第4話 放課後の作戦会議


 ぼくたちは校庭の真ん中で対峙たいじしていた。あれから——。1年2組との決闘けっとうの話でクラスは持ち切り。関係のなかったクラスメイトたちも「それならぼく(わたし)たちも」と、全員でその場所に行くことになった。


 ほね組のメンバーもそうだったらしい。とてもその場で数を数え切れないほどのほねたちがわいわいと待ち受けていたのだった。


 ほねの中から、ブランコのところで決闘けっとうを申しんできた肋骨ろっこつ(右なのか、左なのか、何番目なのかはわからないけどね)が、一歩前に出て大きな声を上げた。


「今日こそは、どっちがすごいか勝負だぞ! 内臓ないぞうども!」


内臓ないぞう内臓ないぞうって、ぼくたちを一緒いっしょくたにしないでよ」


「そうだ、そうだ」


 内臓ないぞう組からは不満の声が上がる。それを聞いて「ほねだってそうだぞ。みんな一緒いっしょじゃないんだから」とブーイングが起きた。


「何で勝負するんだよ」


 肝臓かんぞうくんは、そんな声なんてまるでムシをして話を進める。代表の肋骨ろっこつくんが言った。


「かけっこだ。校舎こうしゃの周りをぐるっと二周して、先にもどってきたクラスが勝ちだ。途中とちゅうで、選手は交代してもいいことにする。クラスみんなで走るんだ。どうだろうか?」


「けっ、かけっこならいいぞ」


 肝臓かんぞうくんはそう返事をすると、ぼくたちを見た。いつの間にか、肝臓かんぞうくんがリーダーみたいになっているけど、そこはまあ置いておいて、ぼくたちは大きくうなずいた。「いいよ」ってことだ。

 ほね組のみんなも「いいぞ、いいぞ」と大騒おおさわぎになっている。


 1組と2組の戦いで、間に入る人がいないと甲状腺こうじょうせんちゃんが3組の子に声をかけてくれていたおかげで、審判しんぱんは3組の脊髄せきずいくんがやってくれることになっていた。かれはみょうに長い体をくねらせながらぼくたちと、ほねたちの間に立っていた。スタートは十五分後。ぼくたちは作戦会議を開いた。


「まずは小型内臓こがたないぞうからこまめにつなぐ。小さいのは足が短いから走るのが遅いだろう?」


 肝臓かんぞうくんの作戦に、カラダノくんが「いいね」と言った。


中盤ちゅうばんからは長いやつが距離きょりかせぐ。小腸しょうちょう大腸だいちょうだ」


「わたしはねえ、ぐるぐるっていつもはコンパクトになっているけど、5~7メートルもあるのよ」


「ええ! すごいんだねえ」


 ぼくはおどろいて小腸しょうちょうちゃんのからだを見た。いつもはくるくるって丸まっていて小さく見えるのに……そんなに長いのか。それから大腸だいちょうちゃんにも視線しせんを向けた。


「わたしは1.5メートルくらいかしら。小腸しょうちょうちゃんには負けるわね」


「同じちょうでも、わたしは30センチくらいなのよね。役にたたないわ」


 十二指腸じゅうにしちょうちゃんが残念ざんねんそうに言った。


「そんなことないよ。ぼくなんて10センチしかないもん」


 ここで大きさ自慢じまんをしてもしかたがないことだけど、話がり上がった。


「ともかくだ。走る順番だ」


 肝臓かんぞうくんは、地面に木の枝を使って名前を順番に書き出した。


 1 眼球がんきゅうくん 2.5㎝

 2 虫垂ちゅうすいちゃん 3㎝

 3 精巣せいそうくん 4㎝

 4 甲状腺こうじょうせんちゃん 4㎝

 5 副腎ふくじんくん 4㎝

 6 たんのうくん 6㎝

 7 子宮しきゅうちゃん 7㎝

 8 十二指腸じゅうにしちょうちゃん 30㎝

 9 大腸だいちょうちゃん 1.5m

 10 小腸しょうちょうちゃん 7m

 11 気管支きかんしくん 7.5㎝

 12 はいくん×2 26㎝

 13 脾臓ひぞう 10㎝

 14 腎臓じんぞうちゃん×2 10㎝

 15 肝臓かんぞうくん 15㎝

 16 心臓しんぞうちゃん 13㎝

 17 膵臓すいぞうちゃん 15㎝

 

 以上のようなならびだ。他にカラダノくん、膀胱ぼうこうくん、横隔膜おうかくまくちゃんがいるが、この臓器ぞうきたちは補欠ほけつとなった。みんなヒラヒラしていて風がいてくると飛んで行っちゃうからだ。


あいつらは数で勝負してくるにちがいない。バトンをわたすときに手間取っているところをはなす。いいな」


 肝臓かんぞうくんの作戦に、ぼくたちはみんなで顔を見合わせた。


 ——これは真剣しんけん勝負だ。絶対に負けられないんだ!


「やろう。みんなで協力すれば絶対に勝てるよ」


 ぼくはそう言い切った。


「そうよね」


「がんばりましょう」


 臓器ぞうき組みんなの心が一つになった時、脊髄せきずいくんの声が聞こえた。


「時間だよ。それじゃあ、両チームはスタート位置について。他のメンバーたちは自分の持ち場に待機たいきして」


 ——いよいよ始まるんだ。


 ぼくは肋骨ろっこつくんを見た。かれは、なんだか意地悪いじわるそうな顔をしていた。なにか悪いことを考えているような気がしてならない。なんだか一気に不安な気持ちになった。そんなぼくの背中せなか肝臓かんぞうくんがバシンとたたいた。


「しっかりしろよ。脾臓ひぞう


「あ、うん——肝臓かんぞうくん」


「なんだよ」


「がんばろうね」


「お前に言われなくても絶対ぜったいににダイジョウブだぜ」


「そ、そうだね。うん」


 ——なんだろう。こういう時は、なぜか肝臓かんぞうくんがいてくれると心強い。ダイジョウブ。きっとダイジョウブだ。


 ぼくは肝臓かんぞうくんにしてもらったように、甲状腺こうじょうせんちゃんや、たんのうくんに声をかけてはげました。


 トップバッターの眼球がんきゅうくんと、ほね組の鎖骨さこつくんがならんでいるのが見える。ぼくはあわてて自分の持ち場にけだした。


「それでは、位置について。よーい、——スタート!」


 脊髄せきずいくんの声は、灰色はいいろの雲がかかった空に大きくひびく。ぼくたちの勝負が始まったのだ——。








 つづく。

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