『彼』の望み

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『かわいそうに……両親ともに失うなんて』

『よりによって、子供のためにお土産買おうとした寄り道で……』

『誰が引き取るの?育てるにしても負担が……』

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目が覚めると、午後2時。

記憶の中で、葬式を背景に、色々言われていた俺がいた。

意識が昨日よりもぼんやりしてるのがわかる。昨日念の為検査したが、特に問題は見当たらないとのことだった。

ならば、もしかしたらと。自分の中で考えが1つ浮かんだ。


「おはよう、ゆうくん」

「……おう」


隣りにいたのはあかねだ。

顔を見ると、いつもと化粧が違う気がした。明るい感じは同じだが。


「今日から数日は外出禁止だって。まあ、バッティングセンターに行ってたって白状はマズかったよねー」

「あー、まずかったなー」

「「めちゃくちゃ怒られたなー」」


顔を見合わせて2人笑う。

外の空気を吸いたくなったので、病院の屋上にいくことになった。

ここなら病院の敷地内だと、また2人で笑った。

いつも見ていた当たり前の景色が、異様にキレイに見えた。


「まあ、身体に問題はなかったし、数日様子を見て待てば退院だ」

「だね!ゆうくんは退院後、何したい?」


春には桜を見たい。夏には花火を見たい。海で泳いでみたい。秋には紅葉狩りをして、冬にはスノボをしてみたい。

やりたいことを、とにかく話した。

あかねも笑顔で聞いてくれた。


でも、『俺』がそれを叶えられないことをも、心のどこかでわかってた。


あかねがトイレに行った。

直後に俺はその場に座りこんだ。


フィルターがかかったように、意識がふわふわしている。今あるこの意識も、近いうちに途切れるんだろう。

おそらく、俺は『前の俺』に戻る。

理屈なんてわからないけど。日に日に薄れていく意識から、そんな気がする。


「……ずるいじゃねえか」


俺だって、あかねと一緒に生きていたい。なのに、なんでお前だけ生きていける?

俺が何した?俺だって、もっと。ずっと。


なら、いいさ。消えてやる。でもその前に。

せめて、あかねに、


「お待たせ、ゆうくん!このあとね、ちょっとこの後人がくるからーー」

「あかね、聞いてくれ!」


今のあかねと俺との関係がどうなってるのかはわからない。でも、せめて気持ちを伝えるくらいは。

あかねがビックリしてるのが見てわかった。


「なに?ゆうくん」

「聞いてくれ、あかね。俺は…………

俺はお前のことがーー」


意識と、視界が歪んだ。

背後から殴られるような感覚。急なことに、言葉は途切れる。

『言うな』と。自分の身体に拒絶されるようだった。どこからか汗が吹き出る。


「ーーーーっ」


ふざけるな。気持ちを伝えることくらいなんだ。俺には、自分の気持ちを言うことすら許されないのか。


膝が地面に着く。心配そうな顔をしてあかねがこちらに走ってくるのが見えた。


「あかねーー俺はーー」


お前が好きだ、と。

告げる前に、その意識は閉ざされた。



気が付けば病室に一人でいた。

外を見ると、日も落ちる頃になっていた。

相変わらず意識はぼんやりしてるが、先程の殴られるような強烈な感覚はない。


「……なんでだよ。お前はこれから生きていくんだから、これぐらいは許してくれても良かっただろうが」


一人呟いても返答はない。

好きだと伝える。何故それだけのことが許されないのか。


ガラッと、病室のドアが開いた。そこにいたのは、あかねと、知らないスーツ姿の男だった。

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