第5話 魔獣討伐に向けて

 宴が始まった。俺は、それまでの間「空を感じて」の第1話を思い出していた。

 俺の本が予言書になり、この異世界が動くのであれば、今回の第6の魔獣ブライダルホークを苦戦せずに討伐するヒントが「空を感じて」にあるはずなのだ。


 ただ、その前に、この異世界での魔獣もそうだが、世界観を十分に知っておかななければいけない。


 ハートサブレが部屋のノックをしてきた。

「イーロン様!準備は整いましたか?」

「ああ!ハートサブレ。着替え終わった。その宴とやらに是非案内してくれ!」

「ではではガチャリ…。おー!イーロン様、お似合いですよ!いかにも王家の勇者って感じです。」

 俺にとっちゃ、こんなのただのコスプレだよ…。

 ハートサブレの後ろを付いていき宴会場に向かった。



 城の大広間に沢山の城の者達や町の者達が集まって、豪華な食事と飲み物を堪能している。横では現実世界では見た事が無い楽器で演奏が行われるいるが、奏でる音はとても美しい静かめなクラッシックの様だ。


「おいしそうな料理ばかりだ。香りが良い。」

 俺は皿に料理を盛って、分厚い肉を食べた。とても柔らかくて口の中でとろける。料理だけなら異世界に来て良かったと思わせる。

「ハートサブレ、これは何の肉だい?」

「それはワイルドリザードのお肉ですよ。このミルキー王国の東の森に生存していまして、食糧として放牧しております。ミルキー王国産のワイルドリザードは世界一のブランド肉なんです。でも、サブレはお魚の方が大好物です。」

 つまり、リザード…。トカゲか…。とても大きなトカゲなんだろう。まあ、いい。ここは異世界。そのワイルドリザード本体さえ見なければ、おいしいのには変わりない。俺は他の料理の原形をあえて聞く事をやめて、豪華ディナーを堪能した。


「イーロン様、こちらのお飲み物はいかがですか?こちらもおすすめです。」

 ハートサブレから飲み物を受け取り、飲んでみる。これは、日本酒のスパークリングだ。うまい!


 ふと、そこで気付いた事がある。


「ハートサブレ!お前が飲んでるのも飲ませてくれ!」

 俺はハートサブレから返答を待たずにハートサブレが飲んでいた飲み物を一口飲み込んだ。

 やはり…。こっちはビールだ。

「イーロン様、どうかしましたか?」

「いや、何でもない。ちょっと気になっただけだ。これもうまいな。ありがとう。」

 ハートサブレにビールを返す。


 やはり、そうだ。俺の小説「空を感じて」と共通事項が多い。

 小説の第1話で、飯田源次が営んでいたのが日本酒造。鎌倉リカが公園で飲んでいたのがビール。

 この異世界が俺の小説になぞられて進むとしたら、魔獣とは?



 そうこう考えていたら、男が声を掛けてきた。

「勇者イーロン様、お話は伺っております。私は武器屋を営んでおります。明日の魔獣討伐に必要な武器があれば言って下さい。」

 急に登場したのは武器屋の商人。あごひげは長いが、まだ40代ぐらいであろうか。


 「丁度よかった。実は武器を揃える前に、俺は魔獣がどんな奴なのかも知らない。いったいどんな化け物なんだ?そして、今まではどうやって討伐したのかも、知りたい。」


 武器屋の商人はあごひげを摩りながら、話してくれた。

「魔獣。私達も正直何者なのかは分かっておりません。ただ野蛮な化け物で城に向かって町中で暴れるのです。第1の魔獣はさして強く無かった。兵士2人がかりで倒せました。しかし、第2、第3と魔獣が新たに来る度に、魔獣の強さは増していった。そして、第5の魔獣討伐で城の兵士はほぼお亡くなりになったのです。このまま、明日第6の魔獣が来たら、さすがにもうこの国の戦力では無理です。誰もが諦めの気持ちを抱いてしまった時に、勇者イーロン様が国王様の予言した通り来てくださったのです。」



 敵を倒せば、次はもっと強い敵が出てくる。これは黄道的だな。しょせんは異世界ファンタジーの話だ。そんなに気にする事はないか。

「討伐方法は?」

「最初は槍や刀で倒せましたが、最終的にはライフル、大砲を使いました。」


 俺は、その討伐の方法が、頭の中で、鎌倉リカが婚約者にDVを受けているのと重なっていた。



「討伐した魔獣はどうした?」

「それが、不思議な話なんですが、致命傷を与えたと思ったら光の玉となって空に消えていくのです。戦いの場には何も残さずに。」


 なるほど、もしかしたら魔獣は全て同じ化け物ではないのか?と俺は推測した。

 倒されては復活し、レベルを上げて、また城を目指す。魔獣側にも何かきっと理由があるはずなのだ。


「勇者イーロン様、私は店に戻りますので、いつでも武器、防具等、取りに来て下さい。」

 武器屋はそう言い残し、町に戻っていった。



「ハートサブレ、前回の魔獣の名は何だった?」

「第5の魔獣森のウエスタンです。もぐもぐ…」

 魚を食べてる。


 完全に俺の小説だ。鎌倉リカの婚約者の実家は大阪。つまり西の人間。ウエスタンって事。しかも、苗字は森野。


 次の第6の魔獣はブライダルホーク。これが、鎌倉リカに迫ってくる「したくもない結婚式」の事。



 そして俺は自分の小説「空を感じて」の第1話を思い出し、ハッとした。


「ハートサブレ!馬車だ!それもとびきり速い馬車を手配してくれないか!後、食糧なり、そこそこの防具と武器は持った方が良いだろう。今日中に全て用意するぞ!」

「はい!イーロン様!…って、魔獣討伐は?」

「魔獣は討伐するもんじゃないんだよ!」

「えっ?えっ?よく分かりませーんよー。」

 まあ、俺もこれが正解なのかは分かっていない。でも、魔獣が、鎌倉リカを狙う婚約者を表しているのであれば、魔獣の狙いは、ハートサブレで間違いないはずだ。



「あの、イーロン様、馬車を用意して一体どこへと?向かうつもりなんですかー?」

 ハートサブレは相当パニックになっている、その姿は滑稽であり、また可愛いらしくもあった。



「とにかく、北に向かう。」



 ついに、異世界でついに冒険が始まるのだ。




「空を感じて」第1話より


「リカさんよ。」

「なんでしょう?」

「わしに誘拐されないか?北の方に向かおう。新鮮な魚でも食べて、一回自分の人生を楽しく見つめ返すのじゃ。」



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