第19話 邪甲兵

「レッツパーリーじゃ! 狐火たち、いちばん熱量の高いレッサーデーモンを狙え!」


 天狐の姿となって絶好調のシェンフゥが、狐火を飛ばしてレッサーデーモンの群れを焼き払う。

 シェンフゥの巨大化に伴って狐火も巨大な紫の火の玉と化し、デビルプランテーションごとレッサーデーモンの群れを薙ぎ払った。


「熱量の高いって……。全部焼き払ってるじゃない」


 映像盤を拡大してデビルプランテーションへのダメージを確認しながら呟く。

 生み出されたレッサーデーモンは土塊に戻ったが、デビルプランテーションから溢れる汚泥は止まらずに流れ続けている。


「デビルプランテーションを倒さぬ限り、この戦いは続くがの」


 どろどろと地面を汚し、浸食していく汚泥はそのままレッサーデーモンへと姿を変え、胴についた巨大な目がぎょろぎょろと華凛とシェンフゥの姿を探すように動いている。


「わかってるなら、さっさと本体を叩くわよ!」


「いや、わし一人で充分じゃ」


「なんで――」


 言いかけたリサは、シェンフゥが示した転移門を見て口を噤む。


「おぬしには黒幕を叩いてもらわんとならぬからのぅ」


 シェンフゥが示した先、閉じかけた転移門からは装甲を纏った巨大な魔族の姿が現れていた。


 甲虫類のような甲殻様の装甲で覆われた人型の魔族は、蟷螂カマキリに似た頭部を地上に向けて巡らせている。

 その手には禍々しい意匠の大鎌が握られ、背中にある竜のような翼がゆったりと開かれていくのが見えた。


「ザルク、どうなっている!? 何故、転移門の起動を早めた!」


 拡声器を通じて低い声が辺りに響き渡る。

 問いかけながら慎重に降下を始める魔族の背の翼が機械仕掛けの翅音を立てて駆動している。


「ほう……あの翼、ゲヘナ・コンバーターがついているということは、邪甲兵じゃこうへいか」


 邪甲兵とは魔族たちが用いる巨大生物兵器のことだ。

 その肉体や装甲は魔界に棲息する巨大な魔獣の甲殻や筋肉組織を利用して構築されており、背部にあるゲヘナ・コンバーターと呼ばれる翼のような飛翔機関を搭載し空を自在に飛び回る。


 骸核がいかくとよばれる操縦席に操縦者である魔族が乗り込み、機体と神経接続されることで生物兵器は活動を可能にする。

 全長八メートルに及ぶ巨体から繰り出される攻撃は、都市を囲む城壁さえいとも容易く破壊する恐るべき破壊力を持つ。


「それも結構、格が高そうなヤツね。これなら機関からのボーナスも期待できるんじゃないかしら?」


 宙に留まった邪甲兵が、リサの華凛とシェンフゥの姿を見留める。

 しかし、ザルクの捜索を諦めた様子はなく、苛立ったように大鎌を振り回すと、崩れて廃墟と化した古城の周りを浮遊し始めた。


「よし、ご主人。あのデカブツはわしに任せよ」


「私はあいつの相手ね。臨むところよ」


 水晶玉に手のひらを添え、華凛を疾走させる。

 射程範囲ぎりぎりにまで迫った華凛を無視出来なくなった邪甲兵は、苛立ちを露わにして華凛へと向き直った。


「貴様、何者だ!?」


聖拝機関せいはいきかん所属、執行者リサ・エーデルワイス。魔族専門の殺し屋よ。お探しのザルクなら、その辺りに埋まってるんじゃないかしら?」


 瓦礫の山を示し、華凛を僅かに後退させる。

 いつでも攻撃を始められるよう、魔導散弾砲に機体の手を添えた。


「聖拝機関だと!?  ザルクめ、尻尾を掴まれおったな……」


 古城の瓦礫の上に降りた邪甲兵が、忌まわしく脚を踏み鳴らす。


「そういうこと。あんたたちが、なにを企んでるかは知らないけど、それもここまでね」


「ハッ、相手がなんであろうとも、邪魔はさせん。貴様にはここで死んでもらうぞ」


 一閃。


「!!」


 油断はしていない。

 攻撃も想定していたはずだった。


 だが、邪甲兵が発動したゲヘナによって具現した炎の槍は、華凛を直撃し、轟音と共に爆発が巻き起こった。

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