2章-19

モクロとリリアには主要な施設を案内し、場所と名前を覚えてもらった。

お使いができるようになると大助かりだ。

これからは所帯が大きくなるので、できるだけ自炊できるよう、食材も買っておいた。


昼食を食べながら、今日のこれからの予定を話す。

俺とユレーナは、アグーラさんのポーション屋へ行った後、シルの所に帰って一泊する。

この家には明日の朝に戻ってくることになるのでリリアは不安そうにしていたが、本当に明日帰ってくるから心配ないと頭を撫でたら渋々納得したようだった。

二人には自由に過ごすように言っておいた。


まずは薬草畑へ。

うん、やはりいい香りだ、落ち着く。

あ、後でミダクドを分けてもらおう、ドクダミ茶が飲みたくなってきた。


店の方に行くと、アグーラさんとイレーナさんが楽しそうにしゃべっていた。


「こんにちは、お邪魔しています」


「あら、いらっしゃいヨウさん。もう王都での用事は済んだのですか?」


「いえいえ、拠点が出来たので一旦戻っただけですよ。用事はまだ全然…あ。そうだ。アグーラさん、回復ポーションは相変わらず効果は高いですか?」


「あぁ、品質は変わってないはずですよ。自分で使っている訳ではないですが、精製中の反応は同じですから」


「いいですね!すみませんが、いくつか売ってください。とある貴族様に縁が出来そうなので手土産にしたいのです。まだ王都にまでは広まってないですよね?」


「ええ!?お貴族様にウチのポーションを!?そりゃあこんな小さな店の商品ですから、王都の方に知られていることは無いと思いますが…」


「ありがとうございます!では10本ほど売ってださい」


「え、別にお金はいらないですよ?」


「そうはいきません。それに今お金持ちなので!」


「はぁ、そうですか?ではありがたく頂戴しますね。イレーナ、準備を頼む」


よし、これでお貴族様への手土産ができた。

なんとかこれを突破口に世界樹へ近付かないと!


「そう言えば、チェロキー商会でしたっけ?若旦那の。魔法ポーションの量産が始まってると聞いたのですが」


「ああ、耳が早いですね。量産は始まりましたが、随分買いたたかれたみたいで作れば作るほど赤字だと聞いています。それでも王都のお偉いさんが相手らしく途中で辞めるわけにもいかないとか」


「うわぁ、辛いところですね…潰れちゃうんじゃないですか?」


「どうでしょう?あれでもキールの街で一番の豪商ですからね、チェロキー商会は。転んでもただでは起きないでしょう」


やはり商人には商人なりのやり方があるのだろう。

ユレーナも加わり王都での事を話して、一盛り上がりしてから、今度はシルの所へ跳ぶことにする。


「ただいまー」


「お帰りヨウ!遅かったじゃない!王都に行くのにこんなにかかるなんて聞いてないわよ!?」


「いや、色々あったんだよ…」


それから、起こった色々な事を報告していく。

今回は一月ほど掛かってしまったので報告も多くて大変だ。

話を聞き終えるとシルは満足した様子で、妹!よくやった!とユレーナを誉めていた。

あの、俺も一応頑張ったんですが…

ちょっとだけむくれていると、シルがビターンと顔に張り付いてきた。


「ヨウもよく頑張ったよ、エラいエラい!」


柔らかいのが当たってるよ!

別に誉めてくれなくったって平気だけどね!

あ、そうだお土産。


「ほ、ほら、さっき言ってたパイア討伐したときに出た魔石。シルにあげるよ」


「え、いいの!?こんなに白い魔石久し振りに見たわ!ほんとにいいの?」


「ヨウ様はシル姉様が喜んでくれるか不安そうでしたよ?」


「もう!ヨウったら可愛いところあるじゃない!ありがたく頂くわ!…ちゅ」


「ちょっ、な、なにしてんの!?もぉ!」


真っ赤になって抗議するが、シルは気にしていないようだ。

ご飯の準備をすると言って飛んでいった。

この日の夕食はすごく豪華だったので、久し振りにキールへ買い物に出てくれたのかもしれない。

味は最高だった。


夜、シルにマナ制御を確認してもらった。

毎日練習頑張ったからね、その成果を見てもらいたい。


「すごいじゃない!これなら上級は厳しいかもしれないけど、中級なら余裕で使えるんじゃない?」


「ほんと?毎日頑張った甲斐があったなー!そういえばシルは何してたの?」


「あたしは毎日魔晶石にマナを貯めてるわ。お師匠様直伝の高効率のマナ伝導があるから結構貯まったの!見る?」


「お、是非是非!」


奥の部屋に行くとドデカい魔晶石が暗い灰色になっている。


「おおー!すごい、結構色変わってる!!あれ?でも早すぎない?たしかこれ満タンにするのに三百年って聞いた気がするんだけど…」


「あははは!ヨウったらあれ信じたの?ウブねー!」


むぐぐっ。

こぉのーー。


「きゃー!どこさわってんのよ!エッチ!バカ!」


スパーン!


なんだよ、ちょっと胸突っついたくらいで。

自分は散々笑ってバカにしたんだからそれくらいで文句言ってほしくないね。


「それで、どうしてユレーナが胸を突き出しているのかな?」


「いえ、触りたいお年頃かと思いまして…」


さらっと言ってるけど、ユレーナ顔真っ赤だよ…

無理してるのバレバレだから。

恥ずかしいならボケなきゃいいのに…

一瞬険悪になったから気を利かせたのかもしれない、お礼代わりに頭をくしゃっと撫でておいた。



朝、ご飯を食べずに王都へと帰る、皆で朝ご飯を食べるためだ。

シルはやっぱりお留守番。

また魔晶石にマナを貯めるんじゃないかな。


王都に着くとリリアがしがみついてきた。


「ヨウさま、おかえりなさい!」


「ただいま、リリア。おなかが空いたよ、ご飯ある?」


コクッコクッと頷き、ユレーナの手を引っ張ってゆく。

まだひとりで出来ないことが多いから、少しずつ上達していけばいい。

そういえばモクロの姿が見えない。

朝からどこかに出掛けたのかな?


リリアが不揃いに切ったパンに、チーズを乗せた朝食を作ってくれた。

竈で一炙りしているのでチーズがとろけて美味しそうだ。

すると匂いに釣られたのかモクロが俺の後ろから出てきた。


「うわっ!どっからでてきた!?」


「あ、ヨウ様、おはよ。そこで寝てたんだよ、気付かなかったのか?」


まさか、椅子の陰で寝てるとは…


「ご、ごめん…気が付かなかった。おはようモクロ、一緒に食べないか?」


「もちろん食う!」


そうして四人揃って朝食を食べた。

子供が食べる姿は微笑ましくて好きだな。

なんだか癒されるし、頑張ろうって思える。


朝食の片付けが終わった後は、皆それぞれ仕事に向かう。

リリアはユレーナと家事をこなす。

ユレーナはそんなに得意じゃ無いはずだが、それでも上手く教えていると思う。

モクロは街へ噂話の収集に行った。

俺は…どうしよう。

マナ制御のトレーニングするならシルに特訓してもらった方が上達が早いんだよね。

うん、それなら約束の日まで特訓するか!


早速思いつきをユレーナに相談すると、自分も行くと言い出した。

そうなるよね、魔法が絡むと…

ユレーナがついて来るとリリアの先生が居なくなっちゃうからなー。

ちらりとリリアを見たのがまずかったのかも知れない。


「家事など1日あればリリアに仕込んでみせます!今日だけは涙を飲んで我慢しますので、明日からはご一緒させてください!」


やり玉に挙がったリリアは涙目だが、そこまで言われると拒否も出来ない。

リリアにはかわいそうだが頑張ってもらおう。


今朝送り出したばかりなのに、とんぼ返りした俺を見てシルは呆れていたが、それでも特訓はしてくれることになり、数日間自分の実家に通うというよく分からない状況になったのだった。

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