2章-22
目を覚ますと外は明るく、朝になっていた。
どれだけ疲れてたんだ、俺。
階下に降りると、すでにリリアが起き出して朝食の準備を始めていた。
もうすっかり一人前のようだ。
「おはよう、リリア。早いね」
「おはようございます、ヨウさま。きのうあれからギルドからのつかいのひとがきました」
「そうなの?タイミングが悪かったなぁ。それでなんて言ってた?」
「ひどりがきまって、いつかごだそうです」
「五日後だね、了解。ってことはあと四日か。また中途半端な…」
「ヨウさま、いえでゆっくりしませんか?」
「そうだね、そうしようかな。ここのところ働きすぎな気がするしね」
リリアの頭をポンポンと撫でながら、それもいいかなぁとぼんやり考えてみる。
寝起きのこのぼーっとした感じ、好きだな。
少しするとユレーナが降りてきたので、そこら辺で寝ているモクロを起こして朝食にする。
今度、男子と女子で部屋を分けて、ベッドで寝る癖をつけさせよう、そう決意した。
「次の予定は四日後だから、今日から三日間、どうしようかユレーナ」
「私はヨウ様と居られれば他にする事はありません。ただ…実家に製法の話をしに行かなくて宜しいのですか?」
「あ!すっかり忘れてた…ユレーナナイス!よし、とりあえず今日はキールに行こう。ごめんねリリア、ゆっくりするのはまた明日にしよう」
「はい、ヨウさま」
「モクロはどうする?やけに眠そうだけど…あ、奴隷と世界樹はどう?」
「ふぁぁ。奴隷の噂は全然聞かない。世界樹はほとんどマナ出してないんじゃないか?真ん中の方はぼんやり光ってるけど…あ、そうだ。世界樹の近くの家で一瞬光が見えたぞ?ヨウ様が魔法使った時みたいな」
「え!?見間違いじゃないのか?貴族街ならそれこそ魔導具の灯りとかありそうだけど…」
「そういう感じじゃなかったんだけどなぁ。まいっか」
「待て待て、良くない!場所は覚えてるか?」
「多分。世界樹のこっち側」
空中で手振りで教えてくれるがさっぱり分からない。
「じゃあ、今晩一緒に見に行こう!そこでもう一回教えてくれ。あ、なんだったら夕食は皆で外で食べよう!そのあと皆で行けばいい!」
そうと決まれば早めに用事を済まそう。
朝食を平らげて食後のお茶を淹れてもらった後、手土産に王都スイーツをリリアに買ってきてもらった。
ちょっとしたお使いに行ってもらえるのはすごく助かる。
薬草畑に着いた俺とユレーナは、まず店の方へ顔を出す事にした。
「イレーナさん、おはようございます。アグーラさんはもう仕事ですか?」
「あらヨウさん、おはようございます。お父さんならダイニングでまだお茶を飲んでるんじゃないかしら?」
「ちょっと相談があるので、お邪魔しても大丈夫そうですか?」
「何かしら?構いませんけど気になるから私も同席してもいい?」
「勿論です、是非お願いします」
込み入った話になると予想したのか、玄関の吊り札をひっくり返してから奥へと案内された。
ダイニングではアグーラさんがお茶を啜っている。
この匂いはドクダミ茶だな。
「おや、ヨウさんいらっしゃい。どうしました?朝早くに」
「おはようございます。実は相談事がありまして…少しお時間いただいて大丈夫ですか?」
それから世界樹にまつわる王都での出来事を余さず伝える。
なにが判断材料になるか分からないからね。
全て聞き終わると、アグーラさんは難しい顔をしていた。
「製法と言っても秘匿するのはヨウさんの家から持ってきた土くらいのものですよね?ウチの製法は調合比率こそオリジナルですが、ごく一般的ですから」
「え?じゃあ製法を伝授してもいいということですか?」
「それは構いませんが、伝えたところで先方は納得しないと思いますよ?貴族様が知りたいのはポーションの効果が上がる製法でしょう?」
「あ、そうか。一般的な製法からは一般的なポーションしか出来ないですもんね、普通。うわーどうしよう、土は有限だし言いたくないな…」
「うーん…マナを含んだ土ということだけを伝えればいいのでは?別にヨウさんの家から持ってきてると言わなければいいだけで」
「おお、なるほど!素晴らしい案です!でもその土はどこからとか聞かれませんか?それにマナが含まれるかどうかなんて普通は分からないんですよね?」
「そう言われれば確かにそうですね。では魔法ポーションを掛けた土を使うというのはどうでしょう?これなら土にマナが含まれていると予測がつきます。」
「いいですね!さすが専門家です、それでいきましょう!はぁぁ相談してよかったぁ」
「なぁんだ、ユレーナが嫁に行く話じゃなかったのかー」
「な!?」
「え?イレーナさん、なんて?」
「ううん、なんにも言ってない!空耳じゃない?」
「そう?中身は若いんだけどなー」
なんか誤魔化されたが、気にしないでおこう。
製法伝授の件はほんとに助かった、アグーラさん様々だ。
「アグーラさん。申し訳ないんですが、回復ポーションを10本都合つきますか?また貴族への手土産にしたいのです」
「同じ物で大丈夫ですか?」
「魔法ポーションはお金が掛かるって言ってましたし、ここのポーションなら喜んでもらえそうな気がするんですが…」
「そうですか?ヨウさんがそう言うなら…」
次会うときの手土産もゲット。
秘術に立ち会うだけだから手土産はいらなさそうだけど、顔を合わせる以上なにか渡した方が好感度があがるだろう。
打算的だけど、世界樹に近付くためだ。
「魔法ポーションで思い出しましたけど、チェロキー商会はその後どうですか?」
「ああ、なんでも王都でまとまった魔石の買取があったようで、一時的に値が下がったみたいなんです。それを上手く買い漁って黒字化に成功したらしいですよ。あくまで噂ですけどね、まとまった数の魔石の買取なんて聞いたこと無いですが」
…それ、俺じゃね?
賭け金欲しさに100個くらい売ったやつ。
周り回って商売敵を救うことになろうとは…
昨日までに集めた魔石も、一気に売るのは控えた方が良さそうだな。
用事が済んだので、薬草畑の手入れをしてから帰ることにする。
ここの薬草畑はホントに不思議で、摘んだ葉は2~3日で再び生い茂るようで、いつ来てもあんまり薬草が減っている感じがしない。
マナが土に含まれているというのは植物にとって最高の環境なのかもしれない。
もしかすると世界樹でさえも。
王都に帰って夜まで適当にダラダラと時間を過ごす。
意味のない魔法を使ったりして子供と遊んだのだ。
例えば物体を回す魔法。使い道が分からないのでモクロを回してみたら、思ったより回転が速くて、すぐに吐いた。
遊ぶ時間より片付けの時間の方がかかったので、この魔法は封印することにした。
日が暮れてきたので、そろそろかと皆で家を出てよさげな店を探す。
子供連れで酒場ってわけにもいかないからね。
しばらく大通りを歩いて、落ち着いた店があったのでそこにした。
適当に頼もうかと思ったらコースしかないらしく、結構高い。
今更出るわけにも行かず、せっかくだからと高めのコースにした。
ちなみに文字はシルにならったので読める。
お高い夕食は絶品だった。
この世界で初めて高級料理のおいしさを知ってしまった感じだ。
ほかのメンバーも同じようで、時計塔の踊り場に着くまで皆ホワホワしていた。
「ふわぁ、おおきいです…」
「世界樹ね!そう、あれが世界樹だよ、リリア」
なんで一瞬焦ったんだ、俺…
「コホン。ユレーナ、モクロ、どう見える?」
「やはりほとんど光が見えませんね。最初にヨウ様と見た時よりも確実に弱っているでしょう」
「な?言ったろ?ここ何日かあんな感じなんだ。それで前光ってた家っていうのがあそこ」
モクロが指を差すが、全然分からない。
目線を合わせて指の先を見ても何軒かの貴族邸があり、特定できない。
しかしユレーナは目を細め、じっとモクロの指差す方向を見つめている。
ここはユレーナの感覚に頼るしかない。
「恐らくあの三軒のどれかですね。世界樹に近いのがキーアイル卿の邸宅でしょう。そこじゃないのか?モク…あ」
「あ」
「え?」
なに?二人して固まって。
「今光りましたよ!ヨウ様!やはりキーアイル卿の邸宅です!魔法を使いましたね、間違いありません!」
「ほら見ろ!オイラの言ったとおりだったろ!」
俺は見ていなかったが、ユレーナの興奮からしてこれは間違いない。
キーアイル卿は法を犯している。
だが、なぜ王国の要職に就いている宮廷貴族が魔法を使う?そもそもどうやって?
魔法が禁止されて百年は経っているから勉強しようにも資料がないはずだ。
…あ、王城なら保管してるか。
そうか、要職に就いているからこそ魔法の事を知ることが出来たのか。
これは秘術というのは魔法である可能性が出てきたな。
でも魔法を使うためのマナはどうするつもりなんだろう。
世界樹からはもうほとんどマナは出ていないし、魔石は市場に流れた。
秘術とは一体なんなんだ…
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