第21話 執行者の戦い

聖拝機関せいはいきかん所属の執行者と言ったか……。このクザンとバルタザールの敵ではないな」


 嘲るように笑い、邪甲兵バルタザールが浮上を始める。

 立ち昇る爆煙を大鎌で薙ぎ払いながら標的の気配を確かめたクザンは、閉じかけた転移門を目指した。


「あら、向こうに逃げ帰るつもり? そうはさせないわよ」


「なにっ!?」


 煙幕の向こうからリサの声が響き、振り向いたバルタザールの機体を華凛かりんの魔導散弾砲が掠める。


「ハッ、死に損ないが!」


 バルタザールが無数の炎の槍を生み出し、華凛に向けて発射する。

 迸る炎が火花を散らして炸裂し、爆風が吹き抜けた。


「何度来ようとも同じだ」


 背を向け、転移門へと飛翔したクザンだったが、思い直したように羽ばたきを止めて古城の瓦礫の上に立ち、爆煙が晴れるのを待った。


「……ほう。なかなかしぶといな」


「今度こそ背中を狙おうと思ったのに、残念だわ」


 一際強い風が吹き、黒煙を散らす。

 煙の中から現れた華凛は、ローブを解き、バルタザールに狙いを定めていた魔導散弾砲をゆっくりと下ろした。


「無傷……だと? 一体どういうことだ……? まさか、魔導障壁まどうしょうへきを使ったとでもいうのか!?」


「そのまさかだと言ったら?」


「馬鹿な! こんな小型の機体に搭載できる障壁など聞いたこともないぞ!」


「だからといって存在しないわけじゃないわ。なんならもう一度試してみる?」


 廃墟と化した古城の上に立つバルタザールを挑むように見つめ、問いかける。


「小手先だけの手品など、すぐに綻びが出るぞ」


「あら残念ね。もう飽きちゃったの? それじゃあ、次は解体ショーを始めようかしら!」


「貴様の解体ショーか? このクザンが直々に切り刻んでくれよう」


 大鎌で虚空を斬り、クザンが嘲るように問う。


「そんな攻撃なんて防御にすら値しないわよ? それとも威嚇のつもりなの?」


「無駄口を!」


 クザンが大鎌を振り回し、炎の槍を具現させる。

 華凛を左右に素早く跳躍させて攻撃を躱したリサは、バルタザールの機体が通れないほど狭く閉じた転移門を一瞥して微笑んだ。


「クザンとか言ったかしら……。そろそろ防御だけじゃなくて、攻撃も見たくなったんじゃない?」


 転移門はもうほとんど閉じている。

 リサの挑発にクザンは声を立てて笑うと、古城の瓦礫の上から飛び立ち、華凛の射程距離に降り立った。


 転移門が閉じ、残っていた魔法陣が虚空に消えていく。


「逃げ場はないわよ。いいの?」


「大した問題ではない。貴様を倒した後、また人間を集めれば良いことだ」


 退路を断たれたクザンが、大鎌を振り回しながら答える。


「それが出来るならね!」


 ローブを投げつけ、間髪入れずにバルタザールの間合いに入った華凛が斬撃を浴びせる。


「ぬるい!」


 翼を羽ばたかせて飛び退き、距離を取ったバルタザールは、大鎌を巧みに操って華凛の長刀を弾き返した。


「……くっ!」


 大鎌の勢いに押された華凛が、古城の城門跡に激突する。

 華凛に走った衝撃は、操縦槽そうじゅうそうにも伝わり、激しい揺れが起きたが、リサは水晶玉を強く押さえ、両脚に力を込めて耐えた。


「休んでいる暇はないぞ!」


「あっ!!」


 バルタザールが振り翳した大鎌の周りに無数の漆黒の炎が出現する。

 炎は見る間に鋭く形を変え、矢のように華凛へと降り注いだ。


「使えるのが槍だけだとでも思ったか!?」

「今度は数で勝負!?」


 後退し、間合いを稼ぎながら長刀で矢を薙ぎ払う。

 次々と降り注ぐ矢は華凛を追撃し、機体を掠めて火花を散らす。


「しつこいわね!」


 炎の矢の追撃から逃れながらも、長刀と魔導散弾砲を使って確実に撃ち落としていく。

 が、炎の矢に気を取られていたリサはバルタザールが視界から消失していることに気づき、思わず息を呑んだ。


「……バルタザールが――」



「もらったぁああっ!」


「しま……っ!」


 バルタザールの大鎌が華凛の機体を掠める。


「はぁっ!」


「……なにっ!?」


 咄嗟にバルタザールの顔面と大鎌に狐火を飛ばし、クザンが怯んだ隙を突く。

 相手の姿を確認する余裕さえなく、リサは転げるようにバルタザールから離れた。

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