第15話 悪役令嬢はお米を広めたい②
ラーメンはビオロ様とコルセイユさんにも大好評。
最初は躊躇ってなるべく音を立てないようにしていたけど、食べていく内に気にならなくなったのかフォークを使って上手にすすっていた。
「それにしてもエグレット様はお箸を使うのが上手ですね」
「え、そうかしら。でもアズマも上手に使っているじゃない」
「俺の国ではお箸で食べるのが普通でしたから……」
あ、そうだった。元々この国にお箸はないから使えないのが普通なのよね。
「初めてのものを使いこなすとは……」
「エグレットは器用なんだね!」
「流石ですエグレット様」
お箸を持てるだけでこんなに褒められるのは照れる……でも、嬉しい。
前世の記憶戻ってよかったー!
******
「ああ、美味しかったー!」
皆も美味しいと言っていたしまた来ようかな。
それにしても、ラーメンを食べると餃子と焼き飯も欲しくなるのって何でだろう。でも餃子を作ろうにも醤油がない。
「帰ったら焼き飯作ろうかしら……」
「ヤキメシ……ですか?」
「何ですか、それは」
おっと、思わず呟いた言葉が聞かれちゃった。でも今すごくいい事閃いた。
「お米を使った料理ですが……ビオロ様とコルセイユさんはお米をご存知ですか?」
「お米……?」
「確か倭国の主食になっている穀物でしたよね」
流石王子、他国の情勢にも詳しい。
ちょっと興味を持ってくれたみたいだしこれならいける。
「はい、とても美味しい食材なんです。もしよろしければ食べてみませんか、私の屋敷にはお米がありますし調理出来るシェフもいますのでご馳走する事が出来ます」
「ご馳走! 僕は!? 僕もいい!?」
「勿論です。そうだ、ご飯は音を立てて食べるものではありませんからエイロン様も誘っていただけますか」
「そうですね、話を聞く限り大丈夫そうですし声をかけてみます」
よし!
私も頑張ってお米を広めてはいるんだけど、私の力じゃ屋敷の人に広めるのが限界。
でも王子の二人ならもっと多くの人に広められる筈!
たとえ十人に一人の割合でも、数百人に広まれば数十人。それだけ広まればこの国もお米の良さに気づいてラーメンのようにお店が出るかもしれない!
「あ、あのお誘いは嬉しいのですが平民の私なんかがエグレット様のお屋敷になんて……」
「美味しい食事をするのに身分なんて関係ありません! 是非是非コルセイユさんも来てください!」
コルセイユさんが身分を気にして辞退しようとしたのを、一人でも多くの人に米を広げたいのに身分なんかで妨げられてたまるかという思いで手を握って引き止めた。
「え、あ……いいんですか? ……ありがとうございます」
いきなり手を握られたのにコルセイユさんは怒ったり嫌な顔せず、屋敷に来てくれると約束してくれた。
******
あの後既にお米の美味しさを知っているアズマとフィンク様にも協力をお願いして今は私の屋敷で作戦会議中。
さて、ビオロ様達にどんな料理を出そうかな。
「先程おっしゃっていた焼き飯ではダメなのですか?」
「なるべく多くの種類を食べてほしいのよ。だから焼き飯だけじゃ全然足りないわ、オムライスも作ってもらって……それでもまだ少ないわね」
「オムライスを……!?」
何でアズマはそんなショックを受けた顔をしているんだろう。
「……そんなにビオロ様が大事なのですか……?」
「当然じゃない。ビオロ様とエイロン様がご飯の美味しさに気づいて国中に広めてもらえたら、この国でも簡単にお米が買えるようになるかもしれないのよ」
「ワオ! そうなったら僕もいつでもご飯食べられるようになるね!」
今は個人的に倭国へお米を取り寄せているから手間とか時間がすっごくかかって大変なのよ。私じゃなくて手続きしている人が。
だから何としても今回の食事会でビオロ様とエイロン様のどちらかを、欲を出すなら全員を米料理で魅了したい。
「お米の為、ですか……良かった、それなら俺も全力を尽くします」
「僕も!」
「ありがとう」
「なるべく沢山の種類を出したいというのなら出す料理は小さめの方がいいでしょうね。あとはバイキング方式にして見た目もこだわって……」
おお、ポールもすごいやる気を出してくれている。料理人として食材が手軽に入手できるようになるかもしれないもんね。
それで肝心の料理なんだけど、私も大分学んできたから倭国の米料理をそのまま出すのはまずダメ。
食文化が全然違うからこの国の料理に寄せたものの方が受け入れられやすい筈。
私が両親にすすめた時は自分の事しか考えていなかったから、これが原因で失敗しちゃったのよね。
「それを考えるとピラフがいいかしら」
「ピラフ? 何それ美味しそう!」
「どのような料理なんですか?」
「お米を炊く前にエビとかの具を入れて、水ではなくスープで炊いたものよ。ただ、スープはブイヨンとコンソメのどっちを使うのか私には分からなくて」
基本私は冷凍ピラフをレンジでチンしていたから本当に分からない。
でもブイヨンとかコンソメはこの国にも普通にあるからそれで炊いたご飯はきっとビオロ様達も気に入ってくれると思う。
「話を聞く限りですとこの場合はコンソメを使った方がいいかもしれませんね。コンソメはいわば完成したスープですし、お米をスープで炊くだけでしたらこちらの方が味も整いやすいでしょう」
おお、流石料理長。ポールがそういうなら間違いない。
「あともう一種類欲しいですね……フィンク様の国ではどんな料理がありますか?」
「うんとね、ヒューナーフリカッセってご飯があるよ」
「ヒューナー……?」
何か難しそうな名前が出てきた。ミルヒライスといいフィンク様の国の料理は結構長い名前をしたものが多い気がする。
「えっと、ご飯に鶏肉を生クリームで煮たシチューみたいなものをかけて食べるの! 僕の国では子供達に大人気!」
「なるほど、ドリアみたいなものですね。それなら皆も気にいると思います!」
グラタンならこの国にもあるし、マカロニの代わりにご飯を入れるだけだから受けもよさそう!
「ドリア? ヒュナーフリカッセと似ているの? 僕食べてみたい!」
「俺も気になるのですが……」
あ、なんか嫌な流れ。
でも大丈夫! グラタンならポールも作れるし、ドリアも説明すれば作れる筈!
…………。
「これがドリア、ですか」
「本当にグラタンにご飯を混ぜるんですね……」
結局上手く説明出来なくて私が作ることになりました。
ああ! でもやっぱり見た目が! 何かドロっとしてグチャッとしてる!
あの時からほとんど料理らしい事をしてないから当然といえば当然か……。
それにしても、元のホワイトソースはポールが作ってくれてそれまでは綺麗だったのに、何で私が手を加えた途端にこんな残念な見た目になるの?
「すごいねエグレット! ミルヒライスみたいだけど全然違う! でもとっても美味しい!」
「ありがとうございますフィンク様」
でも今のその言葉はあまり嬉しくありません。正直ミルヒライスを初めて見た時ちょっと驚きましたから。
「お米にこんな食べ方があるなんて初めて知りました。エグレット様は料理に詳しいんですね」
「これならビオロ様達のお気に召すと思いますよ」
「ありがとう、でもいきなりこの見た目の料理を出されて食べたいと思う?」
味は美味しいのよ、むしろ不味いはずがない。でもまず食べたいと思わせる見た目じゃないと手に取る事はないと思う。
実際アズマとポールは無言でドリアを見つめているし。あとよく分からず首を傾げているフィンク様は可愛いな、癒し。
こうなったら最終手段。
「アズマ、ポール、このドリアを美味しそうな見た目にして! もっとこう、食欲がそそられるような感じで!」
「「はい、お任せください!」」
本職料理人に全投げ! 案は出したから私はもうフィンク様と一緒に食べる専門にまわろう。
その後アズマとポールの努力のおかげで食事会は見事大成功した事だけは言っておく。
広まるかは分からないけれど、皆が笑顔で美味しいと言って完食どころか足りないとまで言われて、作ったアズマとポールも嬉しそうだったからこれでいい事にしておこう。
……オムライスといいアズマに二回も微妙な見た目の料理を食べさせてしまった……ちょっと練習しようかな。
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