第13話 悪役令嬢はもう一人の攻略キャラを思い出しました。
あれから数日。
約束通りフィンク様は来てくれて、一瞬にして皆と仲良くなった。
「あのね、アズマ。僕お腹減った」
「おにぎりでよければありますよ」
「ありがとう!」
特にアズマと仲が良いというか餌付けされているように見えるのは気のせいかな、気のせいよね。
「フィンク様、今食べられては昼食が入らないのでは?」
「というかいつも昼少ないのはそれが原因じゃないのか? 夕方も腹空かせているだろ」
「うん、この国は食事の回数が少ない。けどその分量が多くて大変」
「え?」
話を聞いてみると、フィンク様の国では食事は一日五回。その分量は少なめ。
対してここの国は一日三回。
フィンク様にとってはいつもより二回分食事が抜けるから次の食事までもたないし、ここでの一回分の食事量は多すぎて食べきれないらしい。
「そんな事情があったのか……」
ただの食いしん坊キャラじゃなかったのね……。
「生活に支障が出ているようなら理事長に話して少し融通してもらえるよう頼んでみましょうか?」
「大丈夫! あのね、僕がお腹空かせると色んな人がクッキーとかケーキくれるの。だから大丈夫。この国の人皆優しいね」
そのお菓子をくれる方々はおそらく全員女性とみた。
私もゲーム内ではついついお菓子をプレゼントしていたし、一部プレイヤーからはマジ天使と呼ばれていたのをはっきり覚えている。
「あとね、理事長は僕の事知ってる。だからよくアズマみたいにお菓子じゃなくておにぎりくれるよ。優しいね」
「……え?」
『理事長が優しい』
フィンク様から出た言葉に思わず聞き返したけど、周りも、アズマ以外は皆固まっていた。
「……優しい、か?」
「とても真面目な方とは思いますが……」
理事長。
マジックエコール最怖キャラクターであり、トラウマ生産機。
三連続で成績最下位を取る、パラメーターが規定値以下になる、特定の行動やイベント選択肢で非常識なものを選んだりして隠しパラメーターの悪人が規定値に達すると理事長が現れ退学を言い渡され、バッドエンディングになる。
つまり、この人が登場するということはゲームオーバー確定。
特に初期は慣れていない事もあってゲームオーバーになりまくり、初心者プレイヤー達のトラウマになり最凶キャラクターとしても君臨している。
そしてまさかの隠し攻略キャラ。
それが発覚した時のプレイヤー達の叫びは凄まじかったなあ。
全キャラエンド見た後に初めて攻略できるようになるんだけど、今までが今までだけにこの人が登場するだけでゲームオーバーかと思って非常に心臓に悪い。
私も初めて理事長エンドを見た時はがっつりトラウマになっていたから、違う意味でずっとドキドキしていた。
普段から無表情で、偏見だけど金髪なのがより冷徹って感じがして。
イベントは大人な対応で表情もそんなに変わらない中エンディングで初めて見せた笑顔のギャップは凄まじくて、でもやっぱり違う意味で心拍数がすごかった。
プレイに慣れていたとしても件のエグレットの妨害イベントによるパラメーター低下によっては容赦なく退学になるから特にゲーム序盤は油断出来なかったなあ。
っと、思い出語りはここまでにして。
とにかく、あの冷徹理事長が優しいとな?
「俺も理事長と話した事ありますが色々気にかけてくれましたよ」
アズマにも優しいと?
「……まあ理事長ですし。国ごとに習慣が違いますから気にかけているのでしょう」
「あの人にも心ってのがあるんだな」
流石にエイロン様は言い過ぎでしょう、と思えないのよね。私も同じ思いです、はい。
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