第3章・笑えるのなら、

明点


3 - 1

管理人、ギターを持って座ってる。

イチカ起きる。


管「あ、イチカ。おはよう」


イ「おはよう、ございます」


管「大丈夫?随分魘されてたけど…」


イ「大丈夫、です」


管「そ、そうか」


イ「そ、それより…ギター…?」


管「そうそう、この前物置きにあったのを見つけたものだから」


イ「そうなん、ですね」


管理人、ギター弾く


管「なんかね、すごく懐かしくて、手に馴染む気がするんだ」


イ「音楽、やってたんですか」


管「分かんない、覚えてなくてね」


気まずい沈黙が流れる

イチカ座る


イ「管理人さんは、いつからここにいるんですか」


管「あー…どれくらいだろう。8年、9年くらい?」


イ「え、じゃあ…期限、は」


管「もう少しで切れるね」


イ「使命は…」


管「見つけてないよ。見つける気もないけどね」


イ「なんで、ですか」


管「……。ここに、いたいから。それだけ。昨日会ったエルギアって悪魔いただろ?あいつは僕を返したがっていてね。どうも意見が合わないんだ」


イ「悪魔って本当にいたんですね。びっくりしました」


管「まぁそうだよね」


管「イチカさ…いつも浮かない顔してるよね」


イ「え…。あ、やっぱり…変、ですよねごめんなさ/


/管「いや違っ…!そうじゃなくて!……ごめん、」


椅子から立ち上がってイチカと反対側を向く


イ「……親も、なにも、いないんです」


管理人、振り返る


イ「親がずっといなくてご飯だけ置いてあるような、ほったらかしの家で育って、友達もいないし…誰からも、必要とされなくて…怖い言葉ばっかり言われて…それで…」


管「イチカ…」


管理人、座る


イ「毎日、毎日、死んでるみたいに生きて、できることなら、ここじゃないどっかに行きたいってずっと思ってて。それで、ここに来て…昨日、管理人さんが仲間だって、歓迎してるって言ってくれて…それで…。だから私、なんかもう…帰りたくないなぁ…なんて」


管「うん。そうか、話しづらいことだったでしょ。話してくれてありがとう」


イ「あ…えと…私…」


管「イチカ、ちゃんと話せるじゃない」


イ「へ?」


管「コミュニケーションとるの苦手なのかなって思ったけど…。環境がそうさせてたんだね」


イ「あ…その…えっと」ゴニョゴニョ


管「んっと…ごめん、なんて?」


イチカ、ゴニョゴニョ


管「えっと…?」


イ「こちらこそ!!聞いてくれてありがとうございました!!!」



管「ふはは」


イ「えっと…?」


管「いや、びっくりしてつい、ね」


イ「あ…ご、ごめんなさい」


管「いやいや、いいと思うよ。そういうの」


イ「え?」


管「今、一瞬だけイチカの素が見えた気がしたから」


イ「え?」


管「辛い話、させちゃったからさ。落ち込んじゃったかと思って、からかってみた。ごめんね?」


イ「か、管理人さん…落ち込んでは…ないです。ありがとう、ございます」


管「え?」(いたずらっぽく)


イ「落ち込んでないです!!ありがとうございます!!」


管「うん」(すごく嬉しそうに)


イ「管理人さん。……ここでなら私は自分でいてもいいんでしょうか」


管「もちろん」


イ「うれ、しいです。ありがとうございます」

ここで初めて笑う


管「あ、初めて笑ったね」


イ「え…私笑ってましたか…?」


管「うん。いい笑顔だね。そっちの方が似合うよ」


イ「そ、そうですか。ありがとうございます」


管「僕たち、共通点たくさんあるね」


イ「え…?」


管「例えば…帰りたくないってところとかさ。…………。あ!そうだ。ねぇ、イチカ」


イ「は、はい」


管「僕の名前、決めてくれない?」


イ「名前を決める、とは」

 

管「僕、記憶喪失で名前がわからないんだ。イチカとは共通点もたくさんあるしね。だから、イチカにお願いしたい」


イチカ、考える仕草


イ「レイダさん」


管「え?」


イ「名前…。レイダ」


管「レイダ…?ふふ、いいね、気に入った。ありがとう」


イ「よかったです」


レ「改めまして今日からよろしく、イチカ」


イ「こちらこそよろしくお願いします」


3 - 2

エ「カンリくんーいるー?」


レ「エルギア」

イ「エルギアさん」

↑ここはほぼ同時でいい


レ「僕、名前が決まったんだ」

立ち上がる


エ「え、今更?」


レ「イチカに頼んでつけてもらったの」


エ「今まで誰にも頼まなかったのに…」


レ「まぁ、ちょっとね。そしたら、『レイダ』ってつけてくれたよ」


エ「レイダ!?…ふ〜ん…レイダ、ねぇ…キミ、少し使えるかもしれないな」


イ「使える、とは」


エ「い〜や?別に?」


イチカ、考える仕草


レ「あんまり悩まないほうがいいよ。エルギアの言うことはよく分かんないから」


イ「はぁ…」


エ「ちょっと???」


レ「それで、何か用?」


エ「(ため息)…話があって」


レ「なぁに?」(エルギアを煽るように)


エ「ここじゃあ、ちょっと」


レ「まぁ、だろうね?」(イチカを見て)


エ「分かってんじゃん」


イ「あ、私向こう行ってましょうか」


同時↓

エ「え、そう?お願い〜」


レ「いや、イチカはいて、も、いいよ…?」


イチカはける


3-3

レ「(ため息)…どうせ、あの話でしょ?」


エ「そうだよ」


レイダ、エルギアに背を向ける


レ「だから何度も言ってるだろう。僕は帰らないよ」


エ「〜〜もうっ!!なんでだよ、なんにも覚えてないのにどうしてそう思うの!!」


レ「分からないけど……帰りたいって気持ちが、あんまりないんだよ」


黙るエルギア


レ「記憶を取り戻したいとも思ってない。もう期限が切れるまで、このままでいいよ」


エ「っ、このまま死ぬなんて、絶対させないから!!」


レ「はいはい…」


エ「絶対絶対帰すから!!いいね!?」


エルギアはける

レイダ振り返る


レ「(ため息)」




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