2章-27

家に帰り、まずは外套を脱いでもらって改めて容姿を確認する。

耳が少し尖っているが、他は人間と違わないし、なにより…うん、やっぱり子供じゃなくて年寄りだ。

着ているのがボロ布一枚だったので、リリアにお金を渡し、近所で服を買ってきてとお願いした。

その間に暖かいお茶を飲んでもらったが、気に入らなかったようであまり飲まない。

紅茶の方が好きらしい。


リリアが帰ってきて、早速服を着替えてもらう。

ついでに紅茶も淹れて一息つく。


「ヨウ様、気のせいかと思ったのですが、この魔族まだマナが漏れています」


「うん、フィーネさんね。ちゃんと名前で呼ぼう。ってかなんでまだ漏れてるの?もう魔法の影響は無いはずでしょ?」


「そう言われましても…あ、そのペンダントです!そこから漏れています!」


言われてペンダントを見ても俺には何も見えない。

ということは魔法の影響ではない。

純粋にフィーネさんからマナが漏れている事になる。

あれ?それってまずくない?


「あの、フィーネさん?結構体つらかったりするかの?」


「わりと…つらいです。身体からどんどん力が抜けていくような感覚で…」


それなら早く言ってくれ!

呑気に着替えてお茶飲ませちゃったじゃん!


「フィーネさん、そのペンダントは大事なもかの?そこからマナが漏れているようじゃから外して欲しいのじゃが」


「これはあいつらに付けられた呪いの魔導具です。死ぬまで外れないと言われました…」


「なんということを…」


生きている魔族の魔晶石から強引にマナを引き出す呪われた魔導具。

なんとかしないと!

このままフィーネさんを放っておけない!


「ちなみにフィーネさん、マナが漏れ続けて無くなったらどうなるのじゃ?」


「普通に死にますね。寿命で死ぬときもマナの枯渇が原因なので…」


やっぱり死ぬのか…

かといってハイそうですかと受け入れることは出来ない。

ここまで助けたんだ、最後まで助ける!


「無理矢理外すとどうなるかな?ちょっと失礼して…」


バチィ!


「ぎゃー!痛った、痛った!」


「痛っ!…大丈夫ですか?ヨウさん。だから外れないと…」


超絶スゴい静電気みたいな感じだった。

俺も痛いけど、フィーネさんにもダメージを与えてしまった…反省。

無理矢理外すのはナシだ。


「ユレーナどうしよう!?」


「私に聞かれましても…こんな時はシル姉様を頼られた方がいいのでは?」


「おおお!シル!忘れてた!!ナイスだユレーナ!」


いかん、思わず抱きついてバンバンしてしまった。

ユレーナの顔が赤い。

年頃の娘さんに失礼なことを…


「ご、ごめんユレーナ!つい…よ、よし、早速シルの所に跳ぼう!」


まだ自分産マナの量は十分ではないけど、とりあえず片道行ければいい。

すすすと、当たり前のようにユレーナが側に寄ってきた。


「いや、マナ足りないし、ユレーナ留守番だよ?」


「そんな!名案を出した私を置いていくなんて!ひどいですヨウ様!」


「時間がないんだよ!いいから離れてってば!」


ユレーナが足に縋り付いてくる。

必死すぎて怖いよ!

こんなことしてる間もフィーネさんのマナは漏れ続けてるんだから!

するとフィーネさんが近付いてきてさり気なく腕を組んできた。


「転移なさるのでしょう?どうせ漏れているのですから私のマナを使ってくださる?そうすれば三人で跳べるのではないかと」


「いや、まあ、それなら…平気かの?」


「やった!」


やっとユレーナが足から離れてくれた。

せっかくの提案だし、早速漏れ出てるマナを意識して捉える。

意識さえすればマナはこうやって感じ取れるんだよね、見えないのに不思議。

っとそんな事考えてる場合じゃなかった。

集中、集中。


「うむ、大丈夫。使えそうじゃ。二人とも跳ぶぞ!」


「いってらっしゃい、ヨウさま!」


ここまで黙って見ていたリリア。

口数は少ないけどホントいい子だね。



「到着!ここがワシの実家…みたいな感じかの」


「ヨウさん、普通に喋って構いませんよ?魂は

お若いようですし、ユレーナさんと同じようにしてくださいませ」


「は、はぁ、そうですか?では普通にしゃべらせてもらいますね」


そんな事を言いながら家に入ったが、シルがいない。


「あれ?シルー?ただいまー!」


「ヨウー?おかえりー!ちょっと今手が放せないのー!」


ちょうど忙しい時に帰っちゃったかー。

申し訳ないけどこっちも急いでるんだ!


「どこー!?ちょっと急いでシルの知恵を借りたいんだけどー!」


「ええー?もぉー、ちょっと待ってー。すぐ行くわー!」


なにしてるのかな?

何でもいいけど早く来てくれないとフィーネさんが手遅れになっちゃうよ…


「あの、シルさんというのは…」


「あ、シルは俺の…なんだろ?先生でもあり、弟子でもあり、面倒見てもらってるから母親みたいな時もあるし…よく分かんないな」


「まぁ、お義母様…これはしっかりと挨拶をせねばなりませんね!」


いや、そんな気合いを入れなくても。

それになんかお母様のニュアンスちがくない?

そもそも母親扱いしたら絶対怒りそうな気がする。産んだ覚えない!とか言って。


…にしても、遅い。

急いでるって言ったのに!


「シルー!まだー!?ほんと急いでるんだって!!」


「分かってるわよ!なによ、もう!」


プンスカ怒りながら奥からシルが飛んできた。


「シル姉様、ただいま戻りました」


「お義母様、初めまして。フィーネと申します」


「ヨウ、ユレーナ、お帰り。そして一人増えてるんだけど説明してくれる?どうしてあたしがお義母様なの?」


周辺温度が5度くらい下がったんじゃない?

そんな冷たい目で俺を睨まないで!


「そんな事より、知恵を貸してよシル!フィーネさんが大変なんだ!」


「なにがそんな事よ!こっちは産んでもいないのに母親扱いされてるのよ!きっちり説明して頂戴!」


「そういう言い方するから余計に母親っぽくなるんじゃないか!いいから助けてよ!」


「あの、すみません、私が変な呼び方してしまって…」


「フィーネさんのせいじゃないよ、って汗すごっ!つらいんだったら言ってってば!」


「す、すみません」


「シル、怒ったのなら謝るよ、ごめん。でも今はフィーネさんが大変で助けて欲しいんだ。お願い!」


「別に怒ってなんかないけど…あたしも急な事で混乱したわ、ごめんね。それで、その死にそうな白いお婆さんの何を助けるの?」


「そう!死にそうなんだよ!助けてよ!」


「ちょっとは落ち着きなさいよ!男がだらしない!ユレーナ、説明して!」


「はい、お姉様。実は…」


説明はきっちりユレーナがしてくれた。

省く所は省き、簡潔に、でも重要な所はしっかりと。


「ヨウ、解呪魔法教えたでしょう?それでいけるはずだけど試した?」


え?

一瞬間があいた後、急いでバッグから魔法ノートを取り出し、ページをめくっていく。

そんなの習った?

覚えてないけど…

あ、あった。

ヘナヘナした字だからきっと半分寝てたな、俺。


「すみません、載ってました」


「謝る相手が違うんじゃない?」


「フィーネさん、本当にごめんなさい」


「いえ、そんな!頭をあげてください、ヨウさん」


謝り足りないが後回しにしよう。

まずは解呪魔法のページを読み返し、イメージを固める。

そしてフィーネさんのペンダントに手をかざし、回路を巡るマナを捉え、魔導具全体を薄く俺のマナで覆う。


「アンチカース」


呪文から一拍おいて、フィーネさんのペンダントが粉々に崩れ落ちてゆく。


「あ、あ、ありがとうございます!すごい、ホントにペンダントが無くなった!」


「ヨウ様さすがです!もうマナは流出していません!」


やった!

ちゃんと助けることができた!

あれ?なんか世界がぐるぐる回ってきた…

マナ切れかな、ああ無理しすぎたかも…


「ちょっとヨウ!」


「ヨウさん?ヨウさん!」


「ヨウ様!しっかり!」

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