第23話 学園祭がやって来た②
劇的な役交代から三日。
お兄さんが見に来てくれると決まった理事長のやる気と演技がすごい。まるで本物の魔王みたい。
大道具に移ったダニエルさんも生き生きしていて、セットで造られた魔王城は最初のより雰囲気が出ていた。
本人も「僕には建築デザインの才能があったんだ」なんて感動している。
そして私は現在台本を必死で覚え直し中。
あの後エイロン様と一緒にダニエルさんをつれて脚本を考えた人の所へ設定の変更をお願いしに行った。
私が演じる役には魔王を恋慕っているという設定があって、いくら演技とはいえダニエルさんならともかく理事長相手にそれは無理。
「せめて親子という設定に変えて! それなら自分の子供すらも目的の為なら躊躇いなく切り捨てるという冷酷な表現ができますでしょう!?」
「それなら俺だって! 裏切られるような魔王よりも、絶対的忠誠を誓っている部下がいる方がカリスマ性があっていい! その部下すらも捨て駒として扱えばシナリオに大きな変更はないだろう!?」
「ぼ、僕からもお願いします! シナリオ変更が大変でしたらいくらでもお手伝いしますから!」
私達の必死な願いが届いたのか、理事長相手なら確かにと納得されたのか、無事シナリオは変更された。
おかげで私とエイロン様のセリフは八割ほど変わって今まで覚えたのが台無し。でもあのままのシナリオでいくより全然いい。
……本当はちょっと泣きそう。
そもそも私は暗記とか勉強は得意じゃない。筆記テストが満点なのは何十周とマジックエコールをやっていたから自然と覚えたわけであって、一度や二度で覚えるとか無理。
それでもやるしかない。もし本番で失敗したら理事長にどんな目に合わせられるか想像するのも恐ろしい。
それにしても、私とエイロン様だけじゃなく衣装係も魔王の衣装だけとはいえ一から作り直しなのに何だか楽しそう。
「ねえねえ聞いて! 理事長のサイズ測ろうとして胸板触っちゃった。理事長ってとっても逞しいのね」
「うわぁ、いいな。……魔王の衣装を増やせば私も採寸を理由に触れるかな。やっちゃう? 仕事増えるけど」
「まあっ、いくら採寸の為とはいえ男性に触るだなんてはしたない」
「リディアーヌ様! 申し訳ありません、あまりの体格の良さについ……」
「ふん、気持ちは分からなくもないですが……私は理事長のお兄様の方が……はっ。ち、違っ、今のは……!」
「あ、分かります! 理事長とは対称的に細身で、話し方とか紳士って感じがして素敵な方ですよね。ああ、あの人にも私が考えた服を仕立てたい……」
「う、うぅ……そう、ですわね……」
……本当に楽しんでた。
そっか、楽しみがあると仕事も捗るのか。
私も何か……頑張ったご褒美とか、先に明確な楽しみがあれば……。
「エグレット様、大丈夫ですか?」
「アズマ」
あまりに悲惨な顔をしていたのかアズマが心配して声をかけてくれた。
……ご褒美。楽しみ。
「……アズマ、私が本番で失敗する事なく演じる事が出来たら食べたいものがあるのだけど作ってくれるかしら」
「はい! 何でも言ってください」
「だし巻き卵」
「え?」
「だし巻き卵とお味噌汁、あとお漬物と白いご飯が食べたい……あ、だし巻き卵には大根おろしをつけてね」
何でもいいから純和食。もっと言うなら定食が食べたい。
「分かりました。その、エグレット様さえよければ毎日だって作ります」
「ありがとう……よし、アズマのおかげで元気が出たから頑張るわ」
「ご飯!?」
「っ!? フィンク様!」
びっくりした。普通に窓開けて乗り出してきたよこの子。
「アズマのクラスも食べ物出すの?」
「いえ俺のクラスは演劇です。……フィンク様のクラスはお店ですか?」
「うん。あのね、お菓子とかジュースを出すの。僕もメイドの格好をして働くよ」
……え、メイド? メイド喫茶? フィンク様女装するの?
何それ見たい。
さっきの女子達も同じ気持ちなのか一斉にフィンク様へ視線が集まった。リディアーヌ様もガン見してる。
「あの、私達の演劇が終わった後フィンク様のクラスへ行ってもよろしいでしょうか」
「勿論! 僕頑張って給仕するね」
俄然やる気が出てきた。この演劇絶対成功させてやる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます