第5話 悪役令嬢は和食に飢えています④

 あれから毎日アズマ君を研究所まで送り続けて十日後、とうとう炊飯器が完成した。


 アズマ君の滞在出来る期間が一ヶ月と知ったジェロームさんは凄く頑張ってくれて、もう何てお礼を言ったらいいのか分からない。


「滅相もございません、むしろお礼を言うべきはわたくしの方でございます。未知のものを知り、それに携わる事が出来るのはわたくしにとって至上の喜び、そのきっかけを与えてくださったエグレット様とアズマ様には感謝しかありません」


 この人本当優しいし喋り方もすごい丁寧な人だなあ。

 とはいえそれだけだと私の気がおさまらないから何かしらの形でちゃんとお礼しないと。


 でもまずは炊飯器。

 ジェロームさんが作ってくれたのはまさに前世にあった炊飯器そのもの。

 違うのは電気ではなく設置されている魔石に魔力を込めて動く事。


 炊き上がったお米はアズマ君も満足していて勿論私も大満足。


 でもここで終わりじゃない。

 このご飯を屋敷に広めて、屋敷の人が他の人にも広めていけばこの街だけでなく国でも普通にご飯が食べれるようになる!


 早速ご飯を広める為の第一歩としてジェロームさんも一緒に屋敷へ戻ってお父様とポール、レイジさんに披露。


 ポールとレイジさんは美味しいって言ってくれている中、お父様だけ反応はいまいち。一応美味しいとは言ってくれているんだけど「独特な食感だな」って、ちょっと好みに合わないみたい。


 でもレイジさんは目を輝かせていて、ジェロームさんにひたすら感謝して拝んだりまでしている。

 ジェロームさんも嬉しそうなんだけど、実はまだ完璧じゃないらしい。


「他の魔道具に比べて必要な魔力が多く、それに炊ける量も一合だけと少ないのでございます」


 私からすれば十分だしポールやレイジさんも感動している。でもジェロームさんはまだまだ性能面を改善出来ると納得していないみたい。

 向上心凄まじいなこの人。


 まあでも確かに私一人ならともかく、レイジさんみたいな料理人だともっと沢山炊けた方がいいよね。


「これだけでも十分なのに更に沢山の量が炊けるようになるのですか?」

「お時間とその、少々申し上げにくいのですが費用がございますれば」

「この魔道具はそんなに素晴らしいものなのか?」

「はい、私の国ではこの米が主食ですが、このようにボタンを押すだけでご飯が炊けるという物はありません。この魔道具を私の国に持ち帰れば、欲しがらない者はいないと自信を持って言える程素晴らしいものです」

「ふむ……」


 お父様がお米に興味を持ってくれたみたいでポールとレイジさん、それにジェロームさんと何だか難しそうな話を始めた。

 でも悪い感じはしないし大丈夫そう。


 ただ話が終わりそうになくて放置されている炊き上がったご飯がどんどん冷めていってる。


 勿体ないし、誰も食べないならちょっと作りたいのあるんだけどいいかな。いいよね?

 ご飯が食べれるようになったらどうしても食べたいものがあったのよね。


「ケチャップはあるし、卵もある。これならオムライスが作れる……!」

「おむらいす、って何ですか?」


 おっと、アズマ君に聞かれちゃってたか。

 でもアズマ君なら見習いと言っていたけど私からすれば立派な料理人だし、もしかしたら作り方教えたら作ってくれるかも!


「とっても美味しいものよ! お父様達は話に集中しているみたいだから私達だけで厨房へ行きましょう」

「は、はい……!」


 ……と、まあアズマ君に簡単に教えようとしたんだけど、何も知らない相手に分かりやすく教えるって難しいのね。

 そう思うとやっぱりジェロームさんは凄かった、頭が良くて優しくて教えるのも上手って完璧じゃない。


「申し訳ありません、エグレット様……」

「謝らないで、上手く伝えられない私が悪いんだから……」


 うん、こうなったら私がやるしかない。


 で、作ったんだけど……。


「これがオムライス……」


 出来上がったのはお店で見るような綺麗なものではなく、卵は破れて中のご飯が見えているし、半熟に出来なくて固焼き卵。そして何よりケチャップライスが本当にケチャップしか入っていない。


 ちゃんと玉ねぎとかとり肉を入れようとはしたけど、今の私じゃ届かない場所に置かれていたから断念。

 卵の入っている冷蔵庫はかろうじて届いたからよかったものの、金持ちの冷蔵庫って無駄にでかいのは何でだろう。


 とにかくとことん手抜きなオムライスでもアズマ君は美味しいって言って食べくれている。


「本当はもっと色んな具が入っていて美味しいものなんだからね!? 卵だってこんな焼き色ついてなくて固くないし、破れて中が見えるなんて事もないから綺麗なんだからね!?」


 喜んでくれてるからいいけど、ちゃんとしたオムライスを知っている身としてはとても心苦しい。

 いつかリベンジしてやる。

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