『彼』を知る彼女は

『彼』の過去

俺は乗用車に轢かれて、その時に頭を強く打ったそうだ。あかねと買い物してた時に、信号無視の車が来たと。


身体の骨は奇跡的にどこも折れてはおらず、ただその代償なのかなんなのか、記憶や知性に問題が発生した。


「フィクションの世界かよ」

「え、なに?さっきの映画の話?」


映画後、外でのファミレス。

そうか、感想会をしていたんだ。

いつの間にか自分の思考に陥っていたことに気が付く。


「いや、なんでも。それより体動かせる場所いこうぜ」

「いや、だめでしょ!ゆうくん骨に異常はなかったけど、意識ない期間もあったんだから、身体もうまく動かないでしょ!食べ終わったら、怪我人は病室に連れて帰ります!」


エヘンと胸を張っているが、こっちとしてはまだ色々街を見ていきたい。

知識としては知っていても体験しないとわからないこともある。

実際寝込みきりだったこともあり、激しい運動は無理ではあったが。

あかねといるとつい、何故か口から軽口がでてしまう。


「じゃあ帰るとき食べ歩きしようぜ。俺はビール飲みてえ」

「それは飲み歩きだけど!?しょうがないなー、じゃあ今日は直帰して……また別の日ね!」

「おっ!いいねー。飲みながらどうするか話そうぜ」

「ゆうくん、さては話し聞いてないね!?」


結局その日はそのまま病院に帰ることになった。

あかねも帰り、1人きり。部屋は個室。

これからの夜の時間が、嫌で仕方ない。


「ーーっ!」

強烈な倦怠感。同時にその視界もグラリと揺らいだ。

目覚めてからずっと。どれだけ耐えようとしても、夜に突如強制的に、意識を飛ばされる。


問題は、ここからの夢だ。


「……くそっ」


悪態が誰かに伝わることもなく、その視界はグラつき、霞み、暗く落ちた。


ーーーーーーーーーーーーーー

『どうでもいいけど、仲良くする気なんかねえぞ俺』

『ん?なにがだ』

『わかんだろ。俺と親父でやってこれてたじゃねえか。今更他のやつとなんて……』

『……まあ、そう言うな。話してみればーー』

『まあ、親父の人生だから、とやかくは言わねえけどさ。俺には関係ねえから』


インターホンが鳴った。

どうでもいい。関わる気もない。


『イイ人だぞ。それにお前とーー』

『部屋にいてる。飯になったら呼んでくれ』


ーーーーーーーーーーーーーー


毎日、最悪の目覚めだ。

元の自分の記憶だろう。

毎晩夢として出てくる。

興味のない映画を無理矢理見させられている気分だ。本当に億劫になってくる。

最近は特に、目覚めが悪いからか、起きてるときも意識がぼんやりしがちだ。

母は幼い頃に亡くなり、父と2人で暮らしてきた。そして新しい母が家に来た。


でも、その新しい母と父が、5年前に亡くなっているという事実を、俺は知ってる。

落石事故だったと。

病室の前で、誰かが話してるのを聞いた。


だからこそ、毎晩見せられるこの思い出に意味なんてないこともわかってる。

そもそも記憶喪失のこの身で、そんな思い出を見せられてもノスタルジックになんてならないというのに。


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