第22話 激戦、終幕
「瞬時に我が攻撃を回避する手段が取れるとはな……。貴様の大口も侮れぬということか」
「言いたいことはそれだけ?」
体勢を立て直すと同時に城壁を駆け上がり、バルタザールを見下ろす。
「なんだと……?」
狐火の直撃を受けたバルタザールの大鎌が、僅かに刃こぼれを起こしている。
機体の指で大鎌の具合を確かめたクザンは、忌々しげに大鎌の柄を地面に突き刺した。
「自慢の大鎌がそれだと、切れ味も鈍りそうね? 解体ショーはもうおしまい?」
「ハッ、笑わせる! 斬るだけが能の我が武器ではないぞ」
大鎌を構え直したバルタザールが、柄を頭上で振り回し、旋風を巻き起こす。
轟々とうねりを上げた旋風はゲヘナで形成された鋭い刃と化し、瞬く間に華凛を取り囲んだ
「どうやらそのようね!」
華凛を跳躍させ、風の刃から上空へと逃れる。
「解体ショーの次は鬼ごっこかぁ?」
クザンの嘲笑の声が浴びせられるが、リサは答えない。
「それとも、かくれんぼでも始めるつもりか?」
城壁を飛び越え、荒れ果てた庭を踏み荒らしながら古城の跡地を進む華凛は、かつての建物と建物の間と思しき僅かな空間に降り立った。
「それで隠れたつもりかぁ!?」
華凛の存在を暴くように、バルタザールの激しい斬撃が頭上から降り注ぐ。
「あんたを誘い込んだのよ!」
横転して攻撃を躱し、瓦礫の上へと駆け上がったリサが瓦礫の間に入り込んだバルタザールに長刀を突き立てる。
「甘い!」
刃が触れる寸前、体勢を戻したバルタザールの大鎌の柄が華凛の胴を薙いだ。
「……っ!」
後方に倒れることで攻撃から逃れ、素早く身を起こす。
が、次の攻撃の隙を与えまいとしてか、間髪入れず大鎌の刃が襲いかかった。
「……ぅ、ぐ……」
大鎌の刃を剣で受け止め、防御の姿勢を取った華凛は、押し負けたようにじりじりと後退を始める。
瓦礫が音を立てて崩れ、華凛の脚が瓦礫の中にめりこんだことで、古城はさらに崩壊を進める。
「さっきまでの威勢はどうした?」
至近距離にまでバルタザールを肉迫させたクザンが、己の力を誇示するようにリサの華凛を
「そっちこそ、ボディがガラ空きよ!」
「な……っ!」
大鎌を防いだまま、魔導散弾砲に手をかけた華凛が、砲撃を浴びせる。
至近距離で散弾砲を受けたバルタザールが怯んだ隙に、華凛の長刀が胴を薙いだ。
「はぁあああっ!」
形勢逆転を維持しながら、リサが攻撃を続ける。
完全に華凛の間合いに誘い込まれていたバルタザールは激しい斬撃にたまりかねたように上空へと飛び退いた。
「威力に難ありね。あれで致命傷だったら楽なんだけど」
苦笑しながら魔導散弾砲に装填し、宙に逃れたバルタザールに狙いを定める。
「少しは頭が回るようだな。だが、これはどうだ?」
バルタザールの機体の周囲に、再び無数の炎の矢が具現し、華凛を狙い撃つ。
「……っ!」
魔導散弾砲を腰に戻し、リサは華凛を唯一残る城壁の裏へと跳躍させる。
炎の矢は、つい先ほどまで華凛がいた場所に集中して降り注ぎ、引火した古城がたちまち炎に包まれ始めた。
「どうした、逃げ場はないぞ?」
華凛を追い込んだクザンが自らの優位を示すように、城壁に炎の矢を叩き込む。
「そのようね!」
炎に包まれる城壁を蹴り、瓦礫の上を疾走する。
炎の矢は姿を現した華凛を
「…………」
立ち止まればすぐに炎の矢の餌食になる。バルタザールとの一定の距離を保ちながら華凛を疾走させるリサは、映像盤を通じて注意深くバルタザールと炎の矢の動向を探った。
(あ……)
炎の矢の大きさに、ばらつきが生じている。
スピードはあるものの、引火に至るどころか瓦礫に激突して弾け散っているのが幾つも見えた。
その様子からも、最初の頃の攻撃に比べると威力が弱まっている様子が窺える。
「ねえ、クザン! 炎の威力が弱まってるわよ? 調子に乗って連発して大丈夫なのかしら?」
「まずは自分の命を心配することだな。我が力、見せつけてくれるわ!」
ゲヘナを発動させ、無数の魔法陣を機体の周囲に浮かばせたクザンが、バルタザールの翼を激しく羽ばたかせる。
翼の羽ばたきに連動するように増幅したゲヘナは、炎の槍と化し、標的である華凛に鋭く燃えさかる炎の穂先を向けた。
「今度こそ終わりだ!」
クザンが叫び、炎の槍を一斉に放つ。
「それはこっちの台詞よ!」
魔導散弾砲を構えた華凛が、氷晶弾で迎え撃つ。
「な……、馬鹿なっ!」
バルタザールの炎の槍は氷晶弾の冷気によって相殺され、失速し、ばらばらと地上に落ちた。
「こういうのはどう?」
左膝から取り出した板を勢いよくバルタザールへと投げつける。
「効かぬ!」
クザンがそれを大鎌で弾き返そうとしたその瞬間。
「そう来ると思ったわ」
魔導散弾砲から発せられた散弾が板を打ち抜き、目が眩むほどの激しい閃光が炸裂した。
「……っ、目が、目がああああっ!」
まともに閃光を喰らったクザンが、悲鳴を上げながらバルタザールを後退させる。
リサはその隙に長刀を構え、バルタザールとの距離を一気に詰めた。
「貴様、
視力を取り戻したクザンが咄嗟に防御の姿勢を取る。
が、華凛の渾身の一撃の前に機体は吹っ飛び、瓦礫の上に横転した。
「魔族相手には手段を選ばない主義なの」
「させるか!」
続くリサの斬撃を大鎌を振り回して逃れ、バルタザールが体勢を整える。
華凛の長刀と大鎌の刃が競り合い、激しく火花を散らせながら互いの力が拮抗する。
「ぐ、ぐぅ……」
唸り声を上げながら、バルタザールが徐々に華凛を押し返し始める。
「大人しく……やられなさいっていうのよぉ……!」
リサが渾身の力を込めて水晶玉に両手を叩き付ける。
リサの思念と連動した華凛は、全エーテルを両腕に集中させた。
「ぐあああっ!」
負荷に耐えきれなくなった大鎌の刃がついに折れ、弾け飛ぶ。
怒りの咆吼を上げたバルタザールは折れた大鎌にゲヘナで具現させた刃を纏わせ、滅茶苦茶に振るった。
飛び退いて間合いを取ったリサが、長刀に狐火を纏わせる。
「死ねぇ!」
跳躍と共に振りおろされたバルタザールの攻撃を華凛が弾く。
「急場しのぎの刃で私に勝てると思うの?」
小爆発が起き、ゲヘナの刃がいとも簡単に消失する。
「人間風情が、この俺を追い詰めるか……。信じぬ、信じぬぞ……」
クザンの怒りがバルタザールに直に伝わっている。
震える腕で大鎌の柄を握りしめたバルタザールは炎の槍を具現させたが、それは発動前に魔導散弾砲によって打ち返された。
「往生際が悪いわよ。そろそろ観念したらどう?」
魔導散弾砲を投げ捨て、リサが長刀を構え直す。
刃を包む狐火は紫の炎を燃えさからせ、最大火力に至ろうとしている。
「くっ……、こうなれば貴様ごと――」
「これで終わりだぁあああっ!」
リサが水晶玉に両の手を添え、渾身の力を込めて念じる。
狐火を纏わせた長刀を勢いよく振り下ろした華凛は、身を守ろうと盾にした大鎌ごとバルタザールを両断した。
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