第14話 悪役令嬢はお米を広めたい①

「近くでラーメンのお店が出来たんだよ!」


 いつものように放課後に集まって話しているとフィンク様が興奮した様子で教室に入ってきた。


 ラーメン? ラーメンってあのラーメン?


「本当ですか?」

「うん、本当だよ! クラスの人達話してた、お店の場所と名前も聞いたから案内できるよ」


 ご飯でも十分満たされているとはいえ、それとこれとは別問題。

 作り方とか全然分からなかったし、アズマの国にもラーメンはなかったから諦めていたけど食べられるのなら今すぐ行きたい。


「音を立てて食べるんですか……?」

「しかもそれがマナーだと?」


 ラーメンがどんな料理か知らないビオロ様とエイロン様に説明するともの凄く顔を顰めていた。

 そういえばこの国ってパスタとか麺料理は音を立てないのがマナーで、啜って食べるのは品がないとされていたっけ。


 まあいくら美味しいとは言っても無理強いは出来ないわね。


 ただ私も一応身分があるから、いつもの服でラーメンを食べにはいけない。

 というわけで、一般風の服に着替えてアズマとフィンク様と一緒にラーメン店へ向かった。


「あ、エグレット様」

「コルセイユさん? と……」


 いざ入店直前、丁度入り口前でコルセイユさんと会った。隣には見慣れない? 男性。


 見慣れない? あ、見慣れないのは服装だけで、この人って。


「あっ、ビオロだ!」

「え、あ!? うわ、ちょっと!」


 フィンク様がそう言うと変装したビオロ様は慌ててフィンク様だけでなく私達も引っ張って店の裏側へ引きずるように連れて行かれた。


「ビオロ様も食べに来られたのですね」

「コルセイユさんもラーメンが気になっていたようなので……」


 コルセイユさんの為にと、あとやっぱりちょっと気になっていたから勇気を出して一緒に来たらしい。


「しかし念の為と変装はしてみたのですが簡単にバレてしまいましたね……」


 まあ、確かにいつもと違う服には変えて一瞬では気づかなかったけど、帽子を被ったり髪型を変える事を一切していないからすぐに気づくと思う。


「そういえばエイロン様は来られていないのですか?」

「誘ってはみたんですが、音を立てて食べることがどうしても無理との事だったのでやめておきました」


 やっぱり音を立てて食べるというのはハードル高いのね……でも見た目に反して、といったら失礼か。

 食事作法とかを大事にしているのね。普段の言動からは想像しにくいけど。


「あの、僕がここに来た事は誰にも言わないでもらえますか……特に音を立てて食べる事を」

「勿論です。その代わりというわけではありませんが私の事も言わないでくださいね」


 全員とそう約束して改めて入店。


 入って真っ先に目に入ったのは大量の貼り紙。


『音を立てて食べるのがラーメンのマナー』

『ラーメンはラーメンであってパスタではない』

『音を立てて食べないのがパスタ、音を立てて食べるのがラーメン』


 壁のあちこちに貼られていて相当言われまくったんだろうなという店の苦労が見てとれる。

 それでもラーメンの食べ方を譲らないそのこだわりは凄い。


「……ん?」


 と思っていたら隅に小さく『お箸が使えない方にはフォークを用意しています』て貼り紙を見つけた。


「優しい!」


 結構人もいるし繁盛しているみたい……と思って周りをよく見れば私と同じ年頃の男女が多い。もっと言うと、学園で見た事ある子達ばかりで、しかも貴族の子もちらほら見える。


「……皆、新しいものに興味津々なんですね」


 自分だけじゃないって分かったのかビオロ様は明らかに安心していた。


 ……。


 あれ? 私も一応公爵令嬢で貴族で身分高いんですけど?

 何で他の貴族を見てから安心したの?

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