2章-28
気が付くと、フィーネさんの顔が間近にあった。
「うわっ!」
ゴチンッ!
「いたっ!」「ぐっ!」
「ご、ごめん!大丈夫?フィーネさん!」
「つつ。いえ、私こそごめんなさい。その、勝手に膝枕なんかしちゃって…」
「いやいや、それは夢見心地で良かったんだけど…」
「そ、そんないいものでは…」
二人して顔を赤くして俯く。
次の言葉が出てこない。
「あんた達、ウブな事やってるけど見た目年寄りだって事忘れないでね」
そうだった。
油断すると自分がおじいちゃんって事すぐに忘れてしまう。
ってゆーかウブとかそういう事じゃないんだよ。
「そういえばフィーネさん、最初からお婆さんだった?子供だった気がしたんだけど気のせいかな?」
「子供…」
「え?」
「いえ、なんでもありません。16歳ですから、確かに子供かもしれませんね。マナを吸われ過ぎて今はこんなお婆さんになっちゃいましたけど」
やっぱりあのとき見たのは子供だったんだ。
16歳ってことはリアルに同い年だな、見た目とのギャップがすごい。
人のこと言えないけど。
魔族の老衰がマナの枯渇っていうことは、老化はマナの消費によるもの?
「ねぇ、魔族って魔法使えるよね?それって魔法使うと早く老けるってこと?」
「はい、その通りです。心臓である魔晶石は元々かなりのマナを保有して産まれてきます。
魔族は魔法への適性が高く消費するマナも少ないので、余り抵抗なく皆魔法を使いますね」
「じゃあ、あまり魔法を使わない人は長寿だったりする?」
「そうですね…200歳位まで生きる方もおられるようですが、一般的な人は大抵100歳くらいで亡くなります」
200歳!
この世界の人の寿命を知らないけど、たぶん
60歳とか70歳だろう。
俺ほど年取った人を街ではほとんど見かけないからだ。
魔族の一般ですら十分長寿だと思う。
魔晶石と寿命の関係は分かった。
逆はどうなんだ?
「魔晶石のマナを消費すると老けるじゃない?じゃあ逆にマナを入れると若返れたりするの?」
「え?魔晶石にマナを入れるなんて出来ませんよ?」
「え?」
シルを見ると、そっぽを向かれた。
これなんか隠してるな。
「フィーネさん、ちょっと待ってて、シルと話してくる」
「シルー、ちょっと奥の部屋行こう。話したいことがあるんだ」
「あたしはないわ。お腹空いたしご飯にしましょう、そうしましょう!」
「シールー?」
「し、仕方ないわねぇ」
シルを伴って奥の部屋に入ると、以前よりもさらに白みがかった魔晶石が鎮座している。
順調に貯まってるよね?
「シル、これ魔晶石だよね?なんでマナ貯めれてるの?」
「はぁぁ、面倒くさいなぁ」
「教えてくれるよね?」
「…簡単に言うと、死んだ魔族から出た魔晶石だからね。一旦魔晶石のマナが空になることで、他者のマナを受け入れる器になることができるのよ」
「これは確かヨークラムさんが魔王を倒したときの…そうか、それで器として機能してるのか」
「そういうこと。だから生きている魔族の魔晶石に、他者のマナは入れることが出来ないの」
「そんな…なにか方法はないの?まだ16歳なんだよ、いきなりお婆さんになってそのまま死んでいくなんてあんまりだ…」
「…まったく。しょうがない、シル様が一肌脱いであげるか!」
「手があるの!?」
「分からないわ」
ズコッ
「でも確かヨークラム様の研究に、魔族の事を調べたのがあったはずなの。調べてあげるからしばらく時間を頂戴。あ、ちなみに魔晶石にマナを貯められるのはヨークラム様の研究成果だから他言無用よ!」
希望が見えた。
浮き立つ心を抑えフィーネさんに報告に行く。
マナの流出が止まったので、さっきまでと比べると随分楽そうに見える。
「フィーネさん、なんとかなるかもしれない。あまり期待されても困るけど…」
さらっと解決できない自分が情けないが気分的にも時間的にも余裕はできた。
今なら聞きたかった事も聞けるはず。
「そもそもどうしてあいつらに捕まったの?魔族は自分の国から出ないって聞いたけど」
「それは…」
暗い表情を浮かべ俯いてしまった。
あ、触れちゃいけないやつだったか?
「ごめん、言いたくないなら別にいいんだ。興味本位っていうか…」
「いえ、大丈夫です。ヨウさんには聞いていただきたいのです」
そして語られる捕まるまでの顛末。
結論から言うとフィーネさんは、王女だった。
穏健派の現魔王だったが、革新派のクーデターにより王妃諸共殺害。
王女のフィーネさんも命を狙われたが忠臣の手引きにより難を逃れた。
しかし追っ手を振りきることができず、絶対絶命の時に、一か八か転移魔法を発動させたらしい。
それで最悪な事に着いたところがロイス領主の中庭。
そこからは魔族というのも露見し、ペンダントを付けられて魔法も使えずされるがままだったという。
「王女様でしたか…失礼な口を聞いて申し訳ありませんでした…」
権力に弱い俺、すぐに平謝りする。
どうりで言葉遣いが雅な感じがしたよ。
するとフィーネさんは膨れっ面になり怒り出した。
「態度も言葉遣いもこれまで通りにしてください。私はもう王女でもなんでもない、ヨウさんに助けられた、ただの一魔族です」
「フィーネさん…すみません」
「さん付けもいりません、どうぞ呼び捨てになさってください」
「フィーネ、ありがとう。ついでに聞いていい?肌が白いけどアルビノなんだよね?」
「アルビノが何かは分かりませんが、肌が白いのは突然変異です。先祖帰りとも言われますが大抵の場合、迫害の対象になります…」
「ごめん、また余計な事聞いたみたい…俺ほんとダメだな。わざとじゃないんだ、ほんとごめん!」
「気にしないでください。この肌を見ても気持ち悪がられませんでしたもの、本当に興味本位だったのでしょう?」
「気になることがあると確かめたくなっちゃいまして…その、耳とかも触ってみたかったり…」
「み、耳!?耳は、あの、本当に?私の耳を?」
「あ、嫌だったらいいんだ!全然!大丈夫!」
「嫌だなんてとんでもない!こんな耳でよければ…」
「じゃ、じゃあ触らせてもらうね」
ふにふに。
あ、思ったより尖ってるところ柔らかいんだな、耳朶が2つあるみたいだ。
ふにふに。
ふにふに。
え?なんでフィーネも俺の耳触ってるの?
まぁお互い様だからいいけど、なんか変な感じで恥ずかしくなるな。
見ると、フィーネの顔も真っ赤で、またしても二人して顔を赤くしていたのだった。
誤解の無いよう確認だが、お爺さんとお婆さんのやり取りである。
「もういいかしら?あとはあたしとフィーネで調べておくから、あなた達二人はもう帰りなさい」
「えっでも…」
「居てもなんにも役に立たないでしょ?バカなやり取りするくらいなら王都でやるべき事をやんなさい」
ぐっ、それを言われるとその通りなんだよな。
世界樹もなんとかしなきゃいけないし。
またヘソを曲げられても困るから、今日のところはもう帰ろう。
「シル、王都に帰るからマナ使わせて。俺のじゃまだ足りなさそうなんだ」
「もう、仕方ないわね!早くしてよ?」
なんだかんだで優しいんだから。
フィーネはここに残ってシルのお手伝いだ。
シルのマナも使って無事、王都の我が家へ帰り着く俺、ユレーナ、シル。
…
スパーン!
「なんであたしまで跳ばすのよ!」
「ご、ごめん!シルのマナ使ったから、ついイメージしちゃって…」
「もう!ほんとに抜けてるんだから!もう、帰るわ。一週間したら一度家に来てちょうだい、じゃあね!」
嵐のようにシルが帰っていった。
連れてきたのは俺なんだけどね。
しかしまた魔法使ったせいかフラフラする。
ユレーナが正座して手を広げて待っているが無視だ無視。
ヨロヨロと二階の寝室へ向かい、ベッドへダイブしてそのまま眠りについた。
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