第374話 『彼』は怒る
聞こえた声は二つ。
そんな自分に、笑みを浮かべた
『技を知られている清乃の発動は効かない。ならば、知られていない発動を持った存在でお前を潰せばいい。実に愚かしくも簡単な話じゃないか。なぁ、偽物?』
『清乃』は話をしながら、狙いを定めるかのように、十鳥の右足の
そのまま拳を握りしめれば、鈍く低い音が部屋に響いた。
再び襲い来る痛みに、たまらず十鳥は叫び声を上げ、床へと倒れこんでいく。
痛みの元へと視線を向ければ、いびつな形で曲がる自身の足が目に入ってきた。
襲い来る恐怖を抱え、十鳥は清乃へと
「おっ、お待ちください! この体は
『死んでしまうだって? さんざん清乃の体に傷をつけたお前が、何を言っている。体が吉晴だろうが、中身が腐ってるんだったら容赦する必要もあるまい』
見上げた先には、人差し指を自分へと向ける清乃の姿がある。
『そもそも吉晴が今、話せるとしたら。「これ以上、恥をさらす前に殺してくれ」。そういうに決まっている』
くい、と指が下げられた。
目視できない攻撃が、十鳥の左腕を深々と貫いていく。
肉が裂かれる感覚に、死が迫りくるのを意識せずにはいられない。
「待ってくれ、この体は返す! 吉晴様の意識もきちんと戻すから! だから清乃様っ、もう一人のお方に、攻撃を止めるようにとりなしてくださいっ」
かろうじて動く右手で体を起こしながら、願う十鳥の声に清乃は反応する。
「そういうことらしいですけれど。どうしますか?」
『どうもこうもない。こいつはここで片付け……』
「どうか、どうか私の話をお聞きください!」
この状況を変えねば。
その一心で、十鳥は頭を働かせる。
謎の人物の正体が分かれば、まだチャンスはあるのだ。
自分の頭の中には、この十年間で培った白日内の発動者達の全てのデータが叩き込まれている。
何者かが分かれば、先程までのように相殺し、再び攻撃をすればいい。
「あなた様がどのような方か私は存じません。ですので清乃様の中の方とお呼びすべきでしょうか」
『呼び方など、どうでもいい。話とは何だ』
この人物が興味を抱く話を。
清乃に関係する人物が知りたがる話題といえばやはり……。
「清乃様にも、大いに関係のあるお方の話です。吉晴様と同様に、捕らえられている方がいます」
『それはこちらにとって、人質たる存在ということを言いたいのか?』
上手くいった。
相手は興味を持ち始めている。
右足をかばいながら、痛みをこらえ十鳥は立ち上がった。
「待ってください。十鳥さんの言う人質というのは、品子のことではないのですか?」
清乃からの問いかけに、十鳥は答えていく。
「品子様ではありません。このまま私を見逃していただけるということでしたら、その方の居場所をお伝えいたします」
『品子と一緒にいた冬野つぐみ。あの娘のことを言っているわけではないのだな』
「違います、私がお伝えしたい人物。そのお方とは、清乃様の義姉であるマキ……」
十鳥が声を出せたのは、そこまでだった。
突然の背後からの衝撃。
受け身すら取れず、再び体が床へと激しく叩きつけられる。
『……お前』
指先ですら動かせない。
恐ろしいまでの重圧が、十鳥の体の自由を奪う。
何が起こったのか、全く分からない。
ただ、相手の怒りを買ってしまったことだけは理解できた。
『偽物、その名前をここで出す覚悟は出来ているんだろうな?』
「いけません、どうかもう少し落ち着いてくださ……!」
ひどく焦った様子の清乃の声が響く。
『ふざけるな! 清乃、お前も聞いただろう。この男は、よりにもよって……』
十鳥の体が勝手に震え出していく。
呼吸すら許さない、自分に対する明確な殺意が向けられていることに、ただ
『こいつは、……私の妻を。マキエを人質にしていると言っているんだぞ』
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