちゃうかも知れないから、お前ら軟体のスライムがぴったりなんだよ!」


「やだやだ。時代と共にシステムは変えていかないと。慣習で物事進めるのは良くないっすよ。自分は最初から現実の厳しさを教え込んでやる方がいいと思うっす!」


「そういう事は勇者の冒険の撮影が始まる前に全部言っておけよー!!!」


そう今日一番の大声で叫ぶと机に倒れるように突っ伏した。


「もう嫌だ、辞める。我、魔王なんて、辞める。」


顔を手で隠すように覆い涙声になりながらそう漏らすリウムに、隣に立つサキュバスメイドのスリスが声をかける。


「リウム様、まだまだ序盤です取り返しはつきますわ。」


その言葉に指先を少しだけ開き、その隙間からチラリとサキュバスを見ながらリウムは尋ねた。


「だいぶ前倒しになってしまいますが、仲間を勇者の元に送りましょう。勇者が一人で立ち上がるのが無理そうならば、周りを使えば何とかなるかもしれません。」


「・・・そうかも、しれない。・・・そうして見ようかなぁ。」


救いがまだあるかも知れない。

そう思えたリウムがそんな事を呟くと同時、その目の前に球体がふわりと現れる。



「やっほー、リウム。撮影は順調っ??」


その球から聞こえる声の主はこの世界を作った、女神アルテネ。

リウムを苦悩の中間管理職に陥れた元凶である。


「ア、アルテネ様っ!!ご尊顔を賜り光栄です!」


濡れた瞳を拭いリウムはその球体へと頭を下げた。


「いいって、いいって、そんな畏まった挨拶なんかしなくても!それより、撮影はどうなのよー?」


勇者は宿に籠もったままで、撮影などこれっぽっちも出来ていない。


神託を受ける所までは良かった筈なのに、それからは布団にくるまる勇者の姿が映されているだけだ。


しかしそんな事そのまま口にする訳にはいかない。


「えーー、勇者は宿で英気を養っている所です。もう暫くしたら本格的な撮影に挑もうと思っている所です!」


「ちょっとー?それ大丈夫なの?今日、冒険に出たばっかなのにもう宿で休むって、ちょっと甘いんじゃない?」


痛い所を突いてくるアルテネの言葉にリウムが少しだけ返答に詰まると、その様子に気づいたスリスが横から助けに入る。


「女神アルテネ様。話に割り込んで失礼致します。魔王様は冒険が始まる前の準備で少しお疲れのご様子でして、恐れ多くも私が状況を説明させていただいてもよろしいでしょうか?」


そんなサキュバスメイドの言葉に、


「あー、まぁそう言う事なら良いわ。リウム、貴方は監督なんだから適度に休みも取らなきゃダメよ?上が休まないと下も休めないんだから!」

と返すアルテネ。

お前が言うな!と苦々しい気持ちを押し殺しながらリウムはご配慮ありがとうございますと頭を下げた。


「それでぇ?なんで勇者は冒険初日から宿に籠っちゃってる訳ー?」


「はい、女神アルテネ様。

私達、魔王軍勇者撮影部隊は今度の勇者の冒険を今までとは一風変わった物にしたいと考えました。

序盤の内はスムーズに進めさせ、次第に試練を与えるといった物が半ばテンプレートの様になっている事に疑問をもったのです。

同じ様な物を見続けて皆様満足して頂けるのかと。

そこで、序盤から大きめの試練を与え、苦悩しながら進む勇者を撮影しようと考えた結果、今勇者は宿に籠っているのです。」


淀みなく説明するサキュバスメイドの言葉は、今の事態を上手く取り繕っていた。


アルテネにもその言葉は納得出来る様な物であったようで、


「なるほどねぇ。まぁ確かに今までと同じ様にやっていたら、『全神冒険フェスティバル』では優勝は難しいかもしれないものねぇ。」


『全神冒険フェスティバル』。


それが全ての諸悪の根源だった。


全ての神が集まる会議で一柱の神が、自分が管理する世界に居た英雄の活躍を、さながら映画の様に皆に見せたのが始まりだった。


暇を持て余していた神達はそれに熱狂した。


傷つきながらも前へ進む英雄。それに立ち塞がる宿敵。


そんな彼らの姿は神達を一瞬にして虜にした。


自分が管理する世界でも見てみたい。


そう思う神が多く現れ、皆自分の世界に居る英雄を探し、それを撮影させ周りの物に見せた。


そうして。そんな事が暫く続いた後、また一柱の神が言った。


数多の世界で英雄の存在が撮られているが、自分の世界の英雄が一番であると。


その言葉に周りの神は反発した。いや、私の世界の方が凄い。私の世界の方が格好良いと。


口論では治らず、小競り合いまで発展するものもあった。


しかし小競り合いとはいえ、神と神である。


そのスケールは凄まじい。


いくつかの星がその余波で消えたが、それでも諍いが絶える事はなかった。


収まりの付かない事態に誰かが言った。


全ての冒険を見て、一番を決めよう、と。


そうして始まったのが『全神冒険フェスティバル』。


全ての神からの投票で決まる優勝作品を産み出した神は大いなる栄誉と名声と自尊心に包まれるのだ。


何百年に一度開かれるその祭典に向け、今魔王リウム達は勇者の冒険を彩る為、必死に工作を続けているのである。


「それでぇ?試練を与えるのは良いけど、先に進まなきゃ話は進まないでしょう?宿に閉じこもっちゃった勇者をどうするつもりー?」


「はい。慣習からすれば勇者に仲間が手に入るのはもう少し先の事になりますが、今回はもう仲間を作るよう仕向けます。長時間、共に行動させる事によって二人に起こるロマンスに、思い入れが深くなる様にして見ました。」


その言葉を聞くとアルテネは声色を一段高くして答えてた。


「いいじゃない、いいじゃない!試練に立ち上がれない勇者、それを支える仲間。そして支え合う気持ちは次第に恋に変わっていく。仲間と恋に落ちるのは、よくある手法だけど、序盤からってのはあまり見た事ないわね!

いいわ!その脚本で勇者の冒険を進めなさい!」


快諾するアルテネにリウムはホッと一息ついた。

なんとか誤魔化せたようだ。


「しっかし、序盤からテンプレを壊して行くなんて、リウムあんたも中々やるじゃない!あんた達だけだとちょっと不安だったから、アドバイザー的なの連れて来たけど、コイツはもう要らないかしら?」


球体からパチンと指を弾くような音が聞こえたと共にリウムの前に、この世界では見慣れない服を着た人間族の男が座り混んでいる。


「別の世界の友神が、英雄撮影の時に間違って殺しちゃったヤツらしいんだけど、生き返らせようとしたら、別の世界がいいって駄々捏ねるらしいのよ。そんで、違う世界のエッセンスを入れたら面白くなるかもと思って私が預かって来たんだけど、コイツ要る?」


リウムとスリスは二人で顔を見合わせ、頷くと返事を返した。


「「要りません!!」」


只でさえ命令を聞かない部下に手を焼いているのだ。


知りもしない別の世界の男の面倒など見れる訳も無かった。


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