第3話 死者の世界(煉獄界)
辺りは明け方のように仄暗く、霧がかかったように白んでいる。岩陰に咲く花が、ぬるっと生温い風に舞って散っていく。
煉獄界は奇妙なところだ。
揺り籠の中にいるような安心感と同時に、そこはかとない不安を覚える。
何故だか頭がボーッとするのは、ほんのりと漂うお香のような匂いのせいだろうか。気を抜くと全てがどうでも良くなって、自分を保てなくなりそうだ。
周囲を見渡すと、現世を離れて辿り着いた多くの魂が、当てもなくふらふらと彷徨っていた。
そのほとんどが生前の姿を失っている。
暗く、ぼんやりと佇む彼らは、まるで実態を持った黒い影のようで、とても不気味に見えた。
「ユーラスー!!」
「ユーラス!居たら返事をしてくれー!」
何度呼びかけてみても返事はない。それどころか、黒い影は皆アルドたちを警戒し、避けるようにソロソロと離れていく。
「この辺りには居ないのかなあ。」
物陰に消えていく影たちを見ながら、アルドは呟いた。
「と、とにかく、早く見つけ出してここから帰りたいわね。」
いつもは勝気なエイミもどこか落ち着かない様子だ。胸元のネックレスを祈るように握りしめ、そわそわと辺りを見回している。
「今のところ、今日中にユーラスさんが見つかる確率は1.2パーセントほどデス!」
「え?たった1.2%・・・・・・?!」
「ワッ、ワタシたちが全員無事に帰れる確率は25%ほどありマス!」
「はぁ。・・・・・・全くフォローになってないわよ。」
エイミの顔はすっかり青くなっていた。
リィカは時々、まったく空気を読まないタイミングで、こちらを絶望させるような情報をくれる。
「大丈夫!ユーラスはきっと見つかるよ!向こうの方にも行ってみよう!」
弱気になっている2人を励まし、アルドは更に奥へと歩き出した。エイミとリィカは慌てて後に続いた。
奥に進めば、いつ魔物が出てきてもおかしくない。気を抜かずに進まなければ、ユーラスを見つけるどころか、大事な仲間を守れなくなってしまう。剣を持つアルドの手に力がこもった。
不気味なほどの静けさの中、3人の足音だけがザッザッとうるさく響いた。
「──あんた達、そんなに急いでどうしたんだい?」
「ひぃっっ?!」
突然声をかけられて恐る恐る振り返ると、そこには黒い影が一人、ぽつんと立っていた。
身長はアルドの肩くらいだろうか。背は小さめだが、ぽっちゃりと太めのシルエットだ。
「まったく。なんだい、そんな顔して!失礼な子たちだね!」
青い顔で立ち尽くすアルドたちに、ぽっちゃり影はいくらか気分を害したようだ。
「ご、ごめん!あの、俺たち、人を探しているんだ。」
「こんな所で人探しだって?おかしな事を考えたもんだねえ!あんた達、まだ死んだばかりかい?」
フンっと馬鹿にしたように笑うと、影は顔を覗き込むように近づいてきた。
そして次の瞬間、アルドの視界は真っ暗になった。
ほんの数センチの距離にいるはずのに、目も、鼻も視認できない。全体がまるで光を失ったように真っ暗だ。ぼんやりと人の形を留めてはいるが、やはり生きている人間とは全く違う。
闇に吸い込まれそうな恐怖に、アルドの心臓はバクバクと激しく波打った。
「お、俺たちは死んでない。い、生きた人間だ。」
アルドが絞り出すような声で答えると、影はハッと息を飲んで、よろよろと後ずさりした。
「なに?生きた人間だって・・・・・・?」
影は驚いた様子で暫く固まっていたが、再びゆっくり近づいてくると、何かを確かめるようにアルドの頬に触れた。触れられた感触は、全くなかった。
「はあ。・・・・・・悪いことは言わない。あんた達はここにいるべきじゃないよ。まだ帰れるうちにここを離れた方がいい。」
それは先ほどまでとは打って変わって、低く、抑えた声だった。
帰れるうちにとはどういう事なのか。帰れなくなったらどうなってしまうのか。
知りたいことは色々あったが、何故だか知るのが怖くて、誰も聞くことが出来なかった。
「俺たち、ある人を見つけるまでは帰れないんだ。」
アルドは煉獄界を訪れたいきさつ、イリサとユーラスのことを全て話すことにした。
影は岩の上に腰掛け、時折頷いたり、相槌を打ったりしながら、静かに話を聞いていた。
「┄┄┄なるほどねえ。それは確かに気の毒な話だが、あんた達が何かしてやる義理はないだろう?あんた達が危険を冒す必要はないんだ。とにかく早く帰った方がいい。」
全てを聞いたあと、影は再び諭すような口調で言った。
「だけど、自分にやれることがあるのに、何もせずじっとしているなんて出来ないよ!」
「私もよ!必ずユーラスを見つけて帰るわ!」
「同じく、デス!!」
「・・・・・・まったく、とんだお人好しが居たもんだねえ。」
アルドたちの表情を見て、影は呆れたようにため息をついた。
「うーん。仕方ないねえ・・・・・・それなら、アタシも手伝ってやるよ。放っておいてあんた達に何かあったら、夢見がわるいからね!」
影は岩の上からよいしょと立ち上がった。見た目は真っ暗だが、悪い人では無さそうだ。慣れてくるとまるで近所のおばちゃんと話しているみたいな安心感があった。
「本当か?!ありがとう!心強いよ!」
影に対するアルドたちの恐怖心はいつの間にか無くなっていて、真っ暗で何も無いはずの顔に、表情が見えるような気さえした。
「俺はアルド!こっちがエイミ、そしてリィカだ!よろしくな!」
「ああ。アタシは・・・・・・」
「アタシの・・・・・・名前は・・・・・・」
影は突然困ったように頭を抱えた。
「どうしたんだ?」
「いや、名前・・・・・・最近まで覚えてたんだけどねえ。ついに忘れちまったみたいだねえ。」
「じぶんの名前を、忘れたの?」
「・・・・・・ああ。」
「そんな事って・・・・・・。」
「いや、名前だけじゃないんだよ。 生きていた頃の事も、自分がどんな人間だったかも、もうほとんど覚えてないんだ。」
影は少し寂しそうにうつむいた。
数か月前に煉獄界に来た後、徐々に記憶をなくしていったという。
知り合いなんて誰もいない煉獄界で、思い出に浸ることもできず、ただただ無気力に過ごしていたところ、アルドたちを見かけて声をかけたそうだ。
煉獄界にいる死者は目的を持ったり、急いだりしない。ユーラス探しに奔走するアルドたちは、よっぽどもの珍しく見えたのだろう。
「・・・・・・名前、覚えてないなら、今決めちゃわない?」
エイミはポンっと手を叩いた。
「それはいいデスネ!ぷりてぃな名前を考えまショウ!」
影を励まそうと、エイミとリィカはあれこれ名前を提案し始めた。影はなんだか嬉しそうに見えた。
「・・・・・・それなら、“ ラベンダー”がいいわねえ。」
「ラベンダー?」
「そう。アタシ、ラベンダーの花の香りが大好きだったのよ。それは覚えてるんだ!」
「ラベンダー、綺麗な名前ね!」
「決まりデスネ!!」
こうしてアルドとエイミ、リィカは、死者の魂であるラベンダーと共にユーラスを探すことになった。
「いいかい、本当に危ないと判断したら、すぐに帰らせるからね!」
「はいっっ!」
ラベンダーは面倒見のいいお母さんみたいだった。生きていた時も、きっと明るくて元気な人だったのだろう。
彼女は煉獄界に慣れないアルドたちに代わって、他の死者たちにユーラスの事を尋ねてくれた。
「・・・・・・ちょっとあんた!ユーラスって名前を知ってるかい?」
「────いやあ、分からないなあ。知ってたかもしれないけど、覚えてないよ。」
「あんた、ユーラスって男を知らないかい?」
「────ユーラス?覚えてる限り、聞いたことないわね。有名人かなにか?」
「あんた、ユーラスって人を知ってるかい?」
「────そんなことより、俺の名前を知ってるかい?」
いくら尋ねてもこんな調子で、彼を知る者は現れなかった。というより、みんな記憶が曖昧になっていて、何も覚えていないみたいだった。
「ラベンダーと同じで、みんな記憶を無くしてちゃっているのか。」
「そうだね。個人差はあるみたいだけど。」
「長く滞在すればするほど、記憶を失っていくようデスネ。」
煉獄界に来た全ての人が記憶を失っていくならば、ユーラスも自分の事を忘れている可能性がある。捜索は思った以上に難航しそうだ。
アルドたちは少しずつ焦りを感じ始めていた。
グシャ
「うわっ、なにか踏んだぞ!」
妙な感覚がして足を上げると、きれいな花がぺしゃんこに潰れていた。知らない間に、真っ赤な花が足元を覆っていたのだ。
潰れた花は瞬時に茶色く枯れ果て、見る見るうちに消えてなくなった。
「うわあ、なんだ?!消えたぞ?!ごっごめんな!」
アルドは踏んでしまった花に慌てて謝った。
しかし次の瞬間、ぽっと芽が出たかと思うと、ぐんぐん成長して、ものの数秒で元の美しい花に戻った。
地上では見たことがない種類だ。花は燃えるように赤く、ほんのり発光しているようにも見えた。
ふと気がつくと、空も夕焼けのように赤かった。先ほどまでとは空気が違う。どうやらいつの間にか、かなり奥まで来てしまったようだ。
「流石にこの辺りには誰もいなそうね。早く戻りましょう。」
「ああ、そうだな。」
ドスン!!!
アルドたちが引き返そうとした瞬間、背後から何かが襲ってきた。
「危ないっっ!!!」
アルドはエイミとリィカの手を引っ張り、ギリギリで攻撃をかわした。
大きく振り下ろされた手は鷹のように尖っていて、鋭い爪がギランと光っている。
見上げると、5メートルはあろうかという巨体。煉獄界に棲む恐ろしい魔物だった。
羽毛が全体を覆っているが、ところどころ見える胴体はムカデのように節が連なり、うねうねと動いている。正直、かなり気味が悪い。
アルドたちは咄嗟に戦闘態勢に入ったが、鋭い爪の攻撃を避けるのに精一杯で、なかなか攻撃に転じることができなかった。
魔物はすっかり興奮状態で、攻撃の重さも速度も、どんどん増していく。
「痛っっ!!!」
次の瞬間、魔物の爪がエイミの肩をかすった。
エイミの肩からはじんわりと血が滲み出し、みるみる広がっていく。
「エイミ、後ろに下がってろ!!」
「で、でも!!」
ほんの少し動きが鈍ったエイミ目掛けて、魔物はすかさず爪を振りおろした。脳裏に「死」の文字が浮かび、エイミは思わずギュッと目をつぶった。
「───ちょっと!!あんたぁああ!!!」
その時、アルドの背後から飛び出したラベンダーが、ものすごい勢いで魔物に向かって行った。
ボカッ!!
ラベンダーは一切怯むことなく、魔物の胴体に思い切りパンチを入れた。
彼女の攻撃が効いたのか、ものすごい声量に驚いたのか、魔物の攻撃はぴたっと止まり、エイミはその隙になんとか魔物の足元から抜け出した。
「なにすんのよあんた!!悪い子はお尻を叩くからね!!!あっちに行きなさいよ!!」
「きゅ、きゅぅぅうぅー?」
「ほら!!しっ!しっ!!」
ラベンダーが再び大きな声で怒鳴ると、魔物は子犬のような鳴き声を上げ、驚いたことにすごすごと逃げていってしまった。
「・・・・・・あ、ありがとうラベンダー。」
ラベンダーのすごい撃退術に、アルドたちはしばらく呆気に取られていた。
「ラベンダー、あなた・・・・・・魔物が怖くないの?」
「そりゃあ・・・怖かったさ。だけど、よく考えたらアタシ、もう死んでるからね!2度は死ねないでしょう!」
ラベンダーはケタケタと豪快に笑った。
生者であるアルドたちの命を優先し、体を張って守ってくれた彼女に、アルドたちは心から感謝した。
「それよりあんた、怪我してるじゃないか。さ、早く安全な所に戻るよ!」
「ああ、そうだな!」
アルドたちは急いで来た道を戻ることにした。
幸い、傷はさほど深くはなかったが、エイミの肩からはまだ出血が続いていて、エイミは気分が悪そうだった。
「とりあえず止血しよう。」
「私はメディカルサポートを行いマス!」
リィカはエイミを岩陰に座らせ、傷口に回復を促す粉を振りかけた。粉はピンク色に光って傷口に浸透し、エイミの顔色は少しだけ良くなった。
アルドは服の裾をビリビリと破き、エイミの肩にきつく巻き付けた。
ラベンダーはその様子を心配そうに見ていた。
「こんな事になってしまったし、もう本当に帰った方がいい。残念だけど、ユーラスとやらを見つけるのは、もう諦めな。」
「そんな・・・・・・私のせいで・・・・・・。」
エイミは悔しそうに唇を噛んだ。
ユーラスを見つけたい気持ちとは裏腹に、傷口はズキズキと痛いままだ。
「エイミ、仕方ないよ。エイミの安全が一番だ。」
「でも・・・・・・大丈夫よ!私・・・・・・っっ。」
───ラララ〜ラ〜ララ〜ララ〜♪
痛みに耐えるエイミを見かねたのか、ラベンダーは、エイミの傍に腰掛けると、突然歌を歌い始めた。
─────ラ〜ララ〜ララ♪
「ラベンダー?この歌って・・・・・・。」
「・・・・・・これはねえ、元気になるおまじないの歌なんだよ。怪我をした時や落ち込んだ時、もちろん、嬉しい時にも歌うんだ。」
「ちょっと待てよ・・・・・・これ、イリサが歌ってたのと同じ歌じゃないか!!」
「ラベンダーサンもこの歌を知っているのデスネ!!」
天使のようなイリサの歌声とは少し違うが、ラベンダーの優しく包み込むような歌声は、3人の心と身体を癒した。
「不思議ね。この歌を聞いてると、痛みが和らぐ気がするわ。」
「それは良かった!好きな匂いやら、好きな歌やら、妙なことはしっかり覚えてるもんだねえ。」
ラベンダーはエイミの頭を撫で、ふふふっと笑った。
「────あのーすみません。」
「うわあっっっ?!」
その時、突然黒い影が話しかけてきた。
ラベンダーと同じく全身真っ暗だが、ラベンダーと違って背が高く、ひょろっと痩せている。
「あっっ驚かせてごめんなさい。歌がとても素敵だったのでつい・・・・・・」
「あなた、この歌を知ってるの??」
「知ってるようなー。知らないようなー。すみません。分からないんです。」
細長い影は困ったように笑った。
「なにか大事なことを忘れてるような、忘れてないようなー。何故だか、ずっとモヤモヤしてるんです。」
影は頭をポリポリと掻く仕草をした。
その手は真っ黒でハッキリとは見えないが、ユニガンで出会った絵描きの青年と同様、ゴツゴツとして、使い込まれた手のように見えた。
「もしかして、ユーラスじゃないか?」
「ユーラス? 聞いたことがあるようなー。ないようなー・・・・・・。」
影は必死になにか思い出そうとしていたが、結局なにも出てこなかったようで、ハァ。と深くため息をついた。
もしも彼がユーラスならば、何としてでも自分のことを思い出させたい。アルドは考えを巡らせた。
「そうだ!リィカ!あれ、出せるか?」
「ハイ!バッチリ保存していマスノデ!!」
そう言うと、リィカは空中に映像を映し出した。
そこには、水辺に佇み悲しげに歌う、数時間前のイリサの姿が映っていた。それと共に、彼女の美しい歌声が辺りに響き渡った。
「これは一体・・・・・・?」
細長い影は不思議そうに画面に近づくと、しばらくの間、イリサの姿を食い入るように見つめていた。一同はその様子を固唾を飲んで見守った。
「こ、この女性は・・・・・・!」
細長い影が叫んだ次の瞬間、彼にものすごい変化が起きた。真っ黒だった彼の身体に、光の粒が集まり始めたのだ。
それはとても神秘的な光景だった。彼の身体は眩しいほどきらきらと真っ白に輝き、アルドたちが目を開けていられないほどだった。
光を取り込んだ彼の身体は、足元から徐々に色を取り戻していき、アルドたちが再び目を開けると、そこには精悍な顔立ちの、立派な青年が立っていた。
「イリサ!!!!」
青年は映像の中のイリサに向かって叫んだ。
「やっぱり、君がユーラスか?!」
「ああ。思い出したよ!僕はユーラスだ!」
「ユーラス!!良かったぁあ!!」
アルドたちはようやく巡り会えたユーラスに感動し、飛び上がって喜んだ。
「それより、ここはどこだい??早く彼女に会いに行かなきゃ!!」
ユーラスは興奮した様子でキョロキョロと辺りを見回した。
しかしここは煉獄界。死者の魂がウロウロしている。生者の世界とはあまりにも違う景色に、彼は直ぐに全てを悟ったようだった。
「・・・・・・ああ。そうだった、僕はもう・・・・・・。」
ユーラスはがっくりと肩を落とした。
「俺たち、イリサとスピロに会ってきたんだ。」
「あなたが最期、イリサに伝えたかったことを知りたくてここに来たの。」
「ああ。僕も、それが心残りでした。まさかあんなタイミングで事切れてしまうなんて・・・・・・情けないです。」
ユーラスは悲しい顔でうつむいた。
少しの間沈黙が続いたが、彼は突然ハッとしたように顔を上げ、アルドたちに尋ねた。
「ここに来たって・・・・・・まさかあなた達、生きた人間なんですか?!」
「あ、ああ、そうだよ。ちょっと特殊な技を使って、一時的にこっちに来たんだ。」
「それはすごい・・・・・・!」
それを聞いたユーラスは、何かを思いついたように目を輝かせた。
「───あの、少しの間、憑いていってもいいでしょうか?」
「つ、憑いて行くって・・・・・・?!」
「僕一人では、地上に戻る力はありません。最後にどうしても、イリサに会って話がしたいんです!!僕の記憶も、存在も、徐々に消えていっています。もう時間がないんです!お願いします!」
ユーラスは何度も何度も頭を下げた。
「それはもちろん良いけど、そんな事ができるのか?」
「やってみます!」
彼はそう言うと、アルドの背中におぶさる様に乗ってきた。
一瞬、ゾクゾクっと背筋が冷えたかと思うと、ユーラスはそのままアルドに吸収されるように消えて、いなくなった。
「ユーラス?!大丈夫か?!」
《 ハイ!上手くいったみたいです!! 》
「うわっ!なんか頭の中から声が聞こえるぞ!!」
アルドの脳内にユーラスの声が響いた。奇妙な感覚だが、どうやらユーラスに取り憑かれたアルドだけが、彼の声を聞くことが出来るようだ。
「コレガ取り憑くということなんデスネ!!興味深いデス!!」
リィカは初めて見る現象に大興奮だった。
《 イリサはコリンダの原にいるかもしれません!僕たち2人の思い出の場所なんです! 》
「よし!コリンダの原だな!急ごう!」
「エイミさん、大丈夫デスカ?」
「ええ。痛みもなくなったわ。ラベンダーのおかげね!」
エイミはいつの間にかすっかり回復し、元気になったようだ。
「あら?ラベンダー?」
気がつくと、ラベンダーは離れたところに1人、ぽつんと立っていた。
「ラベンダー、どうしたの?」
「ううっ・・・・・・。いざお別れとなると、寂しいもんだねえ。」
地上に戻るアルドたちとの別れの時を悟り、ラベンダーは、肩を震わせてひっそりと泣いていた。
一緒に過ごしたのはたった数時間だったが、アルドもエイミもリィカも、顔も見えない彼女のことが、いつの間にか大好きになっていた。
しかしラベンダーは死者の魂だ。彼女の記憶はまた少しずつ消えていき、いずれは彼女自身もどこかへ消えていくだろう。元の世界に戻れば、もう二度とラベンダーには会えない。
「最後の最後に、良い思い出が出来たよ。ありがとうねえ。」
「うううっラベンダーぁあ!!」
エイミは堪らず泣き出した。
「ありがとう。ラベンダーがいなきゃ、ユーラスを見つけられなかったよ。」
「ううっ私、ラベンダーのおかげで、煉獄界の人たちが怖くなくなったわ!」
別れを惜しむアルドたちを、ラベンダーはぎゅっと抱き締めた。もちろん抱きしめられた感触はなかったが、なんだか暖かかった。
「生きてる時に出会いたかったもんだねえ。」
ラベンダーは名残惜しそうに呟いた。
「きっと、またどこかで会えるさ!」
「ええ!いつかきっと!また会いましょう!」
「ふふっ。そうなるといいねえ。」
ラベンダーの顔が、ニコッと笑ったように見えた。
いつまでも手を振るラベンダーを背に、アルドとエイミ、リィカ、そしてユーラスは、なんとか無事に煉獄界を後にした。
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