2章-21
「はぁぁーー緊張したぁぁぁ!」
いかん、帰りの馬車に入った途端、疲れがどっと押し寄せて素がでた。
十歳は老けたな。
うん、もう八十歳と言ってもいいくらいだ。
「ヨウ様、緊張なされていたのですか?とてもそのように見えなかったのですが…」
「ホントだぜヨウ殿。伊達に年は取ってねぇな、最初噛んだけど」
やはり気付かれてたか。
きっと心の中で笑ってたんだろ、コノヤロー。
「ディンク殿こそ、いつもさっきのように振る舞えば、おなごも無碍にせんと思うがの」
「これは手厳しいねぇ。ちゃんと世界樹に近付くチャンスを作ったでしょう?」
「あの秘術がどうのという話かの?聞いた限り危なそうなんじゃが…一体秘術とは?」
「あぁは言ったが実際ユレーナちゃんが居れば大丈夫だ。秘術に関しては口止めされてるから俺の口からは言えないし、実際に見てもらった方が早い。それにあまり気分のいいモンじゃねぇからな」
ポリポリと頭を掻きながら、思い出しているのかディンクさんは居心地悪そうに座り直した。
ユレーナは面会中に手を離れていた聖剣に頬ずりしている。
ちょっと気持ち悪い。
「では、キーアイル卿が言ったように次は来月でいいのじゃな?」
「ああ、卿から知らせがきたら、ヨウ殿の家に連絡するよ。出来るだけ家に居るようにしてくれるとありがたい」
「大丈夫じゃよ。家には留守番もおるし、その者に伝えてくれれば」
「なんだヨウ殿、メイドでも雇ったのか?」
「め、め、メイド!?そんなうらやまけしからん!ただの子供じゃ!」
「なんだよ、うらやまけしからんって…まぁとにかく小間使いがいるなら安心だ。で、ポーションの製法とやらはどうするんだ?教えるのか?」
「ユレーナの実家のポーション屋が出所じゃて、そこに話してみんことには何とも言えぬの」
「あまり渋って、卿の機嫌を損なわせないでくれよ」
「善処しよう」
せっかくの馬車なので、少し遠回りして家の近くに寄ってもらってディンクさんとは別れた。
予定が出来たので、それまではまた自由時間だ。
あと三週間以上ある。
夕食時に皆に予定を確認したが、子供二人は特にない。
ここ数日ちゃんと家に帰っているので、リリアも寂しがることはなく、家を空けても大丈夫そうだ。
となると、魔石集めに討伐でも行くか。
「ユレーナ、久し振りに魔石取りに行かない?特訓の成果も試したいしさ」
「はい!ヨウ様が行く所、どこまでもお供いたします!」
「えーいいなー、ねーちゃんばっかり!オイラもハンターになろうかな?」
「そうそうモクロ、俺達が討伐に行ってる間、世界樹のマナを見ててくれない?たぶん徐々に弱っていってるはずなんだ」
「あのデッカイ木か。あれ光ってないけどマナなんてあるのか?」
「え!?光ってない?」
「モクロ、夜に見るといい。遠いし、昼間は明るいからほとんどマナは見えないよ」
「あ、そういうことか!分かった、なら毎晩見るようにするよ!」
「あの、わ、わたしは…」
「リリアはこの家を守ってね。俺がちゃんと帰ってこれるように。それにハンターギルドから連絡がくる予定だから、出来るだけ家に居て欲しいんだ」
「は、はい!」
モクロもリリアも素直でいい子だ。
いつか過去のことを笑って話せるように、今は一つ一つ達成感を味わってもらおう。
きっとそれが成長に繋がるはずだ。
自分が小さい頃、父親にしてもらったように。
次の日、朝早くからユレーナには買い出しに行ってもらい、昼前には王都を出発した。
休み後半は家でのんびりするため、前半はしっかり稼ぐ作戦である。
今回の目的は魔石集めなので、基本魔物は魔法で倒す、魔石が絶対出るからね。
ユレーナは護衛として万一に備えるのが仕事。
本人は魔法が見れるので何も不満は無いようだが、こちらからしてみればAランクの無駄遣いになってしまって申し訳ない。
そこで色々実験してみることになった。
1、普通に倒して魔石が出やすいのはどのランクの魔物からなのか。
2、付与魔法をかけた状態のユレーナでは、魔石は必ずでるのか。
3、属性付与した聖剣では、魔石は必ずでるのか。
4、2と3が否だった場合、組み合わせると魔石は必ずでるのか。
この4つについて、実験し検証していく。
まずは一つ目。
Fランク相当はほぼ出ないと聞いているのでEランク相当から開始した。
フットラビットに代表される小さめの魔物が、Eランク相当となる。
これらは攻撃性があるというだけで、強さ的にはFランク相当とたいして変わらない。
やはり殆ど魔石は出ない、20匹倒して1つ出た。
Dランク相当はレッサーグリズリーに代表される大きいだけの魔物。
攻撃力が高いので、この辺りから一般人なら死者が出る。
取りあえず同じ数を倒したが、20匹倒して2つ。
Eの時の運が良かったのか、今回が運が悪かったのか、殆ど変わらない。
これは思ったよりハンターの暮らしは楽じゃないかもしれないぞ。
Cランク相当はグリーンウルフに代表される一癖あって厄介な魔物。
素早かったり、空を飛んだり、地中に身を潜めたり、となかなかに危険だ。
これはあまり遭遇出来なくて検証数が少ないが、15匹倒して4つ。
うん、この辺りから採算が取れてくる感じかな?
Bランク相当はフォレストボアなどの大型で凶暴な魔物だ。
これはそもそも出会うことは稀だし、出没情報があればギルドから討伐依頼が出されるクラスだ。
それでも2匹に出会えたのはラッキーだったのだろうか、魔石は2個出た。
検証の為、付与魔法を掛けられないのでユレーナには自力で頑張ってもらったが、難なく倒していた。
やっぱりここ最近また強くなってるよね…
1の検証はここまで。
ユレーナがひとりで魔物狩りするときの参考になればいいね。
2と3の検証はDとE相当の魔物で検証した。
俺は繰り返しの事なので飽きも来るが、ユレーナは魔法を体に受けるため、むしろご褒美の状態だ。
結果、2の付与ユレーナは20匹中4個、3の付与聖剣は20匹中12個と大きく差が開いた。
属性付与すげー!聖剣すげー!
ユレーナには悪いけど、これからは魔石収集の時は聖剣に魔法掛けよう。
4の検証はもういらないや!
ユレーナは泣きそうな顔をしていたけど、効率を考えるとやる必要はないもんね。
魔物があまり出なかったため、全ての検証を終えるのに20日もかかってしまった。
予定より5日オーバーなので、王都の家に帰還する。
「ただいまー」
「おかえりなさい!ヨウさま!」
リリアは俺に気付くと一目散に飛んできて、ぐりぐりと顔をすり付けてくる。
頭を撫でて応えてから、お茶を淹れてもらう。
「ふぅ、やっぱり家は落ち着くのぉ」
「ふふふっ。ヨウさま、ホントにおじいさんみたいですよ?」
「ああ、ごめん。癖になってるね…まぁこの外見じゃ仕方ないけど。リリア、ギルドからの連絡はあった?」
「いえ、まだありません!ほとんどいえからでていないのでしっぱいはしてないとおもいます」
「大丈夫、大丈夫。そのうち連絡もくるよ!じゃあ疲れたし、ちょっとベッドで一休みしてくるね」
そういって二階に上がって寝室のベッドに体を横たえると、あっという間に睡魔に襲われた。
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