第7話 悪役令嬢は学園に入学しました。

 あれから五年。

 とうとうゲーム開始のマジックエコールへ入学する歳になった。


 それで、今更知った事なんだけど……。


「エグレット、君のマジックエコールの入学が決まったよ。おめでとう」

「あそこは入学希望者が多いから入れるか不安だったけど良かったわ」


 マジックエコールっていうか、魔法を学ぶ学校って複数あるの?


 キャラ達の存在を確認してマジックエコールの存在を知った時点でゲームの世界と確信してそこで終わっていたから改めて調べてみたら、魔法を教える学校は三つあって一つがこのマジックエコール。

 そして残り二つは平民だけが通えるコモンスクール、貴族だけが通えるノーブルスクール。


 何それ初耳。

 

 更に調べたらマジックエコールは全寮制で平民貴族関係なく入学出来て、卒業生は高位の仕事に就いたりと出世率が高い。なので入学希望者が多いんだけど、マジックエコールの生徒数は一学年につき平民貴族各五十名ずつの合計百名。

 三つの学園の中でも桁違いに少ないから競争率が凄まじい。


 ノーブルスクールなら主人公に会う事もなく過ごせただろうけど、両親が少しでもいい学校に行かせようと頑張ってくれたのを主人公に会いたくないから嫌だなんて言えない。


 ま、まあ私が主人公を苛めたり、接触しなければいいだけの話だから大丈夫でしょう。


 あれからビオロ様とエイロン様とは変わらず交流があって今では普通に仲の良いお友達。もしかしたらと思っていた他の攻略キャラと会う事はなかった。

 アズマともあれ以来会えていない。


 そんなこんなで無事入学式終了。

 生徒の全体数は一番少ないといっても百人もいて、そんな中で主人公一人だけを見つけるなんて難しすぎる。

 まあ別に見つけたからどうって事ないからいいか。


 ゲーム内ではエグレットから積極的に絡みに来ていたけど、主人公からエグレットに行動を起こす事は……。

 ……ゲームならともかく現実で初対面の人にいきなり退学にさせる為に動く事はないから大丈夫だと思う。多分。


 そして私は現在絶賛迷子中。


 学校の構造は頭の中にしっかり入っているのに、いざ現実で歩くと何が何やらさっぱり分からない。

 ゲームだったら、ゲームだったら迷う事なく目的地へ行けるのに……。


 とりあえず正面口らしい場所へ向かって歩いていたら前の方にビオロ様と女性を見つけた。

 思わず足を止めて眺めていたら思い出した、これゲームの出会いイベントだ。


 最初のプロローグともいえるイベントで、学校で迷子になった主人公に選択した攻略キャラが現れて案内してくれるというもの。

 好感度がちょっと上がるだけで、それも本当に僅かだから別にこのイベントを起こさなくても攻略は可能で次の本格的な出会いイベントの会話がちょっと変わる程度のもの。その会話内容全て確認する為に全部見たからよく覚えている。


 っと、イベントはともかく、つまりビオロ様の目の前にいる女性が主人公。

 主人公の見た目は茶髪のボブ。ビオロ様との身長差から考えて私より同じか少し小さいぐらい。


 出会いイベントなのでまだ何とも言えないけど、今ビオロ様に会っているという事はやっぱりビオロルートなのかな。


 ……。

 そういえばエグレットはビオロ様と幼馴染でもあるんだよね。

 そしてビオロルートに入ると子供の頃から好きだったと判明する。

 子供の頃から好きな幼馴染が、見知らぬ女の子と仲良さそうに話していたら不安にもなるかな。


 ビオロルートが公式だとしたらエグレットが主人公にやたらきつく当たっていたのはこれが理由かも。


 まあだからといって苛めるのはよくない!


 とりあえず主人公がどういう性格なのか知ろうと更に眺めていたら「エグレット様」と声をかけられて振り向けばそこには見知らぬ男子生徒。


 ん? いや、この国にはない黒髪。

 もしかして、いやもしかしなくても。


「アズマ! 何故ここに!!」

「留学してきたんです、倭国以外の料理も学ぼうと思いまして。それに約束しましたから……その、会いたかったです」

「私もよ、本当に久しぶりね」


 もう会わないと思っていたからすっごく嬉しい。

 髪型は昔と変わらないけど身長は伸びて私より高くなっているし、中性的だった顔立ちは成長して凛々しくなっている。


 でも、あれ? アズマってキャラはマジックエコールにはいなかったはず……やっぱりゲームとは違うところがあるみたい。


「おや、エグレットに……アズマではありませんか! 久しぶりですね」

「ビオロ様、俺の事覚えていてくださったんですか」

「当然ですよ」


 思わず大声を出したのでビオロ様が気づいてやって来たけど主人公とは別れたらしくて近くにはいなかった。

 ちょっと残念なような安心したような、複雑な気分。


「お、アズマじゃねえか! お前もここに入学したんだな」


 そこにエイロン様もやって来て、私もだけど二人も嬉しそうで全然話が終わらない。


 聞けばジェロームさんも帰国していてレイジさんは倭国にいるらしい。


「って事はアズマは一人で来たの?」

「いえ、実はジェロームさんがこの国での俺の保護者のようなものになってくださって。この学園に入れるよう手続きもしてくれました」


 あれ、でもここって結構競争率高かったような……でもジェロームさんって凄い人だし、簡単に入れるツテとかがあるんだろうな。


「ああ、もうこんな時間ですか。そろそろ部屋に戻りましょうか」

「おっと、話に夢中になりすぎたな。アズマは部屋何処だ? 今度遊びに行かせてくれよ」

「はい、勿論。……あの、エグレット様……」


 アズマが急に真面目な顔になったんだけど何かあったのかしら。


「折角ですし俺の部屋に来ませんか? もう少し話がしたいのですが……」

「えっ」

「うわ、お前そんな直接……」

「え?」


 アズマが私を部屋に誘ってきてエイロン様があからさまに引いてるしビオロ様も顔が引き攣っている。かくいう私も頬がヒクヒクしているのを感じる。


「あの、アズマ。僕達の国では女性を部屋に誘うのは、その……あまり良い行いとはいえないと言いますか……何と言うべきか……」

「アズマ、お前の国じゃ夜に女を部屋に一人で来させるのは普通の事なのか?」

「え? 夜……あっ! ち、違っ、そういうつもりではなくて……! 俺はただ話がしたかっただけで……!」


 夜というかもうすぐ夕方って時間。とはいえ意味は伝わったみたいでアズマの顔が真っ赤になっている。

 うん、そんなつもりがないのはアズマの性格からして分かってはいるけどそれでも、ねえ。


「アズマは言葉は完璧ですが、この国の習慣についてはまだまだみたいですね」

「う……。気をつけます……」

「俺達は大丈夫だが他の貴族に聞かれたら大変だしな。俺で良ければ教えるぜ」

「ありがとうございます……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る