第30話 大人も子供もない裏世界②

 今ギーメイの前には二人の兄弟がいた。


 二人は地面に座り込み震える身体をお互い抱き締めているが、兄と思わしき方の手には拳銃が握られている。


「夜道で周りが見えなくても真っ直ぐ飛ぶから大丈夫だと思った? 銃っていうのは引き金を引けばいいだけの簡単な道具じゃないよ。君、人を撃った事ないだろう。銃を撃つ訓練どころか持った事もない初心者で、人を撃つ覚悟もない子がいくら至近距離からとはいえ当てられるわけないじゃないか」


 ギーメイは兄弟達の前で拳銃を取り出すと見せつけるようにゆっくりと弾を込めていく。


「『子供のやった事だから』『まだ子供だから』見逃されると思った? それは他の人達の考えてあって僕は違う」


 そう言うとギーメイは銃口を弟の方へ向けた。


「子供であろうとやった事に対する責任は取ってもらうよ」

「待っ、待ってください! 撃つのなら僕を! 僕だけにしてください! 貴方を撃ったのは僕です! だから弟だけは助けてください!」

「ああ! 君は何て酷いお兄さんなんだ!」


 パァンと乾いた音が真っ暗な夜道に響く。それと同時に兄の後ろでドシャリと重たい何かが水音とともに倒れる音がした。


「な、なんで……」

「頼れる人も信じられる人も、助けてくれる人もいない、こんな世界にたった一人ぼっちで生きていくなんてこれ以上可哀想な事はないだろう? だから苦しむ事なく安らかに眠らせてあげた、僕なりの優しさだよ」


 いつの間にか兄の正面にまで近づきギーメイは覗き込むように顔を近づける。


「君はそんな世界で一人生きていけばいい。弟にこんな思いをさせるつもりだったんだと苦しみながら生きていけばいいんだ」


 だんだん兄の瞳に憎しみが宿っていく。


「ああ、でもたった今僕は君に生きる理由を与えちゃった。弟を殺した僕に復讐する為ならどんな事をしても生きるという理由を。これなら弟君は事故に見せかければよかったね、そうすれば恨みを晴らす相手もなく生きる理由も見つからず真の一人ぼっちになったのに……僕のように!」

「え?」

「生きる理由を見つけてしまった君に興味はないよ、さっさと消えて。ん? いや僕が去ればいいのか。そうそう、弟君の遺体が大事ならちゃんと埋葬してあげなよ。君以外にとってその死体はゴミ以外の何でもないんだから、気をつけないと他のゴミと一緒にまとめて一つの穴に捨てられちゃうよ、じゃあね」


 さりげなく兄から銃を奪い取るとマントをひるがえしギーメイはそのまま去っていった。

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