第4章・助けたいのに

薄暗く、シルエットだけ見える感じ


4 - 1

舞台中央で椅子に座り、ギターを弾くレイダ

ギターの音だけ響いてる

その中、ギターを置いて上着を脱いで机に置いた時点でジン登場


レ「なんだお前…!」


レイダが攫われる

途中、鍵を落とす


明点


4 - 2

イチカ登場


イ「あれ…レイダさん…?これは…鍵?」

落ちてる鍵を拾う


辺りを見回すイチカ


4 - 3

エ「イチカ〜やほー!」


イ「エルギアさん…」


エ「急にごめんね〜イチカに言いたいことがあってさ」


イ「え、な、なんでしょ…」


エ「あのレイダって名前、実は少しカンリくんの本名に似てるんだ。だから、もしかしたらイチカがいればカンリくんを現世に戻せるかもしれない」


イ「え…私が、レイダさんを…?」


エ「そうなんだ!オレは、レイダを助けたいと思ってる。だから協力してほしいんだ」


イ「はぁ…わ、かり、ました…」


エ「ほんと!?ありがと!レイダの基本情報はオレが持ってる。本人には自分から思い出してほしいから教えないけどね。だから知りたかったらなんでも聞いて!それじゃ、オレはもう…」


イ「あ、エ、エルギアさん、あの、レイダさんがどこにいるか知ってますか」


エ「いないの?上着あるのに?」


イ「そうなんです。鍵が落ちてたから渡したいんですけど…」


エ「え、レイダの腰の?」


イ「たぶん…」


エ「れ、レイダは絶対に鍵なんか落とさない!レイダは管理を厳重にしてるんだ!ねぇ、なんか異変なかった!?」


イ「異変…?そういえば夜中に物音と声がしたような…」


エ「そういうことは先に言ってよ!…えぇ…あ、もしかして…!!」


イ「心あたりが…?」


エ「レイダ…攫われたのかもしれない」


イ「え…」


エ「だとしたら、きっとあいつのところだ。イチカ、行くよ!!」


イ「は、はい」


二人がはけると同時に、レイダを連れたジン登場


4 - 4

ジンは乱暴にレイダを扱う

レイダの背中をどんと押し、レイダは舞台中央に倒れる


手をパンパンと払い、大きく伸びをする


4 - 5

ジ「うあ〜〜〜っと


イチカだけ出てくる


エ「レイダ!!……やっぱり、お前だったのか」


イチカ、レイダに駆け寄る

ジ「お!エルギアじゃねぇか。こんなところで会うなんざ奇遇だなぁ?」(嫌味っぽく)


イ「エルギアさん、この人が…」


ジ「あ?なんだお前」


イ「あ、あなたは…」


ジ「はじめまして…だなぁ女?俺はジンってんだ。エルギアと同じく、ここロゼアーネの悪魔だ」


イ「ジン、さん…」


ジ「お前は?名乗ってやったんだから名乗れよ」


イ「イチカ…です」


ジ「イチカ…エルギアが言ってたやつはお前か」


イ「え?」


エ「お前がレイダを攫ったってことは…まさか」


ジ「そうだ。お察しのとーり、記憶を戻しといてやったんだ」


エ「なんで…!!」


ジ「エルギア。お前も思ってただろ?こいつはなかなか記憶を取り戻さない。それどころか取り戻そうともしていない」


エ「それは…!」


ジ「今までの人間どもだって、思い出してから帰る決心をした。お前、帰らせたいって言ってただろ?だから戻しといてやったんだよ」


エ「レイダが自然と思い出すまで待とうって話だったじゃん!!お前はいつもそうだ、記憶を無くしてここに来た人の記憶を、勝手に戻して…!!…とにかく、レイダは返してもらうから!」


イ「エルギアさんはジンさんと知り合いなんですか」


ジ「エルギアは俺の後輩。ただそれだけだ」


エ「やだよ…こんな先輩。勝手なことばっかして…!!」


レ「う…うう…」


レイダ起き上がる


エ「レイダ!!!」


レ「こ、こは…?…っ!それより、ミスズ…ミスズは…!?」


イ「レイダさん…?」


レ「ミスズは!?ミスズはどこ…!?ミスズ、ミスズ!!!」


エ「レイダ、落ち着いて!!ミスズちゃんは…もういないよ、死んじゃったんだよ」


レ「しんだ…ミスズが…しんだ…僕の、せいで…!」


エ「レイダのせいじゃないだろ…」


レ「いやだ…僕が…ミスズ、ミスズ…!!」(泣き喚いてる)


ジ「な、お前…」


イ「あの、えっと、レイダ、さん……?」


エルギア、イチカの方を見る


エ「イチカ……ミスズってのは、レイダの恋人だよ」


イ「恋、人…?」


エ「うん。でも…死んじゃったんだ、病気で入院してるレイダの見舞いに来る途中に、事故でね。そっから、レイダは死を選ぶようになった」


レ「やめろ!!!!…やめて…言わないでくれ、やだ…ミスズゥゥ…」


エ「レイダ…」


イチカ、無言でレイダを見る


レ「僕は…もう、生きていたくない…ミスズに会いたいっ…!」


ジ「おいお前、何ふざけたこと抜かしてんだよ」


ジン、レイダに近づく


エ「ちょっと、ジン…!」


ジン、レイダの胸ぐらを掴んで叫ぶ

ジ「エルギアは、お前を返したいってずっと悩んでた。知らねぇだろうが、四六時中悩んでたんだからな!!でもお前に会いに行くときは笑って、なんでもねぇような面してんだ!!それは俺が一番よく分かってる!!」


エルギア、ジンを引き離す

エ「ジ、ジンやめてって」


ジ「(舌打ち)」


ジン、レイダを突き飛ばす


ジ「そんなに死にたきゃ死ねばいい。けど、これを読んでもそう言えるかな」


レイダに向けて手紙を放り投げる


ジ「お前の大事な奴からだ」


ジン、はける


レ「手紙…?」

手紙を読む


ここは録音した音声を音響で流す

(つまりレイダは手紙を見てるだけ)

『麗へ

急にこちらがわに来てしまったこと、本当にごめんなさい。麗に届けるはずだった花束も、ダメにしちゃったね。私がいなくなっちゃったこと、きっと貴方は自分を責めると思います。優しい人だからね。でも、麗は悪くないよ。全部、私の不注意が起こしてしまったこと。私はまだまだやりたいことがたくさんあったし、こんなに早くお別れしたくなかった。だからね、重荷にはなっちゃうかもしれないけど、私の分まで生きてほしいです。病気のことは知ってるし、余命のことも知っています。でも、生きている間はせめて、楽しんでほしいです。限界まで、最後の一秒まで、全力で生きてほしい。ごめんね。私は麗が好きです。貴方という人自身も、その音楽センスも、大好き。ずっと見守ってます。さようなら、今までありがとう。ミスズより』


レ「ミスズ…なんで…」


エ「え、この手紙…ミスズちゃんから…?」


レ「ミスズ…。ミスズ…!!僕は…怖いんだ…死ぬことしか待っていない未来も、壊れている身体と付き合っていくのも、全部。なのに君は…生きろと言う。イチカも…エルギアも。そんなの、難しいじゃないか…」


イ「あの、私からも、いいですか」


イチカ、レイダに近づく

レイダ、イチカを見る


イ「レイダさん、私がレイダって名前をつけた理由、分かりますか?」


レ「え…分からない、けど」


イ「私、初めて貴方に会った時、綺麗だって思ったんです」


レ「綺麗だ…の、れいだ?」


イ「そうです。レイダさんは、すごく綺麗です。それは、外見だけじゃなくて、人としてもそうですし、レイダさんから生まれる音楽もそうです」


レ「僕の、音楽」


イ「レイダさんの弾くギターの音、すごく綺麗です。ミスズさんも、レイダさん全部の綺麗さに、惹かれたんだと思います。帰りましょう、レイダさん」


レ「ミスズって…あいつのことを出すなんてずるいよ。…(ため息)…こんなに皆から言われたら、生きることも考えなきゃ、だろ」


綺麗な音(二人の使命達成を意味する)


エ「この音は…!」


レ「もしかして…」


拍手して

エ「おめでとう二人とも!!使命達成だよ!!」


イ「え…使命って一体なんだったんですか」


エ「イチカは、『レイダに生きようと思わせること』、レイダは『生きようと思うこと』が使命だったんだよ」


レ「はは…まさか…達成しちゃうなんて…」

独り言のようにつぶやく


エ「こんな抽象的な使命、初めて聞いたんだよ?でも、それを達成したんだ!やっぱりイチカは選ばれた子だったんだよ」


イ「私が…選ばれた子…。レイダさん、一緒に帰りましょう」

帰りましょう?と問う感じの言い方。

レイダに手を差し伸べる


レ「イチカ……ううん、僕にはやっぱり無理だ」


イ「え……」


エ「は…?なんで、どうして…!?だって、使命達成できたってことは生きたいって思ったってことだろ!?」


レ「考えなきゃ、とは思ったけどね」


イ「そんな…」


ジン、話しながら登場


ジ「使命はあくまで課題だ。達成しても現世に帰るのは強制じゃねぇ。最終的には本人の意志が尊重される」


イ「ジンさん…」


エ「じゃあこのまま帰んないで、ここで死ぬつもりなの!?そしたらオレと同じままじゃんか!やめてよ…そんなの…」


イ「同じままって…」


ジ「エルギアは、元は人間だ」


イ「ジン、さん…そうなんですか…?」


ジ「あぁ。何もエルギアだけじゃねぇ、悪魔は皆、元人間だ。な?エルギア」


エ「……そうだよ。もう100年も前の話だけどね。レイダはいろいろとオレに似てたんだ。だから…ほっとけなかった」


イ「エルギアさんは、自分のこと覚えてるんですか」


エ「もうぼや〜っとしか覚えてないかなぁ…オレが生きてたのなんて100年も前だしね。ただレイダと同じ、作曲家だったのは覚えてるかな」


ジ「おい、お前…」


エ「とにかく、イチカは帰るんだ。戻ったらここでのことは全部忘れちゃうけど、イチカなら大丈夫」


イ「忘れるって、そんな…!」


エ「ジン、連れてって」 


イ「待ってください!!」


ジ「……(ため息)…イチ、行くぞ。着いてこい」


イ「でも、レイダさんが…!」


レ「イチカ…ごめんね」


イ「い、いや、レイダさん…!」


ジ「ほら、行くぞ」


イ「いやだ、忘れたくない!!レイダさん、レイダさん!!」


ジン、イチカを連れてはける


4 - 6

エ「レイダ」


レ「なに」


エ「…レイダは、恋人の死と不治の病で悩み、自ら死ぬことを選んだよね。オレも、同じ感じだった。オレも、自分から死んだ」


レ「……そう」


エ「……オレは、それを後悔してる。だからレイダには、このまま死んでほしくないんだ」


レ「だから帰ってくれ、って?」


エ「……そうだよ」


レ「それは…エゴだよ」


エ「エゴは、衝突するものだよ」


レイダ、黙ってエルギアを見る


エ「死に対するエゴの形は、人それぞれだと思うんだ。けど、その根本にあるのは、『その人の命』ってものだと思…」


レ「どうして生きていくことが前提なんだ」


エ「死ぬことは、全てを諦めてしまうことになるからだよ」


レ「僕はもう諦めるしかないんだよ」


エ「そんなことない!!」


レ「なんでそんな知ったような口を聞くんだ!!」


エ「実際、オレは死を経験してるからだよ」


レ「じゃあ他の悪魔たちもお前と同じ意見なのか!?」


エ「それは分かんないけど、でもオレとレイダは同じじゃないか!!」


レ「何がだよ!」


エ「境遇だよ!」


レ「違うだろ!?」


エ「同じ音楽家で命を捨てたのも同じじゃないか!!」


レ「仕事と終わり方が一緒だっただけで、僕とお前は違う人間だ!!」


エ「違う人間でも、自分から死ぬことは間違ってんだよ!!」


レイダ、エルギアに掴みかかる


レ「お前のそれ、本当におせっかいだぞ!!生きるも死ぬも、僕の勝手だ!!」


エ「はぁ?なんだよその言い方!」


エルギアも負ずに掴みかかる


エ「どうしてそんなに諦めようとするんだよ!!まだ希望はある!」


レ「そんなもの僕にあるわけないだろ!!」


エ「レイダがここに来てからもう10年だよ!良くなる薬が出来てるかもしれないだろ!」


レ「今更薬なんかあったって意味ないんだ!僕にはもう余命がない!!末期患者なんだぞ!!そんなやつを救うなんて神様でもない限り不可能だ!」


エ「神様じゃなくたってできるよ!そうだ、オレだって、オレだってできる!」


レ「は?」


エ「天界に行ってお願いする!まだレイダを連れて行かないでって!オレは神様じゃないけどさ、レイダ一人を救うくらいはやってみせるよ!!」


レ「お前はどうしていつもそう自分勝手なんだ!……僕のことが大事って言うくせに、僕の気持ちは尊重してくれないのかよっ…!」


エ「だって、だって…!/


レ「うるっさい!!」


レイダ、エルギアを掴み、突き飛ばす


レ「…やっぱり、お前とは合わない。分かり合えないよ」


エ「レ、レイダ…」


レ「もう、ほっといてくれ…」


レイダはける


4 - 7

エ「そんな…。…『もう勝手にしろよ』って、言えないオレもオレだよなぁ…」


4 - 8

ジン登場


ジ「イチ送って来たぞー。って、エルギア!?おいどうした!?…あの男は?」


エルギア、黙り込む


雨が降ってくる(音)


エルギア、立ち上がってジンに背を向ける


ジ「おい、大丈夫か?…(上向く)雨降ってきたな」


エルギア、黙ってる


ジ「エルギア」


返事しない


ジ(声大きめで)「エルギ/


エ「オレ…神様になりたいなぁ…」


ジ「なんだ、急に…。…悪魔が神になりたいなんて、とんだ矛盾だな」


エ「はは…。そう、だよね」


ジ「…戻ろうぜ。このままじゃ濡れちまう」


エルギア、黙る


ジ「おい」


まだ黙るエルギア


ジ「……。お前、さっき嘘言っただろ」


エ「……なんのこと」


ジ「昔のこと、覚えてないなんて」


エルギア、黙る


ジ「昔のこと、未だにずるずるずるずるひきづって、悩んで、思い出してはうなされてるくせによ」


エ「やめてよ、今そんなこと言うの…」


ジ「お前は孤児で、孤独の中で自ら命を絶った。……100年、500年…何百年過ぎようが辛い記憶は消えねぇもんだ。今日みたいな夜なんて、一人じゃ寝ることもできねぇくせに」


エ「こんな夜は…嫌いだ。……路地裏に置き去りにされたのも、呼び出されて殴られたのも。……オレが、死んだのも。全部雨の降る夜だったから」


ジ「あぁ」


エ「辛い環境で生きてるイチカと、この世から去ろうとしたレイダを、足したのがオレだ。そっくりすぎて…つい助けたいと思っちゃった」


ジ「その事自体は悪いことじゃねぇだろ」


エ「でも…言えないじゃんか。自分と重ねてるから助けたい、なんて」


ジ「まぁ…ここには他にも人間はいるからな」


エ「……さっき、レイダに言われたんだ。

ほっといて、って」


ジ「ほっといてって……は?」


エ「オレが今までしてきたことって、なんだったんだろうね」


ジ「エルギア…」


エ「どうしたら…レイダは帰ってくれるのかな」


ジ「…(ため息)…もう、無理なら無理で、しょうがねぇんじゃねぇの」


エ「え…」

エルギア、振り返る


ジ「あの男が考えた結果、出た答えがそれならもうどうすることもできねぇだろ」


エ「そんなっ…!なんでよ、ジンだって記憶無理やり戻してたし、さっきだって強く言ってたじゃん!帰らせるためだったんじゃないの!?」


ジ「そうだよ!!でも記憶が戻ろうが、俺があんだけ言おうが、それがあいつの答えなんだよ!!!」


エ「ここに残らせるの!?すぐに期限なんか来ちゃうよ!!使命達成してたって期限がすぎれば死ぬ!!」


ジ「それがあいつの願いなんだろ!!実際、ここまで帰れる材料が揃っていながら、あいつはここにいる!!ほっとけとまで言ったんだろ!!あいつはここで死にてぇんだよ!」


エ「それじゃあイチカはどうなるの!?」


ジ「俺が知るか!!そんなこと考えてる暇ねぇよ!!」


エ「なんで、こんな…!!レイダァァ…!!!」


エルギア、叫びながら顔を覆ってしゃがみ込む


ジ「エルギア…」


ジン、しゃがみ込むエルギアを真正面から包み込む。


ジ「ったく、お互いびしょ濡れじゃねぇか…早く中入るぞ」


二人はける

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