第20話 究極奥義
赤黒く血の匂いを放つ泥で濡れた地面の上に、巨大な目玉がごろごろと転がる。
「地下水路から汚泥を巻き上げ、生け贄をたっぷりと喰らったか……キリがないのぅ」
怒りを隠せない様子のシェンフゥが、双剣――
レッサーデーモンの群れをどうにか突破して近づいたものの、本丸であるデビルプランテーションは新たなレッサーデーモンの製造を続けている。
地面に深々と突き立てられた人骨のパイプが、何かを吸い上げるようにぎこちなく動いている。
継ぎ目から漏れる汚泥は、デビルプランテーションの身体をさらに膨らませ、泥の中に血のような色の邪紋を浮かび上がらせて広がっていく。
「無限1UPのようじゃのぅ。わしにも裏技を教えてはくれんか?」
からかい半分に声を張り上げてみる。
返ってくるのはおよそ知能の欠片もないレッサーデーモンの笑い声だけで、デビルプランテーションはただ黙々とレッサーデーモンの製造という役割を全うし続けている。
「本体を叩くしかないのぅ」
ふっと息を吐き、呼吸を整えてデビルプランテーションとの距離をじりじりと詰める。
製造途中のレッサーデーモンの巨大な目玉が標的を捉えようと動くのにも構わず、シェンフゥはデビルプランテーションの間合いに入った。
「この距離ならば、どうじゃ……?」
双剣を構え、デビルプランテーションの装甲の隙間を狙って斬り付ける。
「!!」
が、腐敗した屍体の骨肉と汚泥の下の装甲がいとも簡単にシェンフゥの双剣の片方をへし折った。
「やはり、普通の攻撃は効かぬか……」
妖力を残る一本の剣に注ぎ、狐火を纏わせる。
紫の炎に包まれた剣を、突きの姿勢で低く構えたシェンフゥは吠えるように叫んだ。
「狐突、ゼロスタイル!」
構えた剣の先をデビルプランテーションに向けて勢い良く突き刺す。
至近距離からの最大火力で放たれたシェンフゥの攻撃は、デビルプランテーションの装甲に触れた瞬間に砕けた。
「さすがデビルプランテーションじゃ、なんともないぜ!?」
剣は、先が折れたのみならず、攻守の力を同時に受けてほとんど折れそうに曲がっている。
「流石に使い物にならんか」
独り呟いたシェンフゥを嘲るように、手足を備えたレッサーデーモンが、ケタケタと甲高く鳴き始める。
「だが、調子に乗るでないぞ? わしはあと二回変身を残しておるからの……」
呟きながら素早く跳躍して後退し、デビルプランテーションとレッサーデーモンとの距離を取る。
大量に生み出されたレッサーデーモンは、汚泥の中から手足を引き抜き、今にも飛びかかりそうに身体をしならせ始めた。
「仕方ない。ならば最終手段じゃ!」
折れ曲がった剣をその場に突き立てたシェンフゥが、空に向けて高く両手を掲げる。
「大地よ、海よ、そして生きている全ての皆――」
シェンフゥの指先にひとつ、またひとつと狐火が点り始める。
それはゆっくりと浮上を始め、巨大な円を描き始めた。
「このわしに、ほんのちょっとずつでいい……エーテルを――分けてくれぇ!!!」
狐火が描いた円が激しく燃えさかり、極大の狐火の塊へと化す。
紫の炎を纏い、荒々しく炎を踊らせる狐火を掲げたシェンフゥは、デビルプランテーションに狙いを定めて腕を振り下ろした。
「これがわしの究極奥義! シェンフゥ玉じゃああーーーー!!」
極大の狐火の球は、飛びかかるレッサーデーモンをものともせずに弾き飛ばし、デビルプランテーションの強固な装甲もろとも呑み込んで爆発する。
「はっ、火傷に注意じゃのぅ!」
苦笑しながら上空に浮かび上がり、爆風を逃れたシェンフゥだったが、その身体は意思とは関係なく降下を始めた。
「おろ~……」
背後に浮かぶ狐火の勢いが見る間に失速していく。
降下の速度に着地のバランスを崩したシェンフゥは、両手と片膝をついてどうにか踏んばり、肩で息を吐いた。
「い、いかん……妖力を使い過ぎた……。全盛期のように、というわけにはいかんか……」
荒く息を吐きながら膝に腕を置いて身体を支えながら、シェンフゥの目は華凛の姿を探している。
「『食事』を、もっと摂っておけばよかったかのぅ……」
が、それを見つけようにも思うように身体を動かすことも出来ず、シェンフゥはその場に大の字に倒れた。
「後は頼んだぞ、ご主人……」
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