第348話 松永京は待つ

「ん~、困ったよねぇ。探すにもヒントがないとさぁ~」


 品子しなこ達を探す命令を受けた松永まつながけいは、頭をかきながら呟く。

 まずは情報収集だが、今回の件は公に出来るものではない。

 迂闊うかつな行動は彼女達の命に関わるのだから。

 

「しかたない。地道にやっていきますか」


 いつものように本部内を歩き、職員との雑談から情報を拾い上げていく。

 それにより、品子が行方不明の件を誰も気づいていないこと。

 あわせて、惟之これゆき達が謹慎になったことが、まだほとんど知られていないことが把握できた。

 情報をまとめた松永は、一つの結論を出す。


 このまま動くのは、自身も危険であると。


 今回の件で、二条の力は失墜しっついし、三条も動けば立場が危うい。

 考えるまでもなく、これは吉晴きはる高辺たかべの仕業だ。


「目的は一条がさらに権力を握るため。ついでに高辺さんは俺たちのお掃除も、かな?」


 先日の冬野つぐみの件もあり、自分達は高辺との関係は良好とはいえない。

 目立つ行動をすれば、たちまち自分も謹慎、あるいは粛清対象となりうる。


「もう女王様ってば、逃げ道ふさぎがお上手だこと。そんじゃ俺は……」


 出した答えは、『動かずに待つ』。

 松永は、二条管理地に一番近い休憩室へと足を向けた。 

 自分の考えが正しければ、きっと何らかの接触がある。

 休憩室内の自販機でコーヒーを買い、手持ちぶさたを装い椅子に腰かけた。


 やがて数人の女子事務員たちが、松永の隣のテーブルへと座る。

 話題は出雲が謹慎になったことであり、そのうち一人がぽろぽろと涙を流しはじめた。


「ううっ、出雲さん。せっかく私、趣味がわかるお友達になれたのに。しばらく会えないなんて」


 その事務方は同僚たちに慰められながら、出雲との共通の趣味であるというwebサイトの話をしている。

 やがて話を終えた彼女たちは、賑やかに二条の敷地内へと戻っていった。

 それを見届け、一条の敷地内にある自分の車へと向かう。

 車に乗り込み、高辺の予定を確認する松永に笑みが浮かんだ。

 彼女は、里希の打ち合わせに同行している。 

 今ならば、ある程度の行動は可能だ。

 先程の二条事務方の女性が言っていた、webサイトにアクセスする。

 つながった先は、彼女の個人サイトだった。

 小説を書いているようで、多くはないが作品が載せられている。


「へぇ~、今どきの子は想像力がたくましいねぇ」


 名前こそ違えど、顔が浮かぶ登場人物が何人かいるのが確認できる。


「ん? これ俺だよねぇ……。へぇ、浜尾さんとかぁ」


 斜め読みで目を通すものの、探しているものは見当たらない。

 続いて、感想欄へと読み進めていく。


「はい、ヒントあ~った!」


 いくつか書かれた感想の中に、『small feather』と名乗る人物からの感想を松永は見つけ出す。


『小さなはね』


 この言葉で思い浮かぶ人物は一人だけ。

 

「やぁ、……見つけたよ。出雲いずもこはねちゃん」



◇◇◇◇◇



 仲が良いのは本当のようで、二人が感想欄を通じて以前から交流をしているのが読み取れる。

 しかしながら、一昨日の投稿を最後に『small feather』からの投稿は途絶えていた。

 感想欄を眺めているうちに、『blue bird』を名乗る人物が、今日の朝早くに投稿しているのに気づく。

 丁寧な感想ではあるものの、どうも文章に違和感がある。

 松永は手帳を取り出すと、その文章を書き写した。


 人物名は、青い鳥。

『あおいとり』という言葉をヒントに、書き写した文章から「あ・お・い」の文字を除いていく。

 残された言葉は、数字の羅列と繋がらない言葉。

 だがこれだけで十分だ。

 松永は表れた数字のみを抜き出して、電話アプリを起動するとスマホに打ち込んでいく。

 通話ボタンを押せば、三コール目で相手が電話に出た。

 だが、相手は声を出す様子はない。

 ならばと松永は、あえて陽気に声を掛けていく。


「こんにちは~、ペンネームまっつんと申しま~す。もしよければ、お友達になってもらえませんかぁ?」


 何も言われず、電話は切れてしまった。

 直後に、スマホへとメッセージが届く。

 アドレスのみが書かれたそれをタップすれば、パスワードを求める画面が出てきた。

 ためらうことなく、先程の『blue bird』の暗号から、数字を抜いた文字を入力すれば……。


「怖っ。敵に回したくない女性が、また一人増えちゃったよ」


 苦笑いと言葉をこぼし、松永はその文字を眺める。


『あなたの上司と秘書たちは、あと一時間は戻りませんよ』

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