第21話 学園祭がやって来た①

 学園祭の時期がやってきた。ゲームで何度もやってきたから知ってる。


 学年、クラスによってそれぞれ催される内容は違っていて私達がやるのは演劇。


 子供なら誰でも知っているよくあるお伽話で、悪い魔王を光の勇者とお姫様が力を合わせて戦って平和を取り戻し、最後に二人は結ばれてハッピーエンドというもの。

 ただこれだけだと圧倒的に役が足りないから少し登場人物が足されて、話もアレンジされている。


 配役は平等にくじ引きと聞いて、私はピンときた。

 ここは現実であると同時にゲームの世界でもある。


 つまり、このゲームの主人公であるコルセイユさんがヒロインのお姫様役でビオロ様が光の勇者役になるのは確実。

 そして悪役令嬢の私は魔王役。


 絶対こうなるに決まってるって。


 実際くじ引きをしたら、ほら、私の予想通りコルセイユさんがお姫様役を引いてビオロ様は勇者役。


 そして私は……。


「エグレット様は……魔王の配下役ですね」


 ん?


「おっ。俺も魔王の配下役か……って、魔王を裏切って倒されるって小物みたいだな、まあいいか」


 大体予想通りだったけど私とエイロン様は魔王の配下役で、魔王役は知らない子が当たっていた。

 ちなみにアズマは小道具係。


 ま、まあ大体予想通りだから問題ないか。

 割とセリフ多い役だから頑張らないと。


 ******


 学園祭開始まであと十日。

 学園祭の準備って何で昼休みとか放課後限定なんだろう。

 学園が決めた事なんだから授業を減らしてその時間を準備に当ててくれたっていいのに。


 演劇の準備は順調。

 衣装は仕立屋に頼んだの? と思うぐらい本格的だし小道具もアズマが頑張って作っているから剣とか本物みたいでとっても綺麗。


 問題は一つ。


「よ、よく来たなっ。我が名はま、まうっ、ああっ」


 魔王役のダニエルさん。


「うう、やっぱり僕に魔王役なんて無理です……」


 セリフ自体は全部覚えているのに、いざとなると緊張してセリフを噛みまくって中々話が進まない。


「そんなに落ち込まないでください。最初より着実に上手になっていますよ」

「そうですよ。この調子でいけば最後まで演じきれます、ダニエルさんなら出来ます」


 ビオロ様とコルセイユさんも励ましているけど本人はすっかり弱気になっちゃっている。


「ここが僕達の教室。真ん中、両隣の三つで僕達の学年は全部だよ」

「ありがとうございますフィンク様。おかげで助かりました」

「ううん、僕もジェロームさんに会えて嬉しい。じゃあね!」


 あれ、今廊下から聞こえてきた声ってフィンク様と……。


「ジェロームさん?」

「エグレット様、お忙しい中大変申し訳ありませんが少しお邪魔させていただきますね」

「あ、いえそれは構わないのですが何かあったのですか?」


 理事長に会いに来たのかな? でもそれならここじゃなくて理事長室に行くから教室に来る必要はないよね。


「学園祭が開催されている間に不届き者が現れないよう学園内に警備装置を配置する事になりまして。何処に設置するべきか確認しに来たのでございます」


 ああ、そっか。ビオロ様とエイロン様がいるから普段よりしっかり警戒しないといけないもんね。

 でもジェロームさん自ら直接見に来るなんて責任感あるなあ。


「弟の顔も見たかったのでわたくしには丁度よかったです。ふふ、毎日顔をあわせてはおりますが、家で会うのと仕事場で会うのはまるで別人のようで不思議な気分でございます」


 本当に別人みたいですよ、理事長。


「兄さん、よかった見つかった。学園の見取り図を用意したからこれで確認しながらの方がいいと思う」

「おや、ありがとうございます」


 そう思っていたら来たよ理事長。いつもと違う柔らかい口調と表情で。


 その瞬間クラス内が騒ついたけど理事長もジェロームさんも全然気づかず話を進めている。


「……。あ、あの理事長」

「、何だ」


 ダニエルさんが理事長に話しかけた。何かあったのかな?


「理事長も演劇に出られませんか? お兄さんもきっと喜ばれると思います」

「ウィリアムも演劇に出るのですか?」

「え? いや俺はこのクラスの担任じゃないから出る必要はない、というか役割も余っていないから出ようが……」

「それでしたら僕の役を譲ります!」


 は?


「僕は魔王役ですが演劇においては主役の次に重要な役割ですからやりがいはあります」

「ウィリアムも演劇に出るのならわたくし是非見たいですね」

「う゛っ」


 はあ?


「ですが魔王役を譲って貴方様は大丈夫なのですか?」

「はい! 大道具の方が人手が足りないと言っていたので僕はそっちを手伝おうと思っています」

「それなら安心ですね。ああ、ですがそもそも教師は参加できるものなのでしょうか」

「……」

「ウィリアム?」

「に、兄さんが見に来てくれるのなら……」

「勿論ですよ。今から厳重に休みを申請しておきましょう」


 はあああああ!?

 ちょっ! ダニエルさん、いやダニエル!!

 この人魔王役に自信ないからって役譲った! しかも理事長のブラコン利用して!


 何て策士なの……魔王の素質あるじゃない……。


 このままじゃマズイ、何とかしないと。


「エイロン様、ちょっとお願いがあるのですが」

「奇遇だな、俺もお前に用がある。多分話は一緒だ」


 幸い理事長は演劇の内容をまだ知らない。なら今しかない。

 でもまずその前に。


「ダニエルさん、ちょっと大事なお話がありますのでこちらへ来ていただけますか」

「そんなに時間は取らせねえよ。ちょっとツラかりるだけだ」

「えっ。あっ……」

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