第22話 学園祭がやって来た1.5

 これは学園祭を開催するべきかどうかを決める教師達の会議の様子である。


「学業を放って遊びに集中させるのはいかがなものかと思います。学園祭など開かず勉学に励むべきでは?」


 学園祭を開く事に反対なのは身分が貴族の教師達。


「たまには息抜きも必要です。それに生徒同士協力して一つの事をやり遂げるのも人生という勉強になりましょう。学園祭は開くべきです」


 それに対して賛成しているのは貴族ではない、いわゆる一般系教師。


「「むむ……理事長! ご決断を!」」


 生徒の為を思っているのは一緒なのだが、身分の違いからか貴族教師と平民教師はこういった事になると必ずと言っていい程正反対の意見が出ては衝突している。

 そしてどうにも話がまとまりそうにないとなると、理事長へと判断が委ねられる。


「……我々一般公務員はこういったイベント事になると休日関係なく駆り出され給与は勿論報償といった類のものは当然のごとく出ない」

「え? はい」


 この場合普通の理事長ならば両者が納得出来るような案を出すか片方を説得するのだが、マジックエコールの理事長は少し違う。

 何故か急に学園祭とは全く関係ない公務員の話を始めたが、周りの教師達は大人しく話を聞いた。

 理事長も平民なのだが、マジックエコールにおいて身分は関係ないので貴族の教師達も迂闊に口は挟めない。怖がられているのもあるが。


「にも関わらず日々の業務は全く変わらないままイベント関連の業務が上積みされ更には高い成果を求められる」

「た、確かに……」

「よって生徒達にも学園の成績には一切関係なく勉学の時間を無駄に削るだけの苦行を味あわせる為に学園祭は開催する」

「「……」」


 ある意味生徒の為ではあるのだが、元々無表情だった理事長の目が更に据わっている。それ以外の感情もおおいに含まれているのが察せられた。


「あ、あの、流石に社会の厳しさを生徒達に直接教えるのはまだ早いかと……」

「せめて、せめて普段の学業は忘れてとか、皆と力を合わせて何かを成し遂げる楽しさを知る為にという建前でもって学園祭を開催という事に……」

「そうか、ならその建前でもって学園祭を開くとしよう」

「「……」」


 生徒の為の学園祭禁止でも開催でもない完全なる第三の意見に両教師は何も言えず、賛成派だった教師から喜びの声も、反対派だった教師から悔しがる声も一切出てこない。


「そういえば街では小さいながらも毎月どこかで催し事があったな。それにも……?」

「場所が近ければそうなります。ですがそちらこそ年に一回といえど国をあげての祭りがありますよね……我々一般人はただ楽しむだけですが貴方達貴族は……国民全員が注目しますからそれこそ上積みされる仕事量と求められる成果は……」


「「……戦友ともよ……!!」」


 どちらかの肩を持つわけでもない理事長の決断はマジックエコールの教師達の仲を深める結果になった。


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