第118話 しろいばしょで

 ――そこは誰も知らない。

『人』である限り、たどり着けないであろう場所。



 そこは一面の白い場所。

 今日も、歩いてここにたどり着く。

 そこでいつも通り、ここで眠っている人の傍に行く。


 眠っている男の人。

 ずっとずっと眠っている男の人。

 隣に座ってみる。

 今日は腕に触ってみる。


『やめてやめて、もう言わないで』


 声が、聞こえる。

 泣きそうな声でずっとずっと言っている。


『いやだいやだ、もうやめて』


 隣を見る。

 男の人は泣いている。

 かわいそう。

 指で涙を拭いてあげた。


『助けて。どうしてみんな酷いこと言うの?』


 ……みんながひどいこと、言ってるんだ。

 みんなは、この人に意地悪をする人なんだ。


 かわいそう。

 かわいそう。


 だったら。

 ここにいればいい。

 ひどいことをする、みんなはいないよ?


 頭の中で小さな白い姿を思い浮かべ、手のひらに上に向ける。

 小さな小さな白い蝶が手のひらから現れて、男の人の周りをひらひらと飛び回る。


 ひどいこと言わないお友達を作ってみた。

 一人じゃないからさみしくないよ?

 一人はさみしいもの。


 だからここにいれば、いいよ。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る