第31話 ギーメイという男①
「なあアンタ。アンタはこの国で一番運が良いんだってなあ、ちょっと試させてくれよ」
カジノで遊んでいたギーメイに、酔っているのかグラスを片手に男が声をかけてきた。
そうして取り出したのは.357マグナムリボルバー。
「これに一発弾丸を入れてシリンダーを回転させてからお互い一発ずつ撃つ、先に実弾を引き当てた方が負け。分かりやすくていいだろう? 幸運の女神に愛されているって噂は本当なのか見せてくれよ」
「……。いいね、面白そうだからやろうか。じゃあ僕からやるね」
「え? あ、おいっ」
男が止める間もなくギーメイは慣れた手つきで自分のこめかみに銃口を当てると躊躇いなく引き金を引いた。
カチッ。
「外れかあ。はい、次は君の番」
「いやっ、まっ……!!」
まさかあっさり引き受け本当に撃つとは思わなかった、撃つにしても時間をかけると思っていただけに男は焦った。
逃げ出そうと背中を見せた瞬間、ギーメイに腕を掴まれそのままポーカー台の上に押さえ込まれこめかみに銃口が当てられる。
「ま、待て!! アンタこんな事していいと思ってんのか!? 犯罪だぞ!?」
「アッハハハ! 君はおかしな事を言うね、最初に遊びを提案したのは君! この拳銃を出したのも君! ここにいた全員が見ていたじゃないか! そして僕はただ君が引き金を引けないというから代わりに引いてあげるだけさ!」
「や、やめっ……!」
カチッ。
「よし、じゃあ僕の番」
カチッ。
「外れ。はい、また君の番だよ」
「く、狂ってやがる……! 何が幸運だ! こんないかれた奴まともに相手出来るか!」
どんどん引き金を引いていくギーメイに男は解放されると同時に出口へ逃げ出したが、その背中にギーメイは銃口を向け引き金を引いた。
カチッ。
「……次の番で決まったのに相手が逃げちゃ意味ないよねえ。はぁ……萎えちゃった、僕も帰ろうか。この銃は僕のじゃないからここに置いて行くね」
ギーメイも去った後、一人の男が置いて行かれた銃を手に取った。
「おい、危ないから止めとけって」
「へへっ、あんな躊躇いなく何度も撃てるわけねえだろ。ありゃやらせだよ、あの二人はグルに決まって……」
男が引き金を引いた瞬間、銃口から弾が発射され天井のライトを撃ち抜いた。
砕け落ちてくるガラス破片、辺りに響く悲鳴と足音、男は腰を抜かしその場に座り込んだ。
「ほ、本物だ……」
もしあの男が逃げ出さずにいれば……。
******
「『幸運の女神に愛されている』だって? 他人の決めた『幸運』なんかに僕を当て嵌めないでほしいよね」
ギーメイはまだ幼い子供だった頃、家族と出かけている時にふと足を止めた三秒後に暴走馬車が家族に突っ込み目の前で全員が死んでしまっている。
この事故で家族だけでなく当時馬車に乗っていた客、御者、馬全てが亡くなっており、その際周りから唯一の生存者として「運が良かった」だの「幸運だ」「ラッキボーイ」と言われ、家族全員が死んで何が「運が良い」のかと『幸運』といった類の言葉を嫌うようになった。
事故の被害は酷く、死体は全てぐちゃぐちゃになっており当時の技術では判別不可能だった為被害者は全員、目撃証言からこの事故の原因である御者すらもまとめて一つの墓に入れられている。
その際せめて名前だけでも家族と一緒にいたいと自分の名前も墓に入れ、それ以来ギーメイと名乗るようになった。
今では自分の名前だけでなく、家族の顔と名前すらも完全に忘れてしまっている。
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