第16話 悪役令嬢は怒っていません。
「うーん……」
何度も何度も鏡を見ても私の顔は変わらない。
こう、角度を変えてみたり表情を変えても特に意味はない。
「やっぱり顔丸くなっているよね……」
かろうじて服はきつくない。
でも俯いた時に感じる頬の重さは確実に太っていると言える。
原因はハッキリしている。
バター醤油。
あの食事会でビオロ様とエイロン様、それにコルセイユさんと全員が見事ご飯を気に入ってくれて、ここぞとばかりに醤油や味噌を使った料理もあると言ってみたらすぐに取り寄せてくれた。
ただこれは国とのやり取りじゃなくて個人の取り引きだからお店で販売されるわけじゃない。個人貿易っていうやつかな、王子の権力凄い。
味噌と醤油は取り寄せてすぐにアズマが色々な料理を作ってくれてこれも大好評。そのまま味噌と醤油はアズマが管理する事に。
そうしたらアズマがこっちにもお裾分けしてくれて、気分はまさに念願の醤油を手に入れたぞっ! てなわけでして。
醤油といったらバター醤油でしょ。
流石に某漫画みたいにコンクリートとまでは言わないけど、どんな食材とも相性がいい。
私は特にジャガバタ醤油がお気に入り。
そんな感じでうっかり毎日バター醤油を堪能した結果がこの醜態。
前世と違って公爵令嬢の今、痩せる為に走るとか出来ないから気をつけないと。
とりあえずは顔面体操を頑張ろう。
******
翌日になって、いつものようにビオロ達様の所で話しているとアズマがジッと見ているのに気づいた。
「どうしたのアズマ」
「いえ……あの、エグレット様、少し顔が丸くなられました……?」
…………。
アズマが言った瞬間のこの空気の凍りつきようは何て言ったらいいのかしら。
まあ固まっているのはビオロ様とコルセイユさん、フィンク様は……あ、困った顔をしている。こういうのはちゃんと理解しているんですね。
「言われてみれば……お前太った?」
「え、あ、違……! そういうつもりで言ったわけでは! その、俺は多少ふっくらしている方が可愛らしくて好きです!」
エイロンはともかく、フォローしてくれているようで追い討ちのトドメを刺してくれてありがとうアズマ。
別に怒りはしない。だって太ったのは事実だし体重管理を怠った私が悪いんだから。
うん、怒ってはいない。
「……ありがとう、アズマ。ところで、皆さんに是非試してほしいものがありまして……最近また美味しいものを見つけたんです」
というわけでまた調理室を借りて皆にバター醤油を教えたらこれも大好評。さすが何処かで悪魔の組み合わせと言われていただけあって皆夢中で食べてる。
倭国にはバターがないらしいから特にアズマが気に入っているみたいだし、エイロンもジャガバタ醤油を美味しそうに食べている。
よしよし、その調子でどんどん食べていってね。
「バター醤油って合わないものはないんじゃないかと思うぐらい美味しいんですよね」
「確かに……色々試してみたくなりますね」
「俺はこのジャガバタ醤油だけで十分だな。これなら毎日でも食べれるぜ」
かかった!
あとは……。
「ビオロ様フィンク様、それとコルセイユさん、ちょっとこちらへ……」
******
一週間後。
あれから顔面体操を頑張って、ついでに室内トレーニングを増やしたおかげで無事元の体型に戻った。
よし、顔も軽い。
足取り軽く皆の所へ向かえば何やら暗い顔をしているアズマとエイロン。
様子を見るに見事策にハマってくれたらしい。
本当は何も言わず穏便に済ませるべきなんだろうけど……残念ながら私は悪役令嬢!
主人公のような善人じゃない!
「あらアズマ、貴方顔が丸くなった?」
「エ、エグレット様……」
「エイロン様も少し太くなられたようですが……でも多少ふっくらしている方が可愛らしくていいみたいですし特に問題はありませんよね」
一週間前に言われた事をそのまま言い返せばアズマの顔はみるみる真っ青になっていった。
王子であるエイロンにもこういう事を言うのは正直後が怖い、けど言わずにはいられらない!
もうどうにでもなれってヤケになりつつ、顔を引き攣らせるアズマとエイロンを横目ににっこり笑顔でそのまま去っていった。
よし、決まった。
******
「怖ぇ……」
エグレットが教室から去っていくと固まったままだったエイロンがようやく動き出した。
「今回はエイロンとアズマが悪いですよ」
「うん、僕もそう思う。女性に体重の話はタブー、これ何処の国でも一緒」
「そういやお前らといいコルセイユも何で太ってねえんだよ」
「僕達はエグレットからちゃんと注意をいただきましたから。ね、コルセイユ」
ビオロ達も同じくバター醤油は気に入って食べていたが見た目には何の変化もない事に不満気なエイロンに対しビオロは涼しい顔で答えた。
「え?」
「はい、その、バター醤油はカロリーが高いから食べすぎないようにと……」
「……」
「相当根に持っているみたいでしたし……まあ暗殺者を雇っていない辺りエグレットは優しいですね」
「そんなになのか……?」
女性の扱いに詳しくないエイロンは驚いているが、下手すると全女性を敵に回しかねない事をエイロンはやらかしている。
その辺りエグレットはまだ優しい方に入るのかもしれない。
「ああそうだアズマ」
「は、はい」
「今すぐ謝罪に行きそうですがそれは逆効果ですので止めておきなさい」
「え?」
「君の事ですしまた悪意なく体型の話を出すでしょうが、それは火に油を注ぐだけです。そんな事をすれば今度こそ完璧に嫌われてしまいますよ」
「そんな……」
「あ。アズマ動かなくなった」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます